光里

三日連続の皆勤賞

いつも通りの朝の時間帯、光里はいつもより元気そうな表情で海の家にやってきた

和馬

いらっしゃいませー
なんか今日は元気そうですね

光里

だってあんまり暑くないからね

温度計は27度を指し、いつもよりは過ごしやすい温度ではあるが…そんなに温度に敏感な体質なのだろうか?
とりあえず、いつものように氷の準備に取り掛かる和馬。その様子をしめしめと眺める光里であった

光里

だいぶ手慣れた手つきだね

和馬

この時間は特にお客さんも来ないし、何よりこれしか食べないでしょ。あんた

光里

おお
初めてお客様以外の呼ばれ方をした!進歩!!

きゃっきゃっ喜ぶ光里をさぞかしめんどくさそうに和馬は眺めた
今日はなかなか早く帰らない…といった様子だった

「そういえばさー、ひま」っと空言を空中に放して、いいことを思いついたと言わんばかりのキラキラした目を和馬に向ける

光里

しりとりしよ、しりとり!!
じゃあ、好きから

和馬

は、これはしないといけない流れかよ?
…嫌い

光里

え、ひどい。かなりちょっぴりへこんだ気がする
いか!

和馬

門松

光里

か…どまつ?
何だっけそれ?

和馬

あれだよ
お正月になると玄関に飾ったりするやつ

光里

ん~
我が家には無い文化かも

そう言うと、どこか悲しそうな視線を海に向ける
波の音は心地よく、満ちては引いてを繰り返す。潮の香は、肺の中をいっぱいいっぱいに埋め尽くす

光里

和馬は海好き?

和馬

…そうっすけど、光里さんは嫌いなんですよね?

光里

もう一回!!!

和馬

へ?

光里

もう一回。もう一回言って!!!!

「ミスった」
余りにも光里が落ち込んでいるように見えたので、うっかり名前を呼んでしまった。
…しかし、そんなことはお構いなしに光里はずんと顔を近づける

光里

早く!

タイミングを見計らったように、突然開くドア
他のお客さんが入ってきたようだ

そちらの対応に席を離れる和馬

天音

こんなところに海の家があるなって知らなかったー!
隠れ家みたいで素敵な雰囲気、しかもお客さんいないし貸切り状態って感じ

和馬

いらっしゃいませ~

貸し切り状態?
そんなはずはないと先ほどまで光里が座っていた席に目をやると、そこには空の容器と代金。ごちそうさまとナプキンにしたためられた手紙のみが残っていた

和馬

いつの間に帰ったんだろ?

光里

あーあ
危ないところだったな…長居しすぎちゃった
早く帰らないとお父さんに怒られるのかな

誰もいない浜辺
波打ち際にしゃがみこんで砂浜に落書き
人差し指が描く放物線はゆく当てもない。そして波が寄せてはかき消されるのであった

光里

あ…
だから海は嫌い…

三日目 しりとりと波

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