植物に呪われてしまったこの町で、人間に出来る事は数少ない。以下注意点を書き記す。

 まず、目に付く緑色にはとにかく近付いてはならない。例えば何も知らぬ貴方の三歳の息子が無邪気に緑色へ近付いて行った場合、あなたは息子を諦めるべきである。運が良ければ六十時間ほど後になって、枯れ蔦でぐるぐる巻きにされた息子の干乾びた死体を拾う事が出来るかもしれない。

 次に、赤や白や黄色に開いた、要するに全ての色の花に手を触れてはならない。当然それらは獲物を捕食する為の罠である。花はありとあらゆる色彩、得も言われぬ芳香や甘い蜜で貴方を誘惑するが、その誘惑に負けて花に触れたが最後、貴方の手は鋭い花弁に噛み付かれてしまう。抜け出すためには手を切断するしかない。同じ理由で花を踏んでもならない。ただし園芸用の手袋と長靴が有るならばその限りでは無い。

 また、死んだ花を持ち帰ってはならない。植物は貴方が想像する以上の耐久性を具えている。一見死んだように見えても実際には死んでいないことが多い。万一死んだと思っていた植物に水を掛けてしまった場合、植物は即座に活動を再開し、家中に根や茎を伸ばして貴方の財産を喰らい尽くすだろう。これは貴方自身は基より、周辺住民にも多大な迷惑をかける始末となる。

 このような事態に陥らぬよう、細心の注意を払い生活すべし。無論、鎌と火炎放射器は常に携帯するべきである。





使用背景:
S大文芸同好会「オオキンケイギクの花・地」
https://storie.jp/creator/illustration/75618

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