翌朝。
姿を見せたのは、八人。
一人減っていた。
昨日あれだけ揉めておいて、キッチリと人数が減っているのね
…………
翌朝。
姿を見せたのは、八人。
一人減っていた。
きていないのは……
羽田の野郎か……
あの大柄な人が来ていない。
……きっと、もう死んでる。
狼に噛み殺されたんだ。
みんな分かっている。
来ないは、イコールで……。
一体誰が……
……仕方ない
僕達も、始めよう……
渋々といったようにお菓子の人がそう言い出した。
私は黙る。成り行きを任せよう。
……もう、私はでしゃばらない。
占い師だろうが、私は黙っていてやる。
殺されない限りは、黙り続けよう。
目立つのは、疲れるから嫌だし。
まずは状況を整理しよう
お菓子の人は切り出す。
このゲームの参加人数は10。
役職振り分けは村人3、狼2、狩人、占い師、霊能者、狂人、狐だとのこと。
一連の流れを分かっていないのか、皆右往左往しながらゲームを開始する。
まずは名乗り出る……
ええと、カミングアウトだったか
必要な人は名乗り出てくれ
因みに僕が『占い師』だ
!!
偽物……!?
慣れていないように見えていきなり嘘をついてる。
本物の占い師は私だ。彼女は偽物なのは確実だ。
まさかいきなり黒が出てくるなんて。
アレは……狂人か狼のどっちかだ。間違いない。
あと、霊能者の役職は出てくれ
この場合は、名乗り出ていいらしい
お菓子の人がそう言うと、挙手をする人間が一人。
それは……。
霊能者は僕だ
他に我こそは霊能者だと言う人間はいるかい?
窓枠に腰掛けていた車屋さんがドライに言う。
堂々たるものだ。自分が本物だと言わんばかりに。
取り敢えず、すぐにカウンターをしても負けてしまうかもしれない。
様子を見よう。
あまりにも遅いと、逆に危ないと思うけど。
車屋が霊能者か
僕が先に言わせてもらうぞ
昨晩の占い結果を提示する
僕が占ったのは……逆井、お前だ
結果は白、彼女は人狼ではない
…………
……へぇ。私を、か。
何ていう皮肉だろうね。
まさか、偽物に占われて白と出るなんて。
何かあるか、逆井
…………
言いたいことがあるなら言え、とでも言いたいのだろう。
そう。言わせてくれるんだ、弁明。
じゃあ、言わせてもらおうかな。
嘘つきは、逃がさない。
証明は?
……証明?
そう
お菓子の人が占い師だっていう証明
本物なら証明して、本物だって
私が問うと、彼女は驚いたように私を見る。
証明もしないで、いきなり信用を勝ち取れると思っているのか。
私は証明してと言った。
お、お菓子の人……
まぁいいか
それで、証明とはなんだ?
誰もいなかったじゃないか、僕以外
それでは証明にならないのか?
ふぅん。
そういう返し方、するんだ。
そうだね、それならまぁある程度の説得力がある。
周りも、賛同している人も多い。
でも……この場合はどうだろう。
だって、それは……。
カウンターカミングアウト
へっ?
ぼそりと私が言った言葉に、意味が分かった人は目付きが変わる。
分からないお菓子の人はほうけている。
つまり、こういうことだよ。
お菓子の人は偽物、占い師じゃない
私が本物の占い師
だから、カウンターカミングアウト
なっ!?
私が行なったのは反撃だ。
率先して出ていかなかったのは目立ちたくないから。
でもこの場合、違う理由の方がよさそうだ。
黙っていた理由は先手で偽物をあぶりだすため
先制で私が出てしまうと、偽物が今の私のようなことを確実にする
それじゃ場が混乱する
そして私は、私こそが本物の占い師であるという証明の仕方を知っている
さっき証明の方法を聞いて、明確な答えを出さなかったあなたは、偽物
そう、私は私こそが本物であるということを示せる。
ただ、これは先手では使えない。使うとだめなのだ。
だから、先を譲ることで相手にチャンスを与える。
私の言い分は、一部の人は納得してくれた。
ねえ、なんで答えなかったの?
証明の仕方を、私に聞いたよね?
この方法、本物だったらすぐに思いつくはずなのに
なっ……!?
何を言っているんだ!?
今頃名乗り出てくるなんて遅すぎるだろう!!
見当違いな言い返し。
イラっときた私は、つい語彙を強めて言う。
質問に答えて
……ッ!!
確実に証明できるなら、後手のお前からするべきだろう!
お前から言え!
言うと思ったよ、そのセリフ。
ここで乗せられたら、私は負ける。
私は、慣れない表情をつくるコトにした。
即ち――不敵に笑い、挑発する。
ふふっ……また、自分の首を絞めたね?
なんだと!?
私の言いたいことは、きっと理解の良い人には伝わっている。ニコッと笑って余裕を崩さない。
実際、
…………
…………
男子二人は、察したようだった。
私は続ける。
私の質問に答えない
挙句には私から言え?
