番外編 Forget-me-not

 これは毎年行われる儀式のようなもの。

 幼い頃失った特別な友達に会いに行く大切な時間。

アキラ

あの子、喜んでくれるかな

レン

そう願うぜ

アキラ

あのことを伝えるんでしょ。
今年は逃げないでね

レン

ああ……

 特別な友達は女の子。
 彼女はこの世界の何処にもいない。

 友達以上、恋人未満。
 それが彼女との関係だった。

 【恋】なのだと確信できたのは赤音アイへの気持ちが初めてのこと。

 それは、幼い日々を共に過ごした彼女には抱かなかった感情。

 彼女にはアイのことを告げなければならない。
 幼い頃に告げられた告白への返事を伝えなければならない。

 本当ならアイと恋人関係になったときに伝えなければならなかった。


 だけど、あの時のレンは勇気がなかった。

レン

好きになった相手が実は幽霊でした、って言って納得してくれるだろうか

アキラ

悩んでも仕方ないよ。
言っちゃいなよ。

 アキラに言われてようやく伝える決心がついたのだ。

お墓、お墓は、小さなお墓
こどもが入れる小さなお墓

赤音

アハハハハ
浮遊霊って楽しい♪
今日は誰が来るのかな。

赤音

あら、こんにちは。
ウサギさん。ウサギさんもお散歩?

赤音

ウサギさん?

あの中にいるの、いるの? 
居るのは誰? 
私、ワタシ、ワタシダケ
あの中は暗い、暗い、真っ暗い

一人は寂しい、
一人は悲しい、
一人は怖い、
一人は苦しい、

赤音

え~っと………

……ジャマしないでよ!!!!

赤音

赤音

な、何?
あれ、あれ? 空気がおかしい?

アキラ

…………

レン

………

赤音

あれ、レンくん?

赤音

隠れてよう

 激しい光と共に現れたのは一体のウサギのヌイグルミ。

…………………

アキラ

ウサギのヌイグルミ? これって……

レン

………

 二人は、このヌイグルミを知っていた。

花、花、
伝えられないキモチはね、お花が伝えてくれるの

 その愛らしい声は忘れられない……

知ってるかな? 
赤いカーネーションの花言葉
日本では母の日にあげるものだけど、
外国だと何て意味だろう

レン

あなたに会いたくて

アキラ

たまらない、だね

 彼女は花言葉が好きだった。

正解♪

おめでとう、そんな二人には
ご褒美にコレをあげるね

 そのウサギのヌイグルミは片手に赤いカーネーション、もう片方の手にはナイフを握りしめて佇む。

ね、一緒にいようよ。
きっと楽しいよ

あの頃みたいにね

これで、自分を刺せば、一緒だよ

二人とも私のお願いは聞いてくれてたよね

レン

そうだったな

アキラ

だね!

赤音

もう少し見守ろう
これは、私が介入しちゃいけないよね

そうね、幽霊は見守ることしかできない。
命ある者から命を奪うことは出来るかもしれない。だけど、散ろうとする命を助けることは出来ないのよ。

赤音

あなたは……

……赤音アイさん、ありがとう。あの子と出会ってくれて、ありがとう。
大丈夫よ、あの三人は。

赤音

あの子って?
あれ? いなくなっちゃった……

レン

オレたちさ、お前の最後の願いは意地でも守っているんだ

え?

アキラ

ちゃんと約束守ってるよ。

レン

だからさ、オレたちに死を選ばせるようなことをお前が言ってどうするんだよ。

あの日、オレたちを止めたのはお前だっただろ

………

レン

じゃあさ

どうして、あの日……死なせてくれなかったんだって言いたくなるだろ

………

ダメだよ、死んだらダメ。
そんなことをしても、ママは笑ってくれないよ

………

………

前を見て歩いて、
生きること諦めないで、
あんまり泣いたら涙がなくなっちゃうから我慢して

………

………

これで、どうだ!

泣いたらメーです

………

ウサギさんが一緒にいるって言ってるよ。悲しいときは一緒に寝てあげるって言ってる

これ、大事な奴じゃなかったの?

同じウサギさん。お揃いだよ、レンくんにプレゼント。レンくんのはね、何と赤いチューリップがオマケなの

ありがと……

え?
ボクにはないの?

アキラくんにも、ハイ

大きさが違う

一緒に使えば良いじゃん。
ワガママ言うなって

そうだね。僕のコレはママにあげよう。痛いのが治って元気になりますようにって

二人とも、久しぶりに笑った。
じゃあ、二人とも私と約束して。
辛いことがあっても負けないって。
自分を傷つけることをしないって。
そうしたら遊んであげるよ。

何だよ、本当はミミがレンレンと遊びたいくせに

そうだよ。でも、私のお願い聞いてくれる?

わかった

じゃあ、約束ね。指切り!

うん

だからボクも指切りに混ぜてって

レン

ミミがいたから、オレたちは生きようって思ったんだ。

 幼い頃、幼稚園近くのトンネルで落盤事故があった。

 多くの被害者の中にレンたちの身内も含まれていた。

 レンとランの母親は死亡。
 アキラの母親は意識不明の重体でもう目覚めることはないだろうと告げられた。









 

 あの日、迎えに来るはずだった保護者は二度と迎えには来てくれなかった。

アキラ

全てが無になった。
ボクたちは生きることが怖くなったんだよね。死んだ方が楽じゃないのかなってね。

わたしは見ているのが辛かった。
本当はあんな形で渡す予定じゃなかったのに

アキラ

あれが、最初で最後のミミからのプレゼントだったね

予定より早く2人にプレゼントをあげた。
でも、プレゼント出来て良かった。2人の誕生日まで、私は生きられなかったから。

アキラ

だって、ミミはボクの所為で死んだ、
ボクの投げたボールを取りに行って車道に飛び出したから。
ボクの所為だ……

違うよ、それは絶対に違う

レン

ボール遊びしようなんて、オレが言わなければ事故は起きなかった。
だから、それを咎めるというのなら喜んでオレも死ねる

レン

ミミとの約束は破ることになるけど、

アキラ

それがミミの望みならね。

違う、二人の所為じゃない

レン

オレたちは、オレたちを生かしてくれたミミを死に追い込んでしまったんだ

アキラ

君が望むのならボクたちは命を絶てる

違うよ、違う、違う、違う、違う、違う

どうしたの? 
オレたちに死んで欲しいんだよね

違う、
お願い自分を責めないで。
私は少しも二人を恨んでいない

ボクたちは君の命が消えゆくのを見ていることしか出来なかったんだ。罰が当たったとしても仕方ないんだよ。

……………

 ゆっくりと彼女から生気が喪われていく。

 あの光景は忘れられない。
 今も鮮明に覚えている。

 彼女は最後に頑張って笑っていたと思う。

だ、ダメだよ。泣いたら、ダメ……。
ね!

 二人は顔をグチャグチャにしながら、懸命に涙を堪えていた。今にも溢れだしそうなほど、目に涙をためて。彼女の最期を見ていた。

to be continued

番外編 Forget-me-not  2話

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