希と瑞希の試合が終わり、

俺と瑞希と希の三人は体育館を出ようとしていた。

 俺たち三人が体育館を出ると、ものすごい勢いで押しかけてきた何かの群れに、俺は押しのけられた。

神裂 優斗

うおおお!?

 俺は、その勢いで希と離され、人ごみの外に追いやられてしまった。

並木 桃香

 あの、希さん。サインください!

 どうやら、一人の女子生徒が希にサインを貰おうとしているようだ。

神裂 希

 え!? サイン!?

 希が動揺している。

神宮寺 瑞希

良いじゃない。書いてあげれば?

 瑞希が笑って言う。

 「おおおー!」

 「俺も!」

 「私も!」

 次々に声が上がり、体育館の出入り口には、人がごった返していた。

神裂 希

 え、でも。

 サインとかは、考えていませんし……。

 希がそう言うと、サインを最初に頼んできた女子生徒が口を開いた。

並木 桃香

 な、名前だけでも良いんです。ここに書いてください!お願いします!

 その女子生徒は、希に向かって頭を下げている。

 そして、それを見た周りの生徒も、同じく頭を下げだした。

 「お願いします!」

 あまりの迫力に圧倒された希は、しょうがなく名前を書いきはじめた。

神裂 希

 み、瑞希さん。これ、いつまで続くんですか?

 希は色紙に名前を書きながら瑞希に聞く。

神宮寺 瑞希

 次の試合までには終わるでしょう。

 瑞希が平然と答える。

 そして、サインを貰った生徒に対して、サイン代として5千円を生徒から巻き上げている。

神宮寺 瑞希

お金ー、お金ー、お金ー。

 瑞希の顔は満面の笑みだった。

神裂 希

あ、あははは……。

 希はあきらめて、しょうがなく自分の名前を書き続けることにしたようだ。

神裂 優斗

 じゃあ、俺は先に控え室戻っとくからな。

 俺は、二人にそう告げて、控え室に戻った。

 控え室に戻ると、信也と静香が何かを話していた。

神裂 優斗

作戦会議か?

 俺は、信也と静香に聞く。

榊原 信也

 あの瑞希でさえも負けたからな。

 このまま引き下がってはいられない。

 信也が椅子にもたれ掛かったまま俺に笑みを浮かべる。

霧裂 静香

 ええ、瑞希の仇は私がとります。

 机に頬付け、だらりとしている静香が言う。

榊原 信也

 そう言えば、瑞希は?

 信也が思い出したかのように言った。

神裂 優斗

 ああ、恒例のイベントだよ。

 俺は、そう言って、控え室の椅子に座った。

 Sクラスに編入する可能性のある生徒が出てくると、必ずと言って良いほどにこのイベント、つまり、サイン会が発生する。

 これは、本来なら、歓迎会前に起こるはずのイベントなんだが、希の場合、編入生ということだったので、今、イベントが起きているという状況だ。

榊原 信也

 へえ、で? 何人来た?

 信也が俺に聞いてきた。

神裂 優斗

 ああ、信也の次くらいの集まりだったよ。

榊原 信也

 へえ、これは資金がたくさん入るな。

 信也が呟く。

 すると、ドアを勢いよく開き、瑞希が控え室に入ってきた。

神宮寺 瑞希

 いいえ、信也を上回ったわ!

 控え室に入ってきた瑞希が、俺の後ろで言った。

神裂 優斗

 おい、いきなり大きな声を出すなよ。

 俺は瑞希に言った。

神宮寺 瑞希

 ほら、これ見て。

 そう言って、瑞希は片手に持ってきたジュラルミンケースを開いた。

 そこには、大量の引換の半券と五千円札の束が沢山あった。

榊原 信也

 すごいな。いくらあるんだ?

 信也が瑞希に聞く。

神宮寺 瑞希

 さあ?

 途中まで数えていたけれど。

 めんどくさくなって、数えるのをやめたわ。

 瑞希が言う。

霧裂 静香

 信也以上の人気ですか。

 これは予想以上ですね。

 静香は、頬を机から離し、ジュラルミンケースの中の紙幣を見る。

榊原 信也

 でも、今は、静香が勝つ方法を考えないとな。

 信也は、椅子から立ち上って言った。

神宮寺 瑞希

 そうね。一応なんだけど、希の今までの戦闘データは取っておいたわ。

 瑞希がそう言って手に持っていたタブレットを操作し、控え室の大きな机に向かってデータを送った。

  すると、机の上に、半透明の立体ディスプレイが起動し、希に関するデータが空中に浮かび上がった。

榊原 信也

 おお、こんな機能があるのか。

 信也が驚いている。

神宮寺 瑞希

 知らなかったの?

 誰でも知っていることよ。

 備品説明のときに説明があったじゃない。

 瑞希が、空中に浮かび上がったデータを指で操作し、データを整理しながら言った。

榊原 信也

 あー、休んでて行ってないわー。

 信也がわざとらしく言う。

神宮寺 瑞希

説明があったのは始業式よ?

榊原 信也

 え? じゃあ、何で聞いてないんだ?

  信也は首を傾げる。

神裂 優斗

 どうせ、女子生徒でも口説いてたんだろ?

 俺は、信也に言った。

榊原 信也

 ああ、思い出だした。

 あの時、可愛い女子見つけて口説いてたら、新道に捕まって説教食らってたんだ。

 信也が思い出すように言った。

霧裂 静香

 サイテー。

神裂 優斗

サイテーだな。

神宮寺 瑞希

 一回死ねば?

 俺たち三人は信也を非難した。

榊原 信也

 ちょっ!

 二人のサイテー発言も良くないけど、瑞希の発言は度を越えてない!?

 信也は三人の心無い発言意対し、精一杯反論したが、その反論が通ることは無かった。

第三十話:《作戦会議1》

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