……ああ、いいさ
ここまできたんだ
今更抵抗はしない

思った以上に、お菓子の人は諦めが良かった。
だが瞳に死にたくない、という色が見え隠れする。
その割に昨日のあれを見ているからか、大人しい。
ふっ、と溜息をついて私に聞いてきた。

逆井、お前はどこを占った?
言っていなかっただろう

神田さん
あの人は白だったよ

聞かれると思っていたので間入れずに答えた。
私視点から見れば、神田さんは白。狼じゃない。
お菓子の人は、一度だけ頷いた。

そうか……

残り時間はまだある。
聞きたいことはまだある。
でも、聞いてみる価値がない。
意味もないし、時間の無駄だ。
やってみてもいいのだろうか。
でも、どうやら聞ける雰囲気でもない。
諦めよう。

陽菜

逆井さん……
あたしのこと、調べてくれたんだ……

昨日別れを告げたばかり。
神田さんは一方的に信じると言っていた。
それが、本当のことなのかどうか。
私はそれを調べる手段があったから、使った。
裏を返せば、神田さんを信用していなかった。
なのに、彼女は。

陽菜

……うん
これで、もう疑い合う必要なくなったね

陽菜

ありがとうね、逆井さん

…………

私にお礼を言ったのだ。
疑ったのに。信じてなかったのに。
彼女は別れなくてもいいよねって。ありがとうって。
そう、言うんだ。

私は……

陽菜

よかった……
これで信じあうことが出来るよ
あたしは逆井さんとこ疑いたくないし

何も言うなと。
謝らなくてもいい。
仕方ないことだから。
私のことを、ただ信じる。
神田さんはそれだけでいいと言った。

そうは言うが……
一つだけ、反論があるぞ逆井
先程の方法についてだ

お前も、根本的なことを見落としている
僕同様、な

あぁ……そういうことか。
大体言いたいことは分かった。
つまりはさっきの証明のことか。
知っているよ。それぐらいは。

見落としてなんていないよ
『証明』の真偽の有無
私以外に本当にそれが真実かどうか、知り得ないって言いたいんでしょ?

気付いていたのか……

お菓子の人は降参して、ならいいと言う。
指摘したところで、私は動じない。

うん、でもそんなの基本的に無理だよ
自分しか知らない方法だから
真偽の確かめは、他の人はどうしようもない
それこそ、私が死にでもしないと

あとは……
占った人が私を本物だと言ってくれること
それぐらいしか生きている最中は出来ない

陽菜

逆井さんは本物だよ!
あたし、実際狼じゃないし!!

身振り手振りで賢明に皆にアピールする神田さん。
私は本物だと。
周りの反応はまちまちだった。

信一郎

逆井が本物の確率は、まぁ高いだろうね
でもそれは、神田が肩入れしていなければの話だ
見るからに、感情的になっているだろ?
神田と逆井がグル、つまり狼二人の可能性もないこともない

こんな状況だ
下手に馴れ合っていると、疑われるぞ二人とも

車屋さんと上田さんはそう言うが、私たちを疑っているような目線ではなかった。
程々にしておけ、という呆れた視線だった。

桃子

…………

あの人は私と神田さんを睨んでいる。
完全に信用していない目付きだろうな。
元々、性格的に相性悪そうだし。

日和

あたしはどうでもいいけどね……

恵介

俺は根暗とアホを信じるがな

そっぽをむいている完全中立の卜部さん。
チンピラは意外に私の味方をしてくれている。

恵介

オメーの面ァ、見ればわかるぜ
ビビりに見えて、クソ度胸がありやがる
相当な胆力の持ち主だぜ、こいつぁ

恵介

そういう奴ぁ、決まって騙しとかしねえ
そんなもんしなくても乗り越えやがるからな

買い被りすぎ……

どんだけ私を過大評価しているんだこの人。
私はただの凡人で、空気で、地味な女なのに。
ビビリだし、チキンだし、臆病だし。
糞度胸とかないもん。ただの高校生だもん……。

ともあれ、僕の死は回避できない
じゃあ自白しておこう
僕は一人目の『狼』だ

!?

白状した……ッ!?

