ああ……俺のせいで弱ったあなたをゆっくり休ませるために、セイさんはあなたの記憶を一時的に封じて、なおかつトウコさんと一緒にいられるようにして……っていうところですか

もちろん、それもある。そして、その前からも

その前から?

ああ。俺は、あいつに頼んだんだ。

どっかの物語に俺を忍ばせてくれって

……なぜ?

恋がしたかった

 俺の表情を見て、はっは、とエンは笑った。

そんな顔をするなよ。神様は大変なんだ。たまには逃げたくなる

いやいや……驚きますよ。

でも、あれ、ってことは、もともと貴方はこの物語の登場人物として生まれたわけじゃなくて、物語に飛び入り参加した、ってことですか……?

 エンは目を丸くして、さすがだな、と俺の胸を手の甲で叩いた。

旅も慣れてくると、そういった勘が鋭くなる。君は、物語の神様になれるかもな

勘弁してください

はは。しかし、聞いてなかったのか

え?

この物語の作者

 エンはふ、と静かに笑った。

私は、物語を紡いだことはない。

だからよくわからないのだが、この物語の作者が言うに、どうやらキャラクターが勝手に動いてしまった、とのことだ。

もともと、作者の頭の中には、魔王が、つまり君が、サンザシを信じられないがために、神様を、つまり私を殺してしまおうとする、なんて展開、なかったそうだよ

えっと……

この物語の作者は、私に謝ってきたよ。

ごめん、登場人物が思いがけない方向に動いてしまったから、君には少し迷惑をかける。

でも、少し眠ってもらうことになるだけだと思う、ってね。

まさかあんなことになるとは、私も驚いたよ

俺が何かを言う前に、エンは、まあいい、と俺に背を向けた。

この物語を進めよう

いやいや、今の流れでですか!

作者はもう、わかったろ

 エンは、静かに笑う。

君なら

……今までの物語より、何倍も簡単な謎解きですからね

 それはいい、とエンは声高らかに、笑った。

俺も大分『作者』のせいで迷惑被った! 

そのおかげで、大分あいつからの借りはなくなったと思ってるがな

  その日の夜。俺は家に帰って、ベッドに倒れこんだ。

……サンザシ

 返事はない、わかっている。それでも寂しくて、切なくて、つぶれてしまいそうだ。


 こんな状況の俺が、どうやったら、幸せになれる?


 ほんとうに……ハッピーエンドに繋がるのだろうか。

……セイさん

 俺は、暗闇に話しかける。返事はない。でも、彼は答えてくれる、と俺は思っていた。


 起き上がり、俺は叫ぶ。

セイさん! 
セイさん、どこかで見てるんじゃないですか? セイさん! 
物語の神様! 

この物語を作った、神様!

あっはっは、ばれちゃったねえ

うおわあ!

 突如真後ろに現れたセイさんは、いやはや、とベッドの上であぐらをかいて、いつものようにへらへらと笑っていた。

9 記憶があるまま 君との再会(3)

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