……本当に何も考えてないんだね……?
こお菓子の人にチャンスを上げているんだよ?
私よりも先に証明さえすれば、私が偽物だって言えるのに……
簡単じゃない、言うだけでいいんだよ?
たったそれだけのことも言えないの?
私が優しく問うと悪寒でも走ったのか、一歩下がる。
まだだ。
彼女を追い詰めるには、もっと必要だ。
ねぇ……教えて?
本物の証明を、見せて?
……何があっても先に言わないつもりか!
私が意固地でも言わないとわかると脅しにくる。
怖いよ。
泣きたくなるぐらい、鬼気迫るこの人が怖いよ。
でもこの虚勢だけは……何が何でも貫き通す。
それこそ私の意地だ!!
当然でしょ?
だって私、本物だもの
本物が本物だと偽物よりも先に証明してどうするの?
貴様ッ……!!
……私はただ、何度も教えろとしか言わない。
彼女が何を言おうが、教えるまで続ける。
これが対抗策だ。
只管、相手にチャンスだと自覚させておいて、私は何も言わない。
簡単な方法で証明ができるのに。
でも、偽物は決してこれを知らない。
だから、言えない。
ぼ、僕が本物だッ!!
逆井は偽物だ!!
こいつが狼だ!!
彼女を昼間に追放しよう!!
そしてとうとう地雷を踏んだ。
自滅のワードを口走った。
そうだね、白黒ハッキリしたよ
ああ、今のうちに言っとくと昨日の彼は白だったよ
恐らくは村人だろう
さり気無く結果を報告する車屋さん。
こっちは一人だけだから、暫定的に本物と見ていい。
それはおいといて。
高橋……
君は今、自滅をしたことに気がついているかい?
な、なんのことだ……?
分かっていないのか。
あの一言で、彼女の敗北は……決まった。
しぶとく待っていた私の、勝ちだ。
周囲の考えは、まとまった。
本来、お前の立場ならば言うべきことじゃないことを今お前自身が言ったよ
高橋さん、自白したわね
大半が私こそ本物であると、信じてくれた。
理解できない本人は何がいけないんだと怒鳴る。
高橋さん、良いこと教えてあげるね
そんな時、決定的なことを笑顔で神田さんが告げた。
事実上の、お菓子の人の処刑宣告だった。
狼は白って出ない
黒しかないんだよ?
!!
今頃自覚したようだ。
彼女は何より、矛盾を起こしている。
私のことを白……つまりは狼以外と言ってきながら、私がカウンターをしたら私を狼だといった。
言うべき言葉はあるのにもかかわらず。
それは一体、どういうことか。
そこなら、この場合は。
あの時君から出る言葉は「逆井は狂人だ」
君は本物で、尚且つ彼女がカウンターをするこの場合に適応される指摘はね、こうならないとおかしいんだよ
なのに君は迷わず狼だといった
邪魔する相手は狼しかいないかのごとく
自分で白と出しておきながら、ね……
この矛盾、どうやって説明する?
車屋さんの指摘に、黙り込むお菓子の人。
更に追撃は続く。
ついでにもう一つ言わせてもらおうか
なぜ再三、逆井が証明を問うているのに答えないのか
占い師は単体の役職だ
だからこそ、自分しか知らない事を言えばよかったんだ
例えば――
そこから先は言わせない。
それすら分かっていない偽物に教えるのは、私。
占いの方法
本物の私しか知らない、占いの方法だよ
それを教えておけばよかったのに
バレたって、なんの問題もないのにね
適当言っても、私が打破したけどさ
知るはずないよね、だって偽物だもの
因みに方法はね
自分の部屋にあるテレビを使うの
夜になったら電源をつけて、操作画面を開いて、リモコンで占いをする相手を選択する
これが占いの方法だよ
はい、これが私の証明方法
これを言おうと思っていた、なんて言っても無駄だよ
もう、結果は覆らない
私が正規の方法を説明すると、全員が私を本物だと信じざるを得なくなった。
因みに車屋さんも、偽物が出てきたら同じ方法で説明すると告げた。
これで予防線も張った。
くっ……!?
占い師は私一人
偽物は死んじゃえ!
私は怒鳴って彼女を指さした。
これで、投票の意思は彼女に入る。
簡単にボロが出たね
慣れてないくせに、でしゃばるからだよ
神田さんも私に続いた。
そういえば、まだ私占い結果言ってないけど……。
まぁいいか、あとでも。
今は偽物駆除だ。
どうやら逆井の方が一枚上手だったみたいだね
道理でいきなり方向転換するわけだ
この際狂人でも狼でも何でもいい!
追放されるのはお前だ!
根暗の方が利口だったとはな
まぁ、分かっていたことか
呵責を感じる必要もないわね
…………
一人渋々だったけど、全員一致でお菓子の人に集まった。
……私以外に占い師は必要ない。
これで人狼だか狂人だか知らないけど終わりにする。
残り時間はまだ余裕がある。
次は……お菓子の人を、殺そう。