和馬

よーし、今日もいっちょ働きますか

浜辺で軽く運動をし、大きく深呼吸をする
潮風が頬を撫で、日の照り返しが砂浜を熱く熱する

今日も絶好の海水浴日和であった

光里

熱い…熱すぎるわ

和馬

いらっしゃいませ
ようこそ海の家「潮風」へ

光里

ここ海の家だったのね…休憩場所と勘違いしちゃったわ
まあいいわ、それよりかき氷食べたいの。あるかしら?

和馬

味はどうしますか?

光里

そのままでいいわ

和馬

え?

光里

いいから、早く持ってきてくださる?

和馬

か、かしこまりました

和馬は注文されたようにかき氷を作る

最近巷で有名な糖質制限ダイエットでもしてるのか?
…まさかそんな人がわざわざかき氷を注文するか?

頭の中はさっきの少女のことを探ることでいっぱいであった

和馬

お待たせしました、かき氷です

削っただけのかき氷を少女の前に出す

少女はそれを、何のためらいもなく口に運び幸せそうに頬を抑える

和馬

お客様はダイエット中ですか?

光里

…光里でいいわよ
それと、そういうことは口にしない方がいいわよ
モテたいならね

和馬

うっす

光里の忠告を聞き、これ以上の詮索は中断され、和馬は視線を宙に向けた

カタンと音を立て、スプーンを持ち上げる
光里は海の方を眺めながらそっとつぶやく

光里

海って嫌いなのよね

和馬

どうしてですか、お客様?

光里

だから光里でいいって
熱いしベタベタするし、何より日焼けしちゃうじゃない

なら、なぜ海に来たんだと内心ツッコミを入れる和馬

なおも、溶けかけた氷をぐるぐる回して光里は続けるのであった

光里

えーっと
和馬は海が好きなの?

和馬の左胸あたりに付けられた名札をのぞきながら光里は尋ねる

和馬

好きですよ
どの時間帯でも様々な表情を見せてくれる…そういうところいいなって思いますけどね

光里

そう…
でも私やっぱり嫌いかな

空になった器を眺めながら光里は言葉を落とす

光里以外の客がいない早朝の海の家。二人の間を生ぬるい潮風が通り過ぎるのであった

和馬

ま、そういうのもいいんじゃないですか。人間なんですし
海が嫌いでも、海の家で食べるかき氷は好きとか…理由なんてどうでもいいです。自分のしたいことに忠実に生きてなんぼのもんっしょ

光里

ふふ
やっぱりあなたって変な人ね。かき氷もちゃんと持ってきてくれるし。知らない客に自分の持論語っちゃうし…

「それは…」
と言葉を濁す和馬

光里はなおもクスクス笑うのであった

光里

そういうの嫌いじゃないわよ
…ごちそうさまでした。また来るわね

そう言い残すと、机の上にかき氷の代金を置き外へ出ていくのであった

和馬

変な客…

海の家初日にして変な客に絡まれたな…

あと六日もここでやっていけるのであろうか

初めての場所での仕事に不安を抱きながら和馬は昼の仕込みを始める。今日もまた熱くなりそうだ

一日目 少女のため息

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