やっとの思いで屋上に逃げ込んだは良いものの、そこから先の展望は無かった。屋上へと通じる扉は全て封鎖してきたが、それだって何時まで持つか解らない。我々は自ら袋小路に逃げ込んだようなものだ。朝から続いた曇天はますます重みを増して、無様な我々を嘲笑するように冷たい雨を降らした。傘を持たない我々はただ濡れるしかなかった。濡れた服が張り付いて体温を奪う。せめてもの抵抗に我々は服を脱いで抱き合った。震えているのは寒いからだけではない。
フェンスの隙間からそっと下の様子を窺う。駐車場は既に蟻に占拠されてしまっている。沢山の触角と複眼が悍ましく蠢いていた。我々を逃がすために体を張った上司の佐藤さんがバヅーカ砲で頭を吹き飛ばされて死んでいた。部下の前で格好を付けたかったのだろう。まあ私は彼の事が嫌いだったからどうでもいい。
私は彼女を抱きしめながら、ポケットに手を突っ込んで残りの角砂糖の数を確認した。一ダースプラス四個。少な過ぎる。道中でばら撒き過ぎた。覚悟を決めた方がいいかもしれない。
その時、曇天を裂いて一機のヘリコプターが近付いてきた。プロペラの爆音の中、縄梯子を下ろして一人の男が屋上に降り立つ。我々はその姿を見て呆気に取られた。それは予想だにしない人物だった。
「佐藤さん!
死んだ筈じゃ……!」
「あれは影武者だ」
佐藤さんの眼鏡が光った。