信一郎

まぁ、ゆっくりとしてくれ二人とも

陽菜

…………

…………

……もう、この日は集まらなくてもいいのに。
なぜ私はここにいるんだろう。
狼は死んだ。多分、だけれど。
明日まで、せめて休みたい。
なのに、ここにいる。

信一郎

警戒しているのかな
……仕方ないか
二人は互いを白だとわかる
共有者みたいなもんだからね

お菓子の人は、自殺した。
頭を銃で貫いて。
あの死体は、どうしようもなくて。
私達は、そこから黙って逃げ出した。
死体から目を逸らして、自分の部屋に戻る。
そうしたかった。
だけど、車屋さんが私と神田さんを止めた。
ほかの人は去ってしまっているのに。
私たちだけを。理由は、わかっている。

陽菜

きょーゆーしゃ?

このゲームにはない役職のことだよ
互いを認識できるペアの役職

理解していない神田さんに軽く説明しておく。
その様子を見て、車屋さんは私に聞いてきた。

信一郎

逆井……君はやはり経験者か

一応、だけど
そういう車屋さんも知ってるんでしょ?

信一郎

まーね

さっきの一言といい、『我こそは』のくだりで疑っていたけど、今確信した。
車屋さんも、人狼ゲームを知っている。
この人も、経験者だ。

信一郎

僕はもともと、学校のミステリーを専攻している部活に所属しているんだ
将来はミステリー作家になりたくてね

信一郎

それにおいて、推理ゲームの代表と言われる人狼ゲームを幾度かやったことがある
こんな状況じゃない
無論単なるゲームとして、だ

信一郎

まさか、こんな事態になるなんてね……
恐ろしいもんだ
事実は小説よりも何とかとはよく言うよ

ミステリーに関する部活……か。
これは手強い。
推理に慣れている人間にはゲームは有利になる。
私はあくまでゲームに慣れているだけ。
推理とかは、私の範疇にはない。

陽菜

ふーん……

神田さんは興味もなさそうに半分しか聞いていない。
ずっと私の近くにいて、いざとなればすぐ逃げられるようにしている。
ここは車屋さんの部屋だった。
妙に古臭い和室で、私の部屋とはまた趣が違う。

…………

私は黙って続きを促す。
車屋さんは、睨んでいる神田さんに苦笑して続ける。

信一郎

言いたいことはわかる

信一郎

二人の視点……この場合は、占い師と村人の視点では互いが白だとすぐに分かる
確信は村人サイドにはないけど
だけど占い師からは少なくても狐と狼ではないことは確実だ
信用には値するだろう
もしも、自分と反することをいえばそいつは狂人になるからね

信一郎

つまりは歪ながら信頼関係を築けている
だけど、僕の場合は二人して確かめる方法がない
自称霊能者に過ぎない僕を警戒するのは当然だと思うよ

信一郎

まあ、僕は今夜追放された高橋を調べて、黒だった場合は二人を信じることができる
あの発言は、間違いなかったとね
あの時あの瞬間に、彼女が君たちを庇う理由があるとすれば、無駄な死人を出さないための最期の意地だろう
彼女は正しくあろうとして失敗して、その責任を取るためにわざわざ自殺した
そういうことさ

よくもまあ……そこまで細かく

信一郎

褒め言葉として受け取っておくよ

この短時間でよく、そこまでの正確な分析ができるものだ。
お菓子の人は正しくあろうとした、それはわかる。
だけど結局自分の生命を優先し、だけど自責の念に堪え切れずに焦って結果として自滅し、バツを受けると言って自分で死んだ。
ここまでの言動を見ていれば納得出来る。

陽菜

一つだけ聞いていい車屋さん?

信一郎

なにかな?

陽菜

車屋さんが『狂人』の可能性はないの?

!!

信一郎

……今分かったよ、神田
その態度の根本が見えた
僕を最初から信じる気がないんだね

陽菜

今頃気づいた?
悪いけど、あたしは信じてないよ

神田さん……まさか。
車屋さんを疑っているのか。
睨みつけているのは、それが理由?