嘘……でしょ。
確かに、投票で結果は覆らない。
だったとしても、こんなにあっさりと負けを認める狼がいるなんて。
私も経験したことのないタイプだった。
お菓子の人は、壁に寄りかかってポツポツ説明する。

昨晩……羽田君を殺したのも、僕だ
もう一人の狼が殺しを嫌がってな
投票した後、引っ込んで出てこなかったんだ

仕方ないとは思う
突然人を殺せと言われたんだ
拒否するのは当然だろう
だけれど狼も時間制限が設定されている
殺さないと、こっちが殺されるんだ
嫌でも行動せざるを得ない

だから……僕が殺したんだ、この手で

罪の自白。
懺悔のように、彼女は続けていく。
本位ではないのは、見ればわかる。
強い後悔、強い悲しみが浮かぶ目。
混ざりすぎて、澱んでいる。

最期だ、君に伝えておこう
ここから先は、一人で行ってくれ
僕はここでゲームオーバーのようだから

でも……殺したくないと何時までも言っていると、君は死ぬ
殺しても死ぬ確率はある
どっちを選ぼうが、恐らく結末は変わらない

殺したくなければみんなに殺してもらえ
少なくてもそうすれば罪の意識は薄れる
僕たちに許された最期の贖罪は死だけだ

僕は、正直ホッとしたよ
人殺しをしておいて、のうのうと生き恥を晒さなくてよかったと分かったから
やっぱり、人殺しには相応の罰がいる

死にたくない一心で殺したとしても
後悔しない訳がないんだ
何も思わないのか?
僕達は人を殺したんだぞ?
君も僕も羽田君を殺したのは変わらない

自己正当化をするのはいいけどな
それは間違った解釈だ
君は正しくない
僕と同類のただの殺人鬼だ

僕は裁きを受けるぞ
法は僕を裁けないのならせめて……
彼らの為に贄になるぐらいはしておくよ
それぐらいのお詫びはしなければな

僕はこれ以上、人を殺すぐらいなら死んだほうがマシだ
だから、ここで死ぬ
昼間だろうが夜だろうが、もう人殺しは沢山だ!

残されたもう一人への、糾弾だった。
お菓子の人は、死にたくないと思っているけど、死にたいと思っている。
人を殺したか過去を背負って生きるのは嫌。
罪悪感を感じたままいるのは辛いから死ぬ。
それが、彼女の選択した結末。

さぁ、何か武器をくれ!
僕は勝手に死ぬ!
もうこんな茶番はうんざりだ!
僕は降りるぞ!!

お菓子の人は暗に自殺するから、放っておいてくれと言いたいようだった。
私が武器を収納している一番木箱に近かった。
鍵を開けて中をあさって、彼女に向かって拳銃を放る。

逆井……助かる
迷惑をかけたな

勝手に死ぬのね?
じゃあ死んで

私が言うと、首肯。
そして周りを一瞥し、お菓子の人は言った。

分かっているとも
みんなも迷惑をかけてすまなかった
僕は自分で死ぬことにしたよ
悪いが、もう一人の事は言えない
その程度の義理はあるんでな

信一郎

だろうね……
あわよくばと思っていたけど、残念だ

車屋……
貴様は僕に人殺しに加えて、裏切りまでしろというのか?
そこまでクズにはなりたくないんでな
悪いが秘密は墓場まで持っていかせてもらおう

車屋さんも私と同じことを考えていたようだ。
堂々と言うと、お菓子の人は睨みつけている。
肩を竦める彼は続ける。

信一郎

了解だよ、高橋
潔く死にたいなら死んでくれたまえ
ただ最期に、あの二人の真偽をしてくれたことだけは感謝しているよ
余計な殺し合いをしないで済む

迷惑をかけてしまったからな
出来ることはしておいただけだ
礼を言われることをした覚えはない
あの二人は僕の仲間じゃないからな
勘違いして、殺すんじゃないぞ

狼直々の証明。
私たちは仲間じゃない。
車屋さんこと霊能者が明日彼女の真偽を確かめる。
これで黒と出れば、恐らくは真実。
彼女に今、嘘をつく理由はない。

信一郎

……不幸だったね、お互いに

信一郎

それじゃあ、さようならだ高橋

車屋さんが私達を払うようにジェスチャーする。
目を向けるな、という意味だ。
私含めて、全員が背中を向ける。
彼だけはどうやら、死に様を見届けるようだった。
しっかりと眼を開いている。

……あぁ、さようなら

悲しそうな声と共に、一発の銃声が室内に響き渡った……。

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