鈴石茜

ど、どうすればいいんだこの空気……

逃げ出す手段は、いくらかあると思う

鈴石茜

「冗談だよ」「本気にしちゃったの!?」とか……今なら取り返しがつくんだ

でもそれじゃあ、私の片思いはいつまでたっても終わらない。

佐島亮

…………

鈴石茜

ええっと、その……

佐島亮

か、からかわないでくださいよ

鈴石茜

からかってない

佐島亮

どうして……僕なんですか

鈴石茜

その……佐島君は優しいし

違う! こんな凡庸な回答をしたいわけじゃない!

佐島亮

ど、どこが?

鈴石茜

し、新入生歓迎会が終わった後、片付け手伝ってくれたじゃん?

鈴石茜

その時、倒れてきた用具から守ってくれたりとか……

佐島亮

そんな昔の話を持ち出されても……

鈴石茜

普段はやる気がなさそうなのに、いざとなると頼りになるところとか……

佐島亮

別に……当たり前のことをしただけです

あああ……伝わっている感じがしない!!!

鈴石茜

あと、佐島くんってかっこいいし……

佐島亮

始めて言われましたよ、そんなこと

鈴石茜

…………

佐島亮

えっと……

鈴石茜

ごめん、迷惑だよね

佐島亮

え……いや

鈴石茜

わ、忘れて!!

佐島亮

いや、鈴石先輩……

鈴石茜

どうすればいいの……これ

絶体絶命な気がする。

明日から、どんな顔をして佐島くんに会えばいいのか見当がつかない

鈴石茜

詰んだ!!!

鈴石茜

こんな収集のつかない事態なんてないよ……

鈴石茜

辛い……

恋はどうやら、とっても辛いものらしい

鈴石茜

佐島くん、ひいちゃったかな……

もう、一緒に喋れなくなったらどうしよう……

鈴石茜

それが一番、辛いかも

だったら、今までの関係を続けていた方がよかった

伊納アスナ

あ、生徒会長殿!
どうでした? 佐島殿の様子は

鈴石茜

…………

伊納アスナ

どうしたんです? そんな、告白してフラれた……みたいな顔をして

鈴石茜

うん

伊納アスナ

えっ……まさか本当に告白して……

鈴石茜

そう、告白して……

あれ?

鈴石茜

そういえば、答えを聞かないままでてきちゃった……

伊納アスナ

えー、どういうことですか?

鈴石茜

その、成り行きで佐島くんに告白してしまいまして……

鈴石茜

そのまま、いたたまれなくなって出てきちゃったというか……

伊納アスナ

何やってんですか……

鈴石茜

ほんとだよね……

あまりにも、間抜けだった

鈴石茜

でも、正直OKもらう感じしないよ……

伊納アスナ

そんな、答えを聞く前から……

鈴石茜

佐島君、ずっと訝し気だったし……

鈴石茜

OKって感じはしなかったな……

だから、辛いのだ。

伊納アスナ

弱気ですねえ

鈴石茜

大体、アスナちゃんの口が軽いから私が言う羽目に……

伊納アスナ

いや、自業自得ですぞ、生徒会長殿

鈴石茜

そうかぁ……

分かっているけど……あらためて考えると、やっぱり間抜けだ

鈴石茜

これから、どうしよう

伊納アスナ

アスナは……結果はどうであれ、答えを聞くべきだと思います

伊納アスナ

そうじゃないと、二人の間にモヤモヤが残るだけですよ

鈴石茜

うん……

やっぱり、それしか策はないようだ……

鈴石茜

戻るしか……ないね

伊納アスナ

ファイトですっ

鈴石茜

アスナちゃん……今、絶対面白がっているでしょ?

伊納アスナ

そりゃあ、他人の恋バナは目の保養ですから

伊納アスナ

逆に現実の女子オンリーはちょっと駄目なのです

鈴石茜

その感覚が分からない

伊納アスナ

えー

鈴石茜

まあ、でも、ちゃんと玉砕してくる

伊納アスナ

最初から玉砕する気ですか……

鈴石茜

だってなんか、成功するビジョンが見えないし……

伊納アスナ

そこは頑張ってくださいよ

鈴石茜

そんなこと……言われても……

もう、気の持ちようがよく分からない

でも、とりあえず佐島くんのところへ戻らなければ

鈴石茜

じゃあ、ね

伊納アスナ

はい! 影から応援していますね!

鈴石茜

影から飛び出してこないでよ……?

伊納アスナ

あ……はい

伊納アスナ

多分!

鈴石茜

心配だなあ!

覚悟を決める時は今の様だ。

私はアスナちゃんに背中を向け、保健室の扉を開けた

鈴石茜

佐島くん、さっきは……

佐島亮

うわっ 鈴石先輩……

佐島亮

いきなり入ってこないでください。
びっくりしました

鈴石茜

ご、ごめん……

鈴石茜

あの、さっきの話なんだけど……

佐島亮

……ああ、僕も今考えていたんですけど

鈴石茜

そ、そうなの?

佐島亮

でも、まだ僕の中で明確な答えが出せなくて……

鈴石茜

そっか……

やっぱり、そうくるよね……

佐島亮

だから、『保留』でもいいですか?

鈴石茜

え!?

佐島亮

もうちょっとだけ、考えさせてもらってもいいでしょうか……

何その……予想していなかった返答!!

鈴石茜

も、勿論

フラれるとばかり思っていた。
思って……逃げた

鈴石茜

けど、これはまだフラれるよりマシなのだろうか……

鈴石茜

もうこんがらがってきた

佐島くんは今何を迷っているの? 何を考えているの……?

いよいよ、訳が分からなくなってきたぞ!!

ひとまず『保留』の宣告を受けた鈴石さん。
フラれなくて良かったと安堵するのも束の間、保留の厳しさを実感することに……

さて、二人の関係はいかに……?

続く。

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