……



……



……


 僕は、彼女と約束した。

 君を死なせない為に。
 君の物語を綴る為に。
 君と会う願いを、叶え続ける為に。

 本当の君がいる場所を、探すのだと。



 でなければ、いつか全てを忘れてしまう気がしたから。

 第N章 君の生きる場所へ

 目が覚める。
 時計を見た。7時6分。6時から数えると6時66分だ。どうでもいいや。

 今日、2012年6月1日のカレンダーを見てみると、月曜日だった。
 いつもの事だが、憂鬱な学校に行かなくてはならない訳だ。

 6月1日。
"彼女と初めて会う日"。
 この日付が、頭から離れない。

 何故だ?

末那

……

逸貴

こんな所でなにやってるの?


 出会ったその少女に、そうやって声をかけたら。

末那

うぅ……

 そんな怯えた様な反応をして、彼女はすぐに走り出して何処かへ消えてしまった。


 そして、彼女は公園に現れなくなった。


 僕はいつしか、彼女と会うのを諦めてしまった。


 その様な結末が嫌で。

 僕は、やり直した。

 やり直したいと思えば、そうなった。
 まるで僕の為に世界が存在するみたいだった。

 だが、何故そんな事が出来るのか。
 それを気にするようになった途端、全てが妙に歪んだ様に感じられるようになった。
 違和感としか表現できない何か。
 

 例えば。
 先のやり直し後。
 今度は"正しい選択"をして、その翌日に再会し、無事、彼女の名前などを知る事が出来た。
 そこでの事。
 僕は、叶会さんに言われるまで、彼女が同級生だと気付かなかった。
 初めて会った瞬間から彼女が制服を着ていたのにも関わらず。
 いくら僕だって、制服の形くらいは忘れない。
 普通に考えれば、制服を見て"もしかして同じ高校か"と思う筈だ。
 何故、言われるまで考えもしなかったのだろう。
 

 そして、 もう一つ。
 僕は、平凡な事が好きではない。
 それはきっと、僕が無能であることを、自覚させられたからなのであろうけど。
 いつからそうなったのか、自分でも思い出せない。
 自分の価値観を固定化するような出来事、そうそう忘れるものでもない筈なのだが。

 退屈な午後の授業も終り、僕は再び部室に訪れた。

澪里

はろー

末那

こんにちは、暁の変性者

 色々あったけど、なんだかんだで、新しくオカ研に入った叶会さんと澪里さんは上手くやっている様で良かった。

 これは叶会さん、というよりは、澪里さんの性格的に珍しい事だ。

 こうして僕と澪里さんに叶会さんも加わり、僕らは楽しい日々を過ごしていった。


 そしてある休日、僕と叶会さんは、二人で一緒に遊ぶ事になった。

 ふう。
 この公園まで来るのにそんなに時間は掛らない。

末那

あ、その……

 目前の女の子の姿。
 どこからどう見ても叶会さんだった。

 でも、そんな彼女を、眺めていたら。

 何か。


 響く。

 頭の中に。

 何かが潰れるような音が。

 赤いものが広がる音が。

逸貴

止めろ……

末那

どうしたの……?

逸貴

止めてくれ……!

 何故か涙が溢れる。

 同時に込み上げてきた嘔吐感に堪えかねて、僕はその場に吐瀉物をまき散らした。

 一体どうしたというのだろう?

末那

だ、大丈夫……?

逸貴

あ、ああ……


 何故か、彼女の姿を見て、視界が真っ赤に染まった。
 血の海のように。

 おかしな事があった所為で、最初は微妙な空気になってしまった。

 しかし、最終的には楽しく遊ぶ事が出来て良かった。
 その過程で、彼女の家庭での悩みも聞く事が出来た。

 そして、それから暫く経ったある日。

 僕は叶会さんの過去の話を聞いた。
 辛く、苦しかった過去の話で、僕も胸が痛くなった。

 だが同時に、その話が、妙にオカルトめいていたのが気になった。
 他人の心を撃ち砕く、心の銃。
 そんなもの、現実にあるのか……?
 不思議ではあるものの、この状況においてそんな事は重要では無かった。
 僕は、自己否定を始める彼女を見ているのが辛くて。
 その否定を、否定した。
"君は悪くない"と。

 だけれど、その対応は、すぐに不適切であったと理解した。
 叶会さんは、言っていたじゃないか。
"本当は優しいと言われたかった"って。
 彼女の罪悪感を否定し、無い事にしようとする行為。
 それは、彼女のアイデンティティを否定する事に他ならなかった。

 そして僕は、心を撃ち砕かれたのだった。
 叶会さんを傷つけていた連中と同じように。

 僕の心は死ぬ。

 筈だった。

 だが、何らかの意識が僕に干渉したのだ。
 その、僕であって僕でない何かは、こう考えていた。

"僕は、こんな所で死ぬ筈が無い"と。


 すると、あろうことか、僕の意識は数分前に戻っていたのだ。
 まるで僕が死んだ事が夢であったかの様に。
 現実離れした死に方だが、それでも死の実感はあった筈なのに。

 そういえば、以前にも同じような事があった。
 あれから時々、言葉にし難い違和感を覚えるようになった。
 それが今、以前にも増して酷くなっている。

 気持ち悪い。
 ひどく気分が悪い。

 だけれど、僕にはひとまず、目の前の状況に対応しなければならなかった。
 死ななかったのであれば、やる事は決まっている。

"最適な選択肢を選ぶ"。

 僕は、叶会さん、末那に想いを伝えた。
"好きだ"と。
 こうして、僕と末那は恋仲といえる関係になった。

 僕は、末那と一緒に幸せな日々を過ごすつもりだった。

 だけれど、何故か、おかしい。

 思い出してみれば、僕はこれまでの出来事に、思ったより心を動かされなかった。
 こんな幸せはないというのに。
 好きになる程素敵な女性と出逢い、恋人になるなんて、きっと最初で最後の出来事なのに。

 この気持ち。
 一言で表すなら……そう……。

”飽き”。

 何故そう表現するのだろう。

 理由は分からないが、まさしくそうであるという感じに、それ以外が思いつかない。
 飽きる訳が無いのに。

 僕はまるで、一連の出来事をすでに経験したかの様に、飽いている。
 だからきっと、"選択の答え"も元から知っていたのだ。
 僕は、敢えて間違えたのかもしれない。
 間違えてみたくて。
 失敗してみたくて。
 もし誤り過ぎて最愛の女の子を失ってしまったら、どうした事だろうって。
 そうはならなかったけど。

 筋書きに逸れた選択をしても、僕は強制的に幸せになる。
 だが筋書きを逸れる度、謎の違和感は大きくなっていく。
 世界から剥離していくかの様に。

 そして僕はまた、エンディングを迎える。

 目が覚める。
 今日、2012年6月1日のカレンダーを見てみると、月曜日だった。いつもの事だが、憂鬱な学校に行かなくてはならない訳だ。

 目が覚める。
 今日、2012年6月1日のカレンダーを見てみると、月曜日だった。いつもの事だが、憂鬱な学校に行かなくてはならない訳だ。

 目が覚める。
 今日、2012年6月1日のカレンダーを見てみると、月曜日だった。いつもの事だが、憂鬱な学校に行かなくてはならない訳だ。

 目が覚める。
 今日、2012年6月1日のカレンダーを見てみると、月曜日だった。

  目が覚める。
  今日、2012年6月1日。月曜日だった。

 目が覚める。
 2012年6月1日、月曜日。

 6月1日。

澪里

おわ……らないっ♪

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