どうか王子様、私と一緒に来て下さい

慧人

ええ、ぜひともあの虹の向こうへ連れて行ってください
その先に、私のこの感情の答えがあるのなら…

以上、声劇上演会でした~
興味を持ってくれたなら、まずは入部してみようか!

明るく新入生を脅している雫をしり目に、慧人は桜花の方へ駆け寄った

慧人

なっ、ばっちりだっただろ。俺の演技!

桜花

練習に毎回参加してたら花丸をプレゼントできたのに…勿体無いですね

慧人

わ、分かってるって
今度から練習にもしっかり参加するって!

桜花

約束ですからね?

約束…

その単語でしか自分は桜花の気を引くことができないのだろうか。本当はこんな回りくどいやり方をしなくても桜花の気を引くことは…無理だ。そんなにあの先輩の壁は低くなんかない。そんなことくらい、何度実感させられただろうか

目の前で悪態をつく彼女を眺めながら慧人は深々と息をついた


そこへ、一人の新入生が二人のもとへ近寄ってきた

淳史

あの、すみません
僕入部希望なんですが

桜花

あ、ちょっと待っててね
今書類とってくるから

慧人

ようこそ、我が部へ
演技の経験とかあるの?

淳史

そんな大した経験はありませんけど…昔、劇団に入ってました

慧人

ま、まじで!?
じゃあ即戦力って事じゃん…
確かに、いい声してるね。なんつーか、なんだろ?

桜花

けいちゃんはボキャ貧なんですか?
…えっと、とりあえずこの書類にクラスと名前を書いてもらっていいかな?

淳史

はい
…っとこれでいいですか?

桜花

淳史君ね、これからよろしく

慧人

よろしくな、NEWエース

桜花

なんですか、そのダサいあだ名は…淳史君困っちゃいますよ

淳史

いえ、大丈夫ですよ
それにしても、さっきの台本書いたのってどなたですか

桜花だよ―
初めまして新人君。この部の部長の雫です!困ったら私以外にじゃんじゃん頼りなさい

桜花

雫先輩…ちゃっかりそういう発言を挟まないでください

桜花

っと、台本・演出は私が担当しました

淳史

こんなことをいきなり聞くのはおかしいかもしれませんが…

桜花先輩って、恋してますか?

桜花

へ、え?
ど。ど、どうしてそう思うのかな。淳史君?

淳史

先ほどの作品…かなしい恋の物語のように思えたので
きっと書いた人も切ない恋愛をしてるのかなって思ったので

桜花が、恋?
新人君は面白いこと言うのね

慧人

ちょっと先輩
それは桜花に失礼じゃないですか?

だって
私と桜花はいっつも一緒に登下校してるのに、そんな浮いた話、一回も聞いたことないもん

ね、桜花?

桜花

あはは
確かにそうですよね。私が恋なんて…有り得ないです

私は、今ちゃんと笑えているのだろうか

そうだよ…私が恋なんておかしな事なのかもしれない。少なくとも雫先輩の中ではそうなんだ

ああ、なんでこんなことになったんだろう。なんで淳史君はあんなことを言ったのだろうか…ほっといてよ。ほっといてよ!!

淳史

先輩?

桜花

あ、あのっ
私、ちょっと用事を思い出したので、し、失礼します

慧人

お、桜花

ああ、やっぱり私っておかしいんだ…雫先輩を好きなことも。そんな報われない気持ちをこっそり台本に隠しても駄目なものは駄目だった

どうして、恋は甘いだけじゃないのですか。私の掴んだ甘さは綿菓子みたいにすぐ溶けてしまうのですか。なんで、貴方への想いさえ閉じ込めることはできないのですか……綿菓子さんが私の前に現れて、あざ笑うようにその文を消していく。

結局私は、自分の作った存在にすら勝てないんだ

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