ミユ

……残念だなあ



 早速、席を変える。私は、窓際の後ろから二番目の席だった。北川くんは、真ん中の前から二列目。隣の席になった女の子と、二人で喋っている。

 せめて、二人が視界に入らない席だったらよかったのに。そうすれば、こんな黒いもやもやした気持ちを胸の中に感じなくてもいいのに。

ねえ


 そんな中、私の後ろの席の男の子が声を上げた。

俺、目が悪くて黒板見えないから、一列目か二列目の人たちに変わってほしいんだけど、誰か変わってくれる人いない?

工藤先生

だってー誰かいる?

タツキ

はいはいはい!


 何人かの生徒が手を上げている。その中には、北川くんも含まれていた。

工藤先生

じゃあこれで帰りのホームルーム終わりにします。きりーつ。さようなら

ミユ

さようなら


 一斉に鞄を持って、みんなが部活や塾へと向かい始める中、私も荷物を整理していた。

タツキ

やっぱ俺、運いいかも


 じゃんけんを無事に勝ち抜き、私の後ろの席を勝ち取ったのは、北川くんだった。

 北川くんにずっと後ろ姿を見られているかと思うと、授業中はいつもよりさらに気が抜けなかった。

タツキ

できれば、立花さんの隣がよかったけど、後ろ姿が見られるっていうのも、なんかイイね


 イタズラな笑みを浮かべる北川くんのセリフを、どういう意味か頭の中で必死に考える。

タツキ

立花さん、俺……立花さんのこと、好きだよ

ミユ

えっ!?


 北川くんの言った言葉に、思わず大きな声で聞き返してしまった。


 だって、今、私のこと好きって言った、よね……?

 まだ、教室には人がいる。数人でがやがやとおしゃべりをしていたせいか、こっちの会話は聞こえてはいないようだった。

タツキ

立花さんが、好きです。付き合ってください


 私の目を真剣な表情で見てそう言う北川くんの瞳に、射抜かれる。

ミユ

私も……北川くんが、すき、です


 人に聞かれないようにと思って言葉にしたら、語尾が消え入りそうになってしまった。

 それでも、私の言葉を聞いた北川くんは、ぱあっと目を輝かせて笑顔になった。

タツキ

ほんと、に?

ミユ

う、うん

タツキ

ほんとのほんとに?

ミユ

ほんとのほんと、に

タツキ

や、やったー!!


 北川くんが万歳して大声でそう言うと、クラスのみんなは一斉にこちらを振り返った。

タツキ

あ、ごめん。嬉しくてつい


 はにかむ北川くんの笑顔が、とても好きだと思った。

タツキ

俺だけがこんなに好きなのかと思ってたから、嬉しい。超嬉しい

ミユ

北川くんだけじゃ、ないよ。私もまた隣になりたいなって、思ってたもん……


 北川くんは、少し顔を赤くして照れているようだった。

タツキ

うわ、だめだ……可愛い

ミユ

か、かわ……!?


 可愛いなんて男の子から言われたことなんてなかったから、顔に熱が集まってしまうのを感じた。

タツキ

ミユ

ミユ

う、あ、ハイ!


 しかも名前でいきなり呼んでくるなんて……反則だ。

タツキ

慌てすぎ

ミユ

だって、北川くんが……

タツキ

タツキ

ミユ

え?

タツキ

タツキって呼んで

ミユ

た、タツキ……?

タツキ

よくできました


 そう言うとタツキは、私の頭をくしゃくしゃっと撫でた。

2通目 高校の教卓の落書きの隣(2)

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