……お加減は、いかがですか

……悪い!

ベッドに横になって、俺はけたけたと笑った。
青い宝石が、心配そうに目を伏せる。

……あなたは、サンザシを生き返らせようとしたのです……よね

ああ。前とは違う方法もためしにためしたんだ。もしかしたら生き返るんじゃないかって、やっぱり思ってしまうのは、おろかだよね……

前?

いや……何でもない

 
遡る。


君らの幸せを祈っている、とセイさんに言われ、飛ばされたのは魔王の――俺の屋敷だった。


しばらく状況は飲み込めなかったけれど、屋敷にロジャーがやってきたところで、俺は現状を理解した。

魔王、どうか和平を受け入れてはくれないか? 貴方が、その魔力を悪用しないと誓うだけでいいのだ

 開口一番、真剣な眼差しで語り始めるロジャーを見ながら、俺はなるほどねえとつぶやいていた。

俺は、物語の最初にとばされたってことか

……何のことだ?

いや、いや……それで、えっと、基本的に筋道通りになるはずだから、というかしなきゃいけないんだよね

何をいっている?

ごめん、ごめん。えっと、俺は貴方の希望を受け入れることはできない

 怒るだろうなあとロジャーを見つめていたが、ロジャーはきょとんとしていた。

何だ? ロジャー

……ずいぶんと丸くなったなと

あっはは、そっか。
もっと横柄だったよな、俺は……

……何かあったのか?

頭をぶつけたんだよ

 しっし、と俺は手であっちにいけとロジャーに言う。

俺は折れないよ。どう頑張っても折れません

 これ以上ロジャーと話していると、うっかり仲良くなってしまいそうだと思った俺は、パチンと指をならした。

おい、魔王――

 ロジャーを魔法で外に飛ばして、俺はふうん、と自分の手のひらを見つめる。

 タカシのときにはあんなに憧れていた魔法を、息を吸うように使っている俺は、何だか滑稽だった。

魔法に執着していたのも、もしかしたら魔王のときのなごりだったのかな……

 ふう、と俺はため息をつく。
 このまま待っていれば、サンザシが来るはずだ。
 でも、それがなかなか信じられなかった。

 夢のような出来事は、現実となってやってきた。
 サンザシは、ある日の夜中、あの日と同じように、俺のもとに姿を表した。


 物語の筋道通り、トウコに魔王に会って来ると告げ、オルキデアに許しをもらって。

 ただし、俺との長い長い旅の記憶を、残したまま。

コリウス様!

……サンザシ!

 俺たちは抱きしめあった。
 名前を呼びあった。

 時々サンザシは、ふざけて俺のことをタカシと呼んだ。それも嬉しくて、俺は笑った。


 たくさん笑った。
 たくさん泣いた。


 少しだけけんかもして、それもいとおしかった。
 運命が許す限りの時間、俺たちはできるだけ一緒にいて、最高の時間を共に過ごした。


 運命という名の、物語の筋道は、残酷にもやって来た。
 さようなら、とサンザシは微笑んだ。

大丈夫です、信じましょう――どうか、また

 最後にサンザシは、そう言って、また、消えて。






 俺は、何度も何度も彼女を生き返らせようとした。
 禁忌には、手を出さず。

9 記憶があるまま 君との再会(1)

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