霧裂 静香

 瑞希、少し話があります。

 そう言って、静香は瑞希を体育館の外に呼び出す¥した。

神宮寺 瑞希

 で、私に話したいことって何?

 外に連れ出された瑞希は、静香に聞く。

霧裂 静香

 聞きましたよ。優斗の件。

 まずいんじゃないですか?

 静香は希を心配そうに見つめる。

神宮寺 瑞希

 な、何が?

 瑞希は少し強い口調で聞き返す。

霧裂 静香

 素直じゃないですね。

 静香は、ため息を一つつく。

霧裂 静香

 まあ、まだ時間はあります。

 でも、長く幼馴染の位置にいると、いざという時に告白相談とかされて、勝手に失恋することになりますよ?

 そう言って、静香は体育館に戻って行った。

神宮寺 瑞希

 余計なお世話よ……。

 瑞希はそう呟き、青い空を見つめた。

榊原 信也

 いやー。負けちゃったよー。

 信也がわざとらしく言って控え室に入ってきた。

神裂 優斗

 おつかれー。

 俺は棒読みで、信也に言葉を返す。

神裂 優斗

 どうせ、手を抜いたんだろ?

 俺は信也に聞く。

榊原 信也

 いや、最後の動きにはついていけなかった。

 信也はそう言いながら、控え室の席に座る。

神裂 優斗

 へえ、珍しいな

 俺は、信也のいつもの癖が出たのだろうと考え、棒読みで言った。

榊原 信也

 いや?

 ついていけなかったって言うより、心が読めなかったって言うか。何というか……。

 こんなの初めてだよ。

 信也のその言葉に、俺は少し疑問を感じた。

神裂 優斗

 それ、本気で言っているのか?

榊原 信也

 動きについて行けなかったことか?

 希ちゃん、動きが早くてさー。

 心を読んでないと、一気に懐に入られるっていうか……。

神裂 優斗

 そっちじゃなくて、心を読み取れなかった方だ。

 俺は、信也の話を遮って言った。

榊原 信也

 ああ、そうだけど。

 最後は、こっちの力が見抜かれたみたいだったし、無心にでもなって攻撃でもしたんじゃない?

 ほら、優斗もよくやる手段だろ?

神裂 優斗

 そうか……。

 確かに、無心になれば信也に攻撃を防がれることはない。しかし……。

 俺が考えていると、信也が俺の肩に寄りかかってきた。

榊原 信也

 何だよ。心配してくれているのか?

 珍しいなー。俺って幸せ者だなぁ。

 信也は、ハンカチで出てもいない涙を拭く仕草をみせる。

神裂 優斗

 いや、違う。

榊原 信也

 即答かよ!

 信也は俺にツッコミを入れる。

榊原 信也

 確かに、心が読めないっていうのは、少し疑問に思ったけど……。

 まあ、希ちゃんは普通に強いし、それに、神裂家に嫁ぐことが許される時点で、他とは違う才能があるんじゃないの?

 信也は、大きく背伸びをして言った。

神裂 優斗

 あれ、信也。

 どうして俺と希の関係を知っているんだ?

俺は、信也に聞く。

榊原 信也

 何言ってんだよ。

 俺の能力は、思考の読み取りだろ? そんなことお前の思考を読み取れば、一発で……。

神裂 優斗

 おい、昨日も言っただろ? 

 勝手に俺の思考を読み取るなって。

俺は、信也の頭を鷲掴みする。

榊原 信也

 あらら、怒っちゃった?

 信也はヘラヘラと笑っている。

神裂 優斗

 当然だ!

 俺は、信也の脳天を一発入殴ってやることにした。

榊原 信也

 痛ってー。

 信也は殴られた患部を両手で押さえている。

 これ以上こいつといても、腹が立つだけなので、俺は椅子から立ち上がり、控え室の扉に手をかけた。

 確かに、信也の言うとおり、神裂家に嫁ぐことができるのは、何か特別な能力を持った人間だけだ。

 これは、古くからのしきたりみたいなもので、実際、俺の父さんと母さんも、家の都合で結婚させられている。

 だとすれば、希が特別な能力の持ち主なのか。

 それとも、なんでも適当な父さんの気まぐれなのか。

 今度父さんに聞いてみることにしよう。俺は、心の中でそう思った。

榊原 信也

 そうだな。それが一番だ。

 後ろで、信也が俺の心を読んでいた。

神裂 優斗

 信也。覚悟はいいか?

榊原 信也

 うはっ……。

 俺は、信也の顔面を机に埋めてやった。

 これで、しばらくは夢の中だろう。

 試合の後で疲れてるだろうし、一石二鳥だな。

神裂 優斗

 そういえば、姉ちゃんが延期にした任務の件で新道に呼ばれてたな。

 一体何の話だろ?

 俺は、控え室を出て、新道を探すことにした。

第二十四話:《希の戦い方》

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