「ありがとう」その言葉を、僕は何度ためらったのだろうか?

「ごめんね」と言った彼女は、不慣れな言葉に少し、ぎこちなかった。

「さよなら」という言葉。
きっとそれは……

また、雨か……

梅雨明けの予報を聞いた翌日、外は土砂降りの雨だった。
傘を忘れた僕はずぶ濡れになりながら喫茶店に向かった。

ふう、靴までびしょびしょだ。

店に着くと、無口なマスターがタオルを差し出してくれた。
「ありがとうございます」と返事して使わせてもらった。

店内には人影はなく、変わらず入口から一番近い窓際の席に腰掛けた。

今日もいないのか……
どうしたんだろう……

この数日、”彼女”の姿を見ていなかった。

僕としては、少し寂しかった。
いろいろと話したいことがあった。
いろいろと相談したいことがあった。

そして何よりも

どんな風になれば良いのだろうと悩んでいた。

まぁ、きっと
「君の好きにすればいい」とか言われるんだろうけど……

だけど、それでよかった。
それが良かった。

彼女に言われること、それだけで何故か安心できていた。

……あ。
雨が上がった。

……どうしたら良いか。

多分そういう選択肢には勇気がつきまとうんだろうな。

どうしたらいいのだろう?
どうでもすれば良いだろう?


多分そんな言葉が出てくるんだろうな。

……

独り言を聞くというのは……あまりよい気分じゃないな。うん

pagetop