私は一度自宅へ戻り、
少し休息をとって魔法力を回復させてから
エルくんの家へ向かった。


――今回は転移魔法の失敗が3回で済んだ。

少しは上達してきているのかな?
たまたまかな?
 
 

サララ

え~っとぉ、エルくんの家は
この路地を曲がった先だったかな?

あれっ? もしかしてサララ?

サララ

えっ?

 
 
後ろから声をかけられ、私は振り返った。

するとそこに立っていたのは、
エルくんだった。


どこかに出かけていたのかな?
でも行き違いにならなくて良かった。
 
 

サララ

エルくん……。

エル

ははっ、やっぱサララか!
どうしたの、こんなところで?

サララ

えっと……
エルくんに頼みごとがあって
訪ねてきたんです。

エル

そうなのっ?
それで俺の家の近くにいるのかぁ。
うん、いいよ。話を聞いてあげる。
サララの頼みだもんね。

 
 
 

 
 
 

サララ

あ……。

エル

ほらっ、家に行こっ。
お茶を入れるよ。
せっかくだからゆっくり話そう。
色々と話も聞きたいし。

エル

最近、全然会ってくれなくて
寂しかったんだよ?

 
 
エルくんは私の隣に歩み寄ると、
いきなり肩に手を回してきた。
そして家へ向かって強引に、一緒に歩かされる。



私は思わず体を強張らせた。

きっと彼に悪気はないと思う。
思うけど……ちょっと嫌だ。


確かに顔見知りではあるけど
そんなに親しいワケじゃないし、
そういう相手に
急にこんなことをされたら怖い。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
私はエルくんの家に通され、
リビングの椅子に座っていた。

エルくんはお茶とお菓子を持ってきてくれる。
 
 

 
 

エル

はい、どうぞ。
変なものは入っていないから
安心して。

サララ

ありがとう……。

エル

最近は顔見せてくれなかったよね?
どうしたの? 忙しかった?

サララ

あ……はい……。

エル

デリン様って
人使いが荒そうだもんね。

 
 
 
 
 

サララ

そんなことないです!
ご主人様の悪口は
言わないでください!

 
 
 
 
 
私は何を言われてもいい。
でもご主人様のことを悪く言わないでほしい。

確かに冷たく感じる時もあるけど、
それはご主人様なりの考えがあってのこと。
理に適ってる時だってある。



それにみんなは知らないかもだけど、
ご主人様にだって優しい部分はあるんだ……。
 
 

エル

あっはは、ゴメン。
……でもさ、正直な話、
無理難題も命令されてるでしょ?

サララ

そ、それは……。

エル

やりたくないことは裏で奔走して
回避するようにしてる。
デリン様にバレないように、ね?

エル

特に誰かを殺せって命令は
こっそりその相手を
逃がしてるよね?

サララ

っ!?

エル

なぜそれをって顔してるね?
知ってるよ、それくらい。
サララのことなら何でも知ってる。

 
 
自信満々の口ぶり。
まるで全てを見ていたかのような感じだ。


……ううん、本当に監視していたのかも。

エルくんなら下僕のモンスターを使って
探らせていたとしても不思議じゃない。



彼の独断なのか、シャイン様の命令なのか、
あるいは別の誰かが関わっているのか……。
 
 

エル

ついでに教えてあげよっか?
サララが逃がした相手、
そのほとんどはデリン様が
あとで始末してるんだよね。

サララ

嘘っ!?

エル

ホントだよ。
デリン様が見逃すわけないじゃん。
非情さだけは
シャイン様といい勝負だからね。

サララ

そんな……そんな……。

 
 
私は全身に鳥肌が立ち、
胸が締め付けられる思いがした。


だってみんなを助けられたって思ってたのに、
まさかご主人様が
そんなことをしていたなんて……。



でも……ご主人様ならやりかねない……。
 
 

エル

そんなに驚くことなの?
あの人の性格、
俺よりもサララの方が
よく知ってるでしょ?

サララ

う……うぅ……。

エル

サララも少しはデリン様みたいに
非情にならなきゃ。
四天王の使い魔なんだし。

エル

なんなら手取り足取り
俺が教えてあげよっか?

 
 
エルくんはニタニタしながら
私の隣に移動すると、
また肩に手を回そうとしてくる。

私は立ち上がってそれを払いのけ、
彼を睨み付けた。
 
 

サララ

やめてくださいっ!
触らないでくださいっ!

エル

そうそう、
そういう憎しみと怒りに満ちた目。
魔族ならそうじゃなくっちゃ♪

エル

で、俺に頼みがあるんだよね?
聞いてあげる。

サララ

……シャイン様に
お会いしたいんです。
お話ししたいことがあって。

 
 
私はあふれ出す怒りを抑え、
エルくんにお願いごとを伝えた。

そのために私はここへ来たんだから。


するとエルくんは意外にもすんなりと、
ケロッとした表情で頷く。
 
 

エル

なんだ、そんなことか。
いいよ、それくらい。

サララ

えっ? ホントですか?

エル

もちろん。お安いご用だよ。

 
 
エルくんは穏やかに微笑んでいた。


良かった、彼もなんだかんだ言って
話せば分かる人なんだ。

これでご主人様の命令を達することができる。
 
 

エル

…………。

 
 
 
次回へ続く!
 

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