慧人

着いたはいいけど…結構混んでるんだな

桜花の指定するアイスクリーム屋の前には長蛇の列が形成されていた

客層は自分たちと同じような高校生が多いみたいだ

桜花

けいちゃん?
先ほどからだんまりみたいですが、どうかしましたか?

慧人

いや
何も考えてないから黙ってたかも

もちろん嘘である
この長い列、どうにかして会話をしなければ…とは思うものの何を話していいか全く分からなかった

桜花はスマホの画面を付けては消しての繰り返し
時々うーんと小さく唸り声を漏らしていた

桜花

けいちゃん、けいちゃん
人ってどうして恋をするのでしょうか?

慧人

は…?
それは桜花のほうが詳しいだろ。恋愛ポエムのスペシャリストだろ

桜花

ち。違います
あれは…先輩に言えない思いのなんて言うか…吹き溜まりみたいな何とかです!

途中もにょもにょと早口になりながらも、その語尾は強めであった
桜花の弁明スタイルのテンプレートである

そして再度、自身のスマホに視線を落とし、弱弱しくつぶやくのであった

桜花

私って変ですよね
同性の先輩が好きだなんて

珍しく弱音を零した

咄嗟にそんなこと無いと思うとフォローしようと口を開きかけるが、桜花の発言にかき消された

桜花は視線を慧人に合わせると、小さくほほ笑む

桜花

でも
さっきのけいちゃんの行動見てたらこれでもいいのかなって思えちゃったんですよ

慧人が忘れ物を届けに来てくれるまでの間、さんざん考えてたこと

普通に考えたら、異常な人間なのかもしれない

しかし、慧人が自分を探し出してくれた
簡単なルートではなく、全部の選択肢を潰してまで私を探してくれたこと

不器用でもいい
可能性があるのなら、全て試してみよう。その後のことはその時考えればいい

そう思わせてくれたのであった

慧人

1つ疑問なんだけどさ、先輩のどこがそんなにいいの?

突然の慧人の質問に桜花は目をまん丸くした

慧人自身も一番知りたいところ。一番もやもやしているところであった

慧人

そんなに悩むくらいに好きってのは分かるけど…先輩は桜花を傷つけるかもしれない
今日だってそうだっただろ

慧人は今日の部活でのことを強めに指摘する

しかし、その言葉は少しばかりの誘導尋問を含むものである

願わくば、この際先輩の好きなところを聞き出して自分に取り入れたい
そんな思惑を含みながら桜花の返答を待つのであった

桜花

そうですけど…
先輩に抱きつかれるの、柔らかくてすきですし…

前言撤回、無理だし勝てっこない
いや、柔らかさなら体重を増やせば…

いやいや、そんなことしても桜花が振り向いてくれないのは分かり切っているだろ自分

だって彼女が先輩の話をするときはいっつもそうだ
恋してる女の子のソレであるのだから

桜花

あ、あと!
とっても優しく強かなところも大好きです

入学式の日に校舎で迷子になってる私を助けてくださって…本物の王子様みたいで素敵でした

思い出に浸りながら、頬に手をあてうっとりとする桜花

慧人は改めて自分の付け入るスキが無いことを再認識させられた
悔しいが、過去に遡ることも先輩の立場を奪うことも不可能である

桜花

でも
今日のけいちゃんもお姫様を守ってる騎士様みたいにかっこよかったです

慧人

それだと桜花はお姫様になるけどな
あー、お仕えするお姫様くらい自分で選びたいっ

桜花

違います、物のたとえというか
私はそういうの向いてないので!!

心とは反対の悪態をつきながら、隣のお姫様の様子を伺う

依然としてそのふくれっ面のまま、メニュー表とにらめっこを開催している。こっちは視線に入れない様子である

桜花

傷ついたくらいでこの気持ちが終わればいいんですけどね

慧人

ん?
なんか言った?

桜花

いえ、独り言です
それよりけいちゃん。きなこアイスもいいと思うのですがほうじ茶も捨てがたいというか…うーん、抹茶もいいなぁ

慧人

欲張りすぎ
ま、ゆっくり考えなよ。注文まではまだまだ道のりは長いぞ

王子と姫と騎士と、おとぎ話の中ではありそうな話
待つのはハッピーエンド…とは限らないのかもしれない

慧人は桜花を見下ろす

慧人

守るのは騎士の役目ってか
…ま、それも有りカモな

桜花

けいちゃん?

慧人

桜花のマネしただけ

そう言うとまた頬を膨らました
不器用役者の狂想曲はもう始まっているのである

pagetop