桜花

勢い任せに部室から飛び出てしまいました

思えば、カバンもお弁当箱も部室に置きっぱなし

しかも飛び出してしまったのも重なって、取りに行くのはかなり億劫であった

桜花

部活終わるまでここで待っていようかな

アスファルトに反響されるつぶやき
吸収はされない…今の私みたいに

「誰にも受け入れられないのかもしれない」
そんな考えがふつふつと浮いてゆらゆらと漂うのである

…それにしても、細い腕に閉じ込められた膝を抱える腕が悪いのか、折りたたんでしまったこの足が悪いのだろうか

私はここから、動けないのであった

桜花

今、何時くらいなのでしょうか

伸びる影に問いかけても、当り前のように返事はない

…いや、返事の代わりと言っていいのだろうか、ほんの少し影が伸びた。形容するなら障害物に遮られた結果、形成された…不自然な影が

桜花

慧人

よっ!

桜花

な、なんですか?

慧人

はい、忘れ物

ただそれだけの言葉だけで十分だった

泣きはらした赤い目、真っ赤に染まった頬、誰が見たって分かる

泣いていたのだろうと

桜花

ありがとうございます
…よくここが分かりましたね

慧人

俺、先輩じゃないから…どこに居るかなんか分からなかった

だから全部探しただけ

桜花

全部ですか!?

慧人

そ、全部
それに約束しただろ、駅前のアイス奢るって

桜花

そうですけど…今度って言ったじゃないですか!

慧人

何となく今日食べたい気分だし
丁度いいから桜花と一緒に行こうかなって

桜花

あは。はははは

だから学校中探すなんて…けいちゃんは苦労人ですね

慧人が自分を探してくれた理由に桜花は噴き出すように笑っていた

なんで
そんなことで
ここまで必死になってくれるのでしょうか?

分からない、けど分からないことがおかしくて、面白くて
自分の悩んでいることすらおかしく思えてしまった

ああ、私はこのままでいいのかもしれない
雫先輩を好きなままで

慧人

やっと笑ってくれた

正直、桜花が泣いているということは予想の範囲内

けど、実際に好きな女の子の泣いてる姿を目の当たりにするのはとてもキツいものがある




できることならあの華奢な肩を抱きしめてしまいたい
…そんな権利を持ってないくせに、そう思ってしまうのである

そんなことを考えていたとはつゆ知らず、彼女は残酷にも俺の体に墓標をぶっ刺してくる

桜花

けいちゃんはいい人ですね

慧人

当たり前だろ
…明日の部活、先輩とか新入生にちゃんと謝っとけよ。特に新入生は心配してたからな

桜花

もちろんです

事務連絡をしないと、桜花のいい人認定に心を抉られて何も言えなくなりそうだった

まだまだこの恋路は誰にも優しくないのである

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