光里

今日も働いてるのね

和馬

…いらっしゃいませ

昨日また来るとは言っていたが、本当に来るとは思っていなかった
懐かれたのだろうか?変な客に?

疑問符を頭の中で大量生産しながら光里のもとへ注文を聞きにいく

和馬

またかき氷っすか?

光里

yes!
蜜無しでお願いね

氷を削りながら、視線はちらちらと光里の方を見ていた
熱いと言う割には、長袖のカーディガンを羽織って降り、大きな麦わら帽子に日傘。くるぶしまで伸びてるスカートの裾からは線が細く、白い足首が覗いているのであった

和馬

なんつーか、結構重装備っすよね

光里

日焼けは乙女の天敵なのよ

和馬

なら、屋内のショッピングモールとかに行けばいいんじゃないっすか
確か海嫌いでしたよね?

うーんと唸り声を挙げたあと、閃いたように人差し指を立てる
そして、「そう!」と言いながら和馬の方を指さすのであった

光里

海は嫌いよ

でも、昨日和馬が言ったじゃない。好きなことに忠実に生きろって
私、海は嫌いだけど…海を題材にした話は好きなの。人魚姫とかに会えないかなーって思ってふらっと海に来ちゃうのよ

子供の様に熱弁する光里、
その勢いに圧倒される和馬であった

それからテーブルに視線を落とすと、皿の中の氷は器に沿うように水たまりと化していた

和馬

あ…氷
溶けかかってるけどいいんっすか?

光里

ほんとだ…
溶けちゃってる、早く食べないと!

和馬

本当に氷が好きなんですね
そういえば、どうしてかき氷に蜜を掛けないんっすか?

光里

…そのままが好きなのよ
何にも染まってない、そのままの姿が好きなの

それならみぞれとかもありますよ…なんて提案しようとして、言葉を飲み込んだ
きっとそんな提案をしたところで、彼女の氷に対する愛情は揺るがないだろ。そう思ってしまったのだ

最後の雫をスプーンで上手にすくい、口に運ぶ。それからごちそうさまと手を合わせる…一連の動きが彼女の氷に対する敬意の表れのように感じられるのであった

光里

明日も来てもいいかしら?

和馬

昨日は来るって宣言しといて、今日は許可を取ろうなんて…お客様らしくないですよ
来るなら来るって宣言した方が潔くっていいと思います

光里

そう
じゃあ、また来るわね

そう言い残して、足早に店の外へ歩みを強める光里

浜辺には海水浴客がちらほらと現れてきている、午前中が終わるにはまだゆったりとした時間があるのであった

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