「それは駄目だ」
と局長が言った。
「何故です?」
僕は声を荒げる。
「どう考えてもこの数字は
おかしいじゃないですか」
「そんなことは解っている」
局長が書類に目を落とす。
「だがこれで
通さなければならない」
「しかしこれでは
明らかに結果とずれます」
「解っている。
もう決まったことだ」
局長は話はそれで終わりだと言わんばかりに僕から目を逸らした。僕は続ける。話は終わりじゃない。
「そんな、おかしいですよ。
それじゃあ最初から
調べる必要なんて
無かったじゃないですか」
「調べたという
事実が必要だったんだ」
局長は僕を無視したまま忙しそうに引き出しを開けた。安い金属の擦れる音がする。
「納得出来ません」
「出来なくてもするんだ」
「出来るわけないでしょう。
おかしいのは事実です」
すると局長はいかにも腹立たしそうに僕を睨み上げ、勢いよく引き出しを閉めた。乱暴な音が鳴った。
「そんなことは解っている。解っていないのは君だけだ。この数字で納得するともう決まっているんだ。これで丸く収まるんだ。余計な波風を立てるな。君も男なら一度決まったことに口を挟むな」
深夜になって僕は家に帰り、深い藍青色のソファーに座って、ショットグラスに注いだウイスキーを叩き潰すように呷った。
「どうかしたの?」
ベッドの中から彼女が言った。
「喧嘩をしてきたんだ」
僕は答えた。