やっとの思いで屋上に逃げ込んでから一夜明け、昨日の雨空が嘘のように晴れた。瑞々しく爽やかな青春のような空気は、我々に希望を連想させた。だが足元に迫るかさかさした蟻の足音がすぐさま我々の目を覚まさせてくれた。一旦希望を抱いた分だけ訪れた絶望は深かった。おまけに耐えがたい空腹が絶えず我々を襲った。我々は溜まった雨水を飲んで何とか飢えを凌いだ。

 フェンスの隙間からそっと下の様子を窺う。力自慢の蟻が壁をよじ登ろうと試みている。我々を助けに来た上司の佐藤さんが屋上から墜落して死んでいた。部下の前で恰好を付けたかったのだろう。だが何の装備も無しに屋上から飛び降りれば誰でもそうなる。所詮は佐藤さんだ。愚図め。

 私は雨水と戯れる彼女の滑らかな背中を眺めながら、ポケットの中のガムシロップの残数を確認した。ポーション二個分。少な過ぎる。明日まで生きていけるかどうか解らない。諦めた方がいいかもしれない。

 その時、太陽と同じくらいの輝きを放って一機のジェット飛行機が近付いてきた。扉を開け、豊富な支援物資と共に一人の男が降り立つ。それは我々の想像だにしない人物だった。

「あなたは……伝説の英雄!
 白蟻駆除のまさお!」
「もっちり」

 まさおのゴーグルがキラリと輝く。





使用背景:
彩 雅介「屋上で見る青空」
https://storie.jp/creator/illustration/45471

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