可愛いなんて言われたから舞い上がっちゃったけど……

灼は移動中もすっかりペースを握られていた。
可愛いと口に出して言ってくれることは嬉しい
嬉しいのだが……

すげぇ……こんな魚いるんだ……
見てみろよ!

そうだね……

なんだ?この魚……
見たことないぞ……?

そうだね……

あっちにも何かいるぞ!

今日一番のテンションではしゃぐ悟を見て灼は深いため息をついた

鈍感なのは分かるけどさ……
私のことより魚のことほうがはしゃいでるって……
私は魚以下なの?

灼はもう一度大きなため息をついた

心なしか水槽の中の魚が灼のことを心配しているように見えた。

なぁ、灼元気ないな?
どうした?

わざとやっているのかと思えるレベルの間の悪さで悟が灼に声をかける。
灼は若干のあきれ顔で当たりまえでしょと返した。

その言葉を聞いた悟は少し考えるような表情を浮かべた。

そののち、何かを思いついたかのように灼に向き直った。

あっちにイルカショーがあるよ
見にこうよ

そう言うが早いか、悟は灼の手を引いて歩きだした

ちょっ!ま、待ってよ!

戸惑う彼女の表情は心なしか緩んでいるように見えた。

イルカショーすごかったね!

イルカショーを見てご機嫌な灼の表情は年齢よりも幼く映った。

イルカってあんなにあんなに賢いんだな
正直驚いた。

悟もイルカの知能の高さに素直に感じ入っているようだった。

悟もこういうショーとか素直に楽しめるんだね

そりゃな
穿った見方をする必要もないしな

水族館に入ったころには微妙だった二人の間は、すっかりどこにでもいるカップルの様だった。

はぁ……

夕焼けの差し込む電車の中、灼は今日何度目になるか分からない大きなため息をついた。

このため息の原因もまた悟だった。
あのイルカショーの後二人はまた見物に戻ったのだが、悟には灼が映っていないのではないか?と思えるほどに灼は置いてけぼりを食らったのである。

私がついてくる意味あったの?

モヤモヤとした気持ちが灼の中に渦巻いていた。

悟……今日は無理に誘っちゃってごめんね

分かれ道の手前で灼は不意に悟に対して言葉を投げかけた。
悟は不思議そうな顔を浮かべた

無理なんかしてないけど?

一人で十分楽しそうだったし……
私邪魔だったかなって……

そんなわけないだろ。
邪魔になるとしたら、そんな人と行くほど俺も暇じゃないよ

悟の言葉を聞いてなお灼の表情は晴れない。
疑念というよりは申し訳ないといった表情だ。

一人できたけりゃ一人で行くさ
灼と行きたかったから行ったんだよ

そう……
それならいいんだけど……

言いたかったことはそれだけかい?

うん……
ありがと……

こっちこそ楽しかったよ
また明日ね。

そう言って悟は家路についた。
その背中を眺めながら灼は俯いた。

せっかく悟の買ってくれたブローチつけてきたのに……何も言われなかったな……

複雑な感情を抱えながら灼は帰路についた。

第3話:鈍感デート(後半)

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