……

陽菜

あたし達……間違ってないよね……?

……仮に間違えていたとして
だったら、正しさの為に私達が死ねっていうの?

私はそこまで、自己犠牲酷くないよ
必要なら何処までも足掻いてみせる

ここは私の部屋。神田さんもついてきてくれた。
畳の部屋の中に掛け軸がある、珍しくもない和室。
私は腰を下ろして、休む。
神田さんは部屋に入った途端に苦悩し始めた。
人生初の殺しにして背中合わせの己の終焉。
そんなもの、天秤がどちらに傾くかなんて。
考えるまでもないじゃない。

私は、あの二人と違って偽善者じゃない
正しいことを正しいと言える程強くない
利己的でいい、排他的でいい

生きるよ、他人を殺してでも
誰も信じるものか
私だけが、私の味方

こんなこと、助けてくれた人の前で言うことじゃない。
でも。
後々、後腐れを起こすのも嫌だから。
神田さんにはっきり言っておく、と前置きして告げた。

もしも神田さんが、私の敵になるなら……
悪いけど、その時は迷わない
私は、神田さんを殺す

これは、殺し合いなんだ
助けてくれるのは嬉しい
でも神田さんも結局はわからないよね?

陽菜

…………

神田さんは、悲しそうに私を見た。
泣きそうな瞳。わかるよ、その気持ち。
罪悪感だってあるもの。
だけどね、私は自分の生命が第一。
死にたくないから、必死になるしかないの。

信じるかどうかは、これから次第意
でもきっとこの時点で、神田さんと私の道は違えているのか交わっているのか、答えは出ている
でもお互いに隠して言わない
何が真実か、何が虚偽なのか分からない
このゲームは、それが醍醐味

質問は投げないよ、神田さん
そして何を言っても、私は信じない
真実が明るみに出る、その時まで

疑わしきは罰せよ、って
疑われてしまった時点で私達は終わるの

それが、さっきだ。
あの卑屈男はそれで死んだ。
理由も理屈もあったもんじゃない。
ただ環境が、現実が、彼をそこまで追い詰めた。
私たちの手を真っ赤に染め上げた。

仲良くは、もうできない
殺したときに、辛さが増す
だからここまで
ここまで助けてくれてありがとう

そして……ごめんなさい
明日からは神田さんも敵
私も、神田さんの敵

私は……
疑われたら黙ってあなたを殺します
そうして、私は生き残ります

お礼と、謝罪。
そして、敵対。
今、私たちの中にあるのは決別。
私は、別れを告げた。
もう助けはいらない。
そして助けない。
一人で戦う。それが私の決意。

陽菜

…………
なんでだろうね、あたしさ……

陽菜

違うところで出会っていれば友達になれた気がするよ、逆井さんとは

それは、私の同感だった。
神田さんとは、不思議に波長があう。
何というのだろう。
一緒にいても嫌な感じがしないんだ。
変な緊張などが、一切ない。
自然な感じで、私らしくそこに入れる。
違和感なく、神田さんもそこにいる。
不思議な感じ。

陽菜

大丈夫だよ、きっと敵同士じゃないよ
今は疑心暗鬼のゲームだと思う
それでも……信じることは大切じゃない?

神田さんは楽観的に言った。
私の決別を、笑顔で了承した。
なのに、彼女は私を信じるという。
……なんで?

陽菜

あいつのことは、信じなかったよ
切羽詰っていたし……聞く余裕もなかった
やっぱ、悪いことしたかなとは思う

陽菜

正当化もきっと出来ない
あたしは、辛くなってきた
でも逃げたって、この現実は変わらない
そんでもって、選択肢は迫られる

陽菜

その結果が逆井さんの死だったとしたら
多分、死ぬほど後悔して……
あたしも堪え切れなくて死ぬと思う

陽菜

結局、さ
あたしも何だかんだでジコチューなんだ
逆井さんのこと、悪く言えないよ

…………

陽菜

あたしは……たとえわかんなかったとしても、逆井さんの言うことは信じたいな
あの「死にたくない」って声は、本当の気持ちだと思うから
あんな悲痛な声を出す人が、狼な訳がないって

陽菜

あたしのことは気にしないでいいよ
殺すときになっても、あたしは逆井さんを恨まない
自分の……そうなっちゃった運命を受け入れて、それで死ぬからさ

陽菜

あたしのことは信じないでいいんだよ
あたしが勝手に信じているだけだから

……彼女は、そこまでして私を信じる。
私の死にたくないという声を、本気だと思っている。
そうだけど。死にたくないから、戦うんだけど。
それだけでいいのか。
本当に、人を信じるってそんな簡単でいいのか?

陽菜

……あたしはね
理屈とか理由とかそんなんどうでもいい
あたしは未来を『感覚』で選ぶ

陽菜

あたしの感覚がこの人を信じると決めた
だからあたしは逆井さんを信じるんだよ

……感覚で生きている。
それは直感とかセンスとか、そう呼ばれているものだけで選ぶということ?
理屈も、理由も、いらない。
ただ、そうしたいからそうする。
強いて言うならそれが理由?

……

陽菜

逆井さんと分かち合える日を待ってるよ
あなたは悪い人じゃないって思うから
……じゃあね、また明日

絶句する私をおいて、神田さんも自分の部屋に戻っていった。
…………私には理解できない生き方。
それが神田陽菜という女の子の選択。

……

私は選ぶ。今宵どうするか。
自分を信じるままに、行ってみるか。
それとも、怪しい人を信じるか。
私は……どうするべきなのだろう?

ワオーンッ!!

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