番外編 Forget-me-not

ごめんね、困らせて。
私は二人を恨んでないよ。

本当に恨んでないの?

うん、だって………

私、二人の事が大好きだから

………

レン

やっと、姿を見せてくれたな

アキラ

久しぶりだね、ミミ

レンくん、アキラくん、わたし、寂しくて。ただ、それだけで、ごめんね

レン

わかってる。ミミが寂しがり屋なのは知っているから、オレたちは毎年こうやって会いに来ている

レン

やっと、結論が出たんだ。お前へのオレの気持ちにな。

レンくん……

レン

オレさ、あの時はわからなかったんだ。
赤いチューリップの言葉の意味。
ウサギが持っていた花

愛の告白

私はレンくんが好きだったよ

レン

だけど、オレは違っていた。
ずっと、ずっと考えていたんだ。オレはミミを女の子として見ていたのだろうかって、悩んで、悩んで、ようやくだ

ずいぶん、長かったね。
レンくんってば悩むときは徹底的に悩むのだもの

レン

あの時のオレは、ミミのことを特別な友達としてしか見れなかった

そっか……オトコノコだものね。あの年頃のオトコノコってそうだよね。恋とか興味ないよね。

レン

ごめん

謝らないでよ

レン

だけど、お前は特別だった。
初めてプレゼントをくれた友達で、生きるための言葉もくれた。それと、夢もくれた

夢?

レン

お前の夢は、オレの夢だからさ

そんなことまで、覚えていたんだね

レン

動物に関する仕事は母さんの夢でもあったからな。だから……その為に大学に行くだけだからな。母さんとオレとお前の為に夢を叶える。それだけは断言できる。

うん

レン

それと、恋人ができたんだよ

そっか……それは複雑だな

レン

だから、ミミのことは友達だったんだなってわかったんだ。

レン

だけど、その子も死んでしまったんだ。オレが好きになったときには既に死んでいたのだけど、ここの説明は難しい。

大丈夫、見ていたから。知ってるよ。

レン

え? 見ていた?

うん、見ていた。
それにしても、レンくんに好きになって貰えるなんて…………その子が羨ましいな

やっぱり、苦しいよ、辛いよ

レン

………ミミ

ごめんね、困らせたいわけじゃないの

 でも……

いいなぁ、私も一緒にいたかった。

ずっと、ずーっと三人でいたかったよぉ

一緒に卒園したかった、
もっと、一緒に遊びたかった、
隣に並んで手を繋いで、恥ずかしかったり、楽しかったり、そんな時間を一緒に過ごしたかった。
一緒に学校行きたかった、
一緒に勉強したかった、
一緒に………

レン

一緒だよ、大丈夫だ。
ウサギは連れて行くからさ……

レンくん?

レン

オレたちは絶対にお前を忘れない、だから……お前もオレたちを忘れるなよ。
ほら……

これ、勿忘草。レンくんたちのママが好きだった花。いつも、私のお墓にもあげてくれるね

じゃあ、私からも二人に勿忘草あげるね

レン

ああ

アキラ

ありがとね

もしも生まれ変わったら、また会えたら、その時は恋人になってくれる?

レン

それは約束できない。だって生まれ変わったオレたちが決めることだろ

そうだよね

だけどさ、また会いたいな。三人でまた一緒に遊びたいな

アキラ

テレビゲームで遊びたいね

うん! 
きっと実現する、実現させる……

そうだレンくんお願いしていいかな?
そのヌイグルミ、ギュってして

………

レン

アキラ

大丈夫だよ、誰も見てないよ

レン

わかったよ

 再度、周囲に誰もいないことを確認してウサギのヌイグルミを抱きしめる。

 恥じらいは消えていた。

 幼い頃にこの感触に支えられていたことを思い出す。

 眠れない夜、このウサギを抱きしめるとすぐに眠ることが出来た。

 それを思い出すと自然に笑みが零れる。

ヌイグルミを通して伝わってくるよ。貴方のぬくもりが……

ありがとう

ありがと!
あのね、おまじないしておいたからね!

レン

おまじないって?

秘密だよ。じゃあ、またね

バイバイ

レン

ああ

 彼女の気配は忽然と消え去った。

 レンは残されたウサギのヌイグルミを拾い上げると身体についた砂をパンパンと払ってやる。

…………

 ウサギは何も答えない。
 
 当然だ。コレはヌイグルミなのだから。

アキラ

レンレン、これで良かったの?
本当は………

レン

あの時点ではミミのことは友達としか見れていなかった

アキラ

ボクもそうだったな

レン

ミミが亡くなって、あのチューリップの意味を知って。
そうなってから悩んだんだからさ。男と女の間の「好き」って何だろうかって、

アキラ

その探求の為にたくさん少女マンガ読んだよね。懐かしい。

レン

もしも、あの日ミミが死ななければ……オレは彼女を好きになっていたのかもしれない。
好きになる前に彼女はいなくなってしまった。だから彼女を好きだったとは言えない。

レン

恋と呼ぶには幼すぎたんだ

 始まらなかった恋の記憶。

 始まっていたかもしれない恋の記憶。

 始まらなかったそれは、恋ではなかった。

 始まらなければ、恋ではない。


 特別な友達との、特別な思い出だった。
 それは過ぎ去った思い出のヒトコマとして永遠に生き続けるのだろう。

to be continued

番外編 Forget-me-not  3話

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