“俺たちが出会った場所で会おう”






 それが意味する場所を、私はよく知っていた。


 でも、ショックで暫く部屋から出ることができなかった。タツキの亡骸に会いに行くことすら、怖くてできなかった。


 タツキの香りで囲まれているベッドで眠ると、今もタツキがそばにいるような気がした。ベッドの中で目が覚め、タツキが隣にいないことに気づいて、私もこのまま目が覚めなければいいのに、と何度思ったことか。何か食べる気力すら起きなかった。

 ……でも、タツキが残した手紙を読み返していたら、あと五回はタツキに会えるのかもしれない、と思った。




 だから私は今、ここにいる。タツキと私が出会った、ここに――。


 高校三年生になり、親友の麻美と一緒のクラスになったことを喜びつつ、教室に入って黒板に書かれた自分の席を見つけると、幸運なことに真ん中の一番後ろの席だった。

 その席に座ると、隣にすでにいたのはちょっと日焼けをしたスポーツが好きそうな男の子。

 黒板に書いてあった名前は確か……北川くん。

タツキ

おはよう!俺、隣の席の北川達樹!よろしくな、立花さん!

ミユ

立花美優です、よろしく……


 北川くんも、私のようにきっと黒板で名前を知ったのだろう。

 一学年三百人以上いる私の学校では、なんとなく顔は見たことがあるけれど、名前は知らないと言う人は少なくなかった。

タツキ

ねえねえ、立花さん!


 北川くんは、よく私にキラキラした笑顔で話しかけてくれた。

タツキ

うわー今日も国語の教科書忘れたー!……立花さん

ミユ

ハイハイ


 そして、北川くんはよく教科書を忘れて、私に見せてと頼んできたから、その度に机をくっつけて、一緒に一つの教科書をわけっこした。

ミユ

うわ……なにこれ……!


 たまに私が黒板を必死に写している間に教科書に落書きをされて怒ったこともあったけど、隣でにんまりと笑っている北川くんを見ると、その笑顔を見るために、いたずらされてもいいのかもしれないとまで思った。

 北川くんが隣の席になって、純粋に楽しかった。

 ……次はいつ、教科書忘れてくれるのかな、と期待をしたりもした。

工藤先生

席替えをします


 だから、二か月ほど経ってみんなが席替えをしたいと言い始めたときは、どうにかして席替えをやめることはできないかと画策してみたりしたけれど、結局いいアイディアは生まれず、なすがままに席替えに参加した。

タツキ

……俺は運に任せる!!

ミユ

北川くんは、どこの席がいいの?

タツキ

んー、立花さんの隣

ミユ

え?


 北川くんの言葉の意味を考えていたら、北川くんはいつものようににっこりと私に笑いかけた。

 ……きっと、いつもの冗談に違いない。

 そう思ったけれど、私の心臓は、ドキドキと高鳴っていた。

北川―お前の番!

タツキ

おー


 北川くんが、前に出る。そして、くじを引いた。私は、自分の手の中にある5番の札を見つめた。


 ――どうか神様、北川くんが私の隣に来てくれますように、と願いながら。

 ……しかし、私の隣に北川くんの名前が書かれることはなかった。

2通目 高校の教卓の落書きの隣(1)

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