陽菜

車屋さんは一々言動が芝居かかってるし
言葉に、色や温度を感じないよ
正直言って、今でも気持ち悪い……

神田さんはそう言って、首を振る。
芝居かかった言動、というのは確かにそうだ。
車屋さんは今まで超然と言うか、常に余裕がある。
取り乱すこともなく、冷静に物事を見つめる。
それが、不気味に見えると言いたいのだ。
色や温度とは恐らく、言葉に感情がない。
芝居のセリフを喋り演じているかのよう。
嘘くさい言動に、不自然な余裕。
故に、信じることができない。

信一郎

そこまで言うか……

あ、ちょっと落ち込んでいる。
神田さんの言葉に、ようやくそれらしく私にも見える。今まで余裕綽々だったのに。

信一郎

これはね、素の性格だよ
よく言われるけど
曰く、僕はドライな人間なんだそうだ

信一郎

性欲に枯れ果てているとか、まともな感情がないとか、そもそもお前人間かとか
まー学校じゃ言われたい放題言われてる

信一郎

ついでに中二病だとか気障野郎爆発しろとか誹謗中傷なのかも分からないことも含めて
僕のこの性格は父親に似たんだ
余裕があるように見えるのは取り繕っているからさ
僕だってかなりビビっているんだ

陽菜

うそくさー……

神田さんに同感

この見るからな超生物が自分人間デース、と言って誰が信じるか。
絶対この人のこれは演技とか入っている。
目的はわからないけど!

信一郎

疑っているなら証明してもいい
どうする?

結局、こうなる。
神田さんは暫し考えて私に問う。

陽菜

……狂人は、狼を認識できないんだよね?
狼も、狂人がわからない
要するにそれは態度で察してくれってことになるよね

そう、だね……

狂人は、とても難しい役だ。
特に能力はなく、ただ己の言動だけで狼と思われる二間を擁護しないといけない。
公衆面前で、だ。
嘘を武器に、場を混乱させて勝利に導く。
だがあからさますぎると、逆に吊られる。
それでいて、仕事をしないと狼に噛まれる可能性がある。
互いを認識できないゆえ、自滅することもよくある。

陽菜

あたし、思うんだ
車屋さんが仮に狂人だとして
それで今、この場であたし達を混乱させてどうにかできる?

うーん……
私を狙っているんじゃ……

私は場を仕切る占い師だ。
私を混乱させれば、それだけで場は乱れる。
だが、神田さんは否定する。

陽菜

違うよ、逆井さん
だったら高橋さんみたいにすればいい
タイミングが、ここじゃあ遅い

!!
そっか……。
確かに今、という状況で考えると不自然極まりない。
車屋さんが狂人ならば、確定白の私と神田さんを自室に招きこみ、相談の真似事をする意味がない。

陽菜

あの状況で霊能者が何も言わずに潜伏するなんてこと、ないと思うんだ

陽菜

一日目に既に眼鏡、殺してるじゃない?
それの有無を確かめるにも、霊能者が今日潜んでいちゃいけないと思うんだ
それで偽物が出てきて支配されたら、逆井さんみたいにカウンターしないとポジションが奪われる
それは、痛手だよね?

信一郎

その通りだよ、神田
潜伏は正解ではない
絶対に悪手になる

陽菜

炙り出しならカウンターで出来る
なのに、何もなかった
……つまりそう考えると、あの状況なら本物と見ていいんじゃないかな?

あれ。
自分で疑っておいて、自分で疑惑を晴らしていく。
どうしたんだろう神田さん。
と、思ったら。

陽菜

うぅー……
理屈はいやだぁ……
この人本物じゃん……
あたしの本能が車屋さんを嫌がってるのにぃ……

信一郎

何気に失礼だね!

頭を抱えて懊悩する神田さん。
理屈では納得しても本能が嫌がっている様子。
だから疑っていたのか……。

陽菜

変なこと言ったら殺す!

信一郎

なぜだ!?

陽菜

本能的に信じたくないから!

何を言い合いっているのだろう、この二人。
もう疑心暗鬼にならなくてもいいのに。
どうすればいいのだろうか私は。

陽菜

取り敢えず今回は信じてあげる
でも、ちゃんと仕事してよね!

信一郎

言われなくてもそうするさ

あ、収まっていた。
よくわからないけど。
一応この日はグレーを占うことにした。
一体、今宵は誰が狙われるのか……。
考えるだけで怖かった。

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