逃げ出す手段は、いくらかあると思う
ど、どうすればいいんだこの空気……
逃げ出す手段は、いくらかあると思う
「冗談だよ」「本気にしちゃったの!?」とか……今なら取り返しがつくんだ
でもそれじゃあ、私の片思いはいつまでたっても終わらない。
…………
ええっと、その……
か、からかわないでくださいよ
からかってない
どうして……僕なんですか
その……佐島君は優しいし
違う! こんな凡庸な回答をしたいわけじゃない!
ど、どこが?
し、新入生歓迎会が終わった後、片付け手伝ってくれたじゃん?
その時、倒れてきた用具から守ってくれたりとか……
そんな昔の話を持ち出されても……
普段はやる気がなさそうなのに、いざとなると頼りになるところとか……
別に……当たり前のことをしただけです
あああ……伝わっている感じがしない!!!
あと、佐島くんってかっこいいし……
始めて言われましたよ、そんなこと
…………
えっと……
ごめん、迷惑だよね
え……いや
わ、忘れて!!
いや、鈴石先輩……
どうすればいいの……これ
絶体絶命な気がする。
明日から、どんな顔をして佐島くんに会えばいいのか見当がつかない
詰んだ!!!
こんな収集のつかない事態なんてないよ……
辛い……
恋はどうやら、とっても辛いものらしい
佐島くん、ひいちゃったかな……
もう、一緒に喋れなくなったらどうしよう……
それが一番、辛いかも
だったら、今までの関係を続けていた方がよかった
あ、生徒会長殿!
どうでした? 佐島殿の様子は
…………
どうしたんです? そんな、告白してフラれた……みたいな顔をして
うん
えっ……まさか本当に告白して……
そう、告白して……
あれ?
そういえば、答えを聞かないままでてきちゃった……
えー、どういうことですか?
その、成り行きで佐島くんに告白してしまいまして……
そのまま、いたたまれなくなって出てきちゃったというか……
何やってんですか……
ほんとだよね……
あまりにも、間抜けだった
でも、正直OKもらう感じしないよ……
そんな、答えを聞く前から……
佐島君、ずっと訝し気だったし……
OKって感じはしなかったな……
だから、辛いのだ。
弱気ですねえ
大体、アスナちゃんの口が軽いから私が言う羽目に……
いや、自業自得ですぞ、生徒会長殿
そうかぁ……
分かっているけど……あらためて考えると、やっぱり間抜けだ
これから、どうしよう
アスナは……結果はどうであれ、答えを聞くべきだと思います
そうじゃないと、二人の間にモヤモヤが残るだけですよ
うん……
やっぱり、それしか策はないようだ……
戻るしか……ないね
ファイトですっ
アスナちゃん……今、絶対面白がっているでしょ?
そりゃあ、他人の恋バナは目の保養ですから
逆に現実の女子オンリーはちょっと駄目なのです
その感覚が分からない
えー
まあ、でも、ちゃんと玉砕してくる
最初から玉砕する気ですか……
だってなんか、成功するビジョンが見えないし……
そこは頑張ってくださいよ
そんなこと……言われても……
もう、気の持ちようがよく分からない
でも、とりあえず佐島くんのところへ戻らなければ
じゃあ、ね
はい! 影から応援していますね!
影から飛び出してこないでよ……?
あ……はい
多分!
心配だなあ!
覚悟を決める時は今の様だ。
私はアスナちゃんに背中を向け、保健室の扉を開けた
佐島くん、さっきは……
うわっ 鈴石先輩……
いきなり入ってこないでください。
びっくりしました
ご、ごめん……
あの、さっきの話なんだけど……
……ああ、僕も今考えていたんですけど
そ、そうなの?
でも、まだ僕の中で明確な答えが出せなくて……
そっか……
やっぱり、そうくるよね……
だから、『保留』でもいいですか?
え!?
もうちょっとだけ、考えさせてもらってもいいでしょうか……
何その……予想していなかった返答!!
も、勿論
フラれるとばかり思っていた。
思って……逃げた
けど、これはまだフラれるよりマシなのだろうか……
もうこんがらがってきた
佐島くんは今何を迷っているの? 何を考えているの……?
いよいよ、訳が分からなくなってきたぞ!!
ひとまず『保留』の宣告を受けた鈴石さん。
フラれなくて良かったと安堵するのも束の間、保留の厳しさを実感することに……
さて、二人の関係はいかに……?
続く。