――いよいよご主人様に会える!
私はウェンディさんの案内で
洞窟を進んでいった。
でもその途中、
奇妙な点があることに気が付いたんだよね……。
――いよいよご主人様に会える!
私はウェンディさんの案内で
洞窟を進んでいった。
でもその途中、
奇妙な点があることに気が付いたんだよね……。
あの……この洞窟って
少し変じゃありませんか?
どこがだね?
だって、あちこちに物凄い数の
宝箱があるじゃないですか。
しかもどれも空いていて、
空っぽですし。
あぁ、そのことかい。
なんでだろうねぇ?
ウェンディさんはそう言って
含み笑いをするだけだった。
きっとその理由を知っているんだろうけど、
何か話せない事情でもあるのかな?
ちょっと気になるなぁ。
その後、しばらく洞窟を進んだところで
ウェンディさんは立ち止まる。
ここから先は一本道さ。
迷うことはないだろう。
私は小屋へ戻らせてもらう。
あっ、はいっ!
案内してくださり、
ありがとうございましたっ!
私が頭を下げると、
ウェンディさんは来た道を戻っていった。
それを見送ってから、道を進んでいく。
道の先は広いフロアになっていた。
天井も高くて、ホールみたいな感じがする。
すごく静かで、
足音や小石を弾いた音が大きく反響している。
そのフロアの隅に見える結界魔法。
そしてそこには――
…………。
ご主人様……。
ご主人様の姿があった。
目を閉じて座り、静かに瞑想をしている。
やっと見つけた。やっと会えた!
私ははやる気持ちを抑えきれず、
そこへ向かって駆けていく。
ご主人さまぁ~っ!
っ!? サララっ?
私の姿に気付いたご主人様は
目を丸くしていた。
最後に顔を見てから
そんなに時間はたっていないはずだけど、
すごく懐かしい気がする。
ずっと会っていなかったみたいに……。
ご無事で良かったですっ!
…………。
……お前、ここへ何をしに来た?
ご主人様の気配が突然消えたので、
心配になって……。
でかしたぞ。
さっさとこの結界を破れ。
えとえと……
私の力ではそれは無理かと……。
結界を張ったのは
勇者様なんですよね?
お前、どこでそれを知った?
洞窟の入口にある小屋で
ウェンディさん――えと、
おばあさんから話を聞きました。
そういうことか。
魔族以外なんかと連むとは、
けしからんヤツだ。
う……ごめんなさい……。
で、そいつはきちんと
殺したんだろうな?
勇者の一味と知って
放っておいたりはせんよな?
……えっと……はぃ……。
私は嘘をついた。
だってそう言っておかないと、
ご主人様の機嫌がますます悪くなるから
それにもし生きていると知れたら、
結界から解放された時にご主人様は
きっとウェンディさんを殺してしまう。
……分かった。
生きているならさっさと始末しろ。
えっ?
お前が嘘をついていることくらい
すぐに分かる。
この馬鹿者がっ! 使えんヤツだ!
ヒッ……。
もしこれ以上、
俺の怒りを買いたくなければ
早々に始末しておけ。
俺が直々にむごたらしく
殺してやってもいいぞ?
楽に死なせてやった方が、
そいつも幸せだとは思わんか?
……言う通りに……します。
それでいい。
あんなに優しい人の命を奪うなんて嫌だ。
もう抵抗する力もない人だし、
そんなことは……したくない……。
ご主人様にバレないうちに逃がさなきゃ……。
それにしても
ご主人様を封じるなんて、
勇者様の力とはすごいのですね。
俺を封じたのは勇者ではない。
その一行にいた謎の女の仕業だ。
何者なんですか?
俺が知るか。
だが、今の勇者一行の中では
最も警戒すべき存在だ。
剣も魔法も恐ろしくレベルが高い。
ご主人様にそこまで言わせるなんて
相当な方なんですね。
おそらく実力は
シャインやクロイスと同等――
あるいはエミットに
迫るかもしれん。
えぇっ!?
シャイン様やクロイス様、
エミット様というのは
前魔王様時代から四天王だった方々だ。
立場はご主人様と同じでも実力は桁違い。
少しでも気に障るようなことをすれば、
私なんか一瞬で滅されてしまうと思う。
お前の力で結界を破れないなら、
破れるヤツを呼んでこい。
そうなると、
魔王ノーサス様?
バカか、お前はっ!?
魔王様のお手を煩わせるな!
でもぉ、魔王様なら
私が頼めばきっと……。
私は魔王様と出会った時に気に入られて、
すごく優しくしてもらっている。
個人的なお願いごとも聞いてくれるし。
逆に私がお城に呼び出されて、
直々に任務を命じられることもあるけど。
魔王様はまだ即位して間もない。
エミットとともに魔界の統制で
忙しいのだ。
では、どなたに頼めば
よろしいのですか?
……シャインだな。
お前、シャインの使い魔と
仲がいいだろう?
えっ?
あの……それって……
エルくんのことですか?
名前など知らん。
そいつを通じて
シャインに繋ぎを付けるんだ。
…………。
エルくんはシャイン様の使い魔で、
私とは確かに顔見知り。
でもちょっと――ううん、かなり苦手。
会うといつも体にベタベタ触ってくるし、
生理的にあまり受け付けない感じ。
できれば会いたくないな……。
シャインならこの結界を
なんとかして破るだろう。
ヤツに借りを作りたくはないが、
やむを得ん。
……分かりました。
ご主人様を助けるためなら。
ただし、
ここに俺が封じられていることを
シャインに伝えたら、
すぐにヤツから離れろ。
そうだな、
お前は魔王様から直々に
任務を受けているとでも言えば
納得するだろう。
なぜそんなことを?
私が問いかけると、
途端にご主人様の機嫌が悪くなった。
あの目つき、かなり怒っている……。
……知る必要はないっ!
お前は黙って
俺の言う通りにしていればいい!
分かったなっ?
俺の許可が出るまで
魔界のどこかへ隠れていろ。
……はい。
よし、さっさと行け。
こうして私はご主人様の言われた通り、
行動することにした。
――まずはエルくんに会わないと。
次回へ続く!