末那

わ、私なんか……

末那

私なんか……私なんか……私なんか……

末那

私みたいなの、光野くんと一緒に居るどころか、生きてるのも罪だよ……

逸貴

叶会さん!

逸貴

僕は、君の事が

末那

え……?

 突然、僕が叶会さんの名前を呼んだ事に、驚いている。



 彼女を受け入れるだけじゃ、まだ弱い。



 だから、僕は。

逸貴

君が好きだ

末那

えっ……?

末那

えっ……ええ……!?

 戸惑っている叶会さんを。

 僕は、抱きしめた。

末那

あっ……!

 温かい。柔らかい。

 こんな事をしていいのか分からないけど、もうなりふり構っていられなかった。

 叶会さんが、愛おしくて。

逸貴

優しい叶会さんが好きだ

末那

うう……

逸貴

優しいからこそ自分の悪意を許せない叶会さんが好きだ

末那

でも、私……

逸貴

君は自分を許さないかもしれないけど、僕は君のそんな所も好きだ

末那

こんな私だよ……

逸貴

そんな君が好きだ。だから、もういいんだ

逸貴

もう"武器"は持たなくて良いんだよ

末那

本当に……?

逸貴

ああ

末那

……

末那

うん……

 ふと、叶会さんの体から僅かに力が抜けた。

 こちらに身を預けてくる。

 

 彼女は顔を上げて、僕を見た。

末那

光野くん

逸貴

どうした?


 何か言いたい事でもあるのだろうか。

末那

私、光野くんと初めて会った次の日、言ったよね

逸貴

未来が見れるっていうアレ?

末那

うん。あれ、実は嘘なんだ

逸貴

知ってるよ

末那

だって……

逸貴

ん?

末那

未来が分かってたら、こんなにドキドキしないよ

逸貴

そうか……僕も同じ気持ちだよ

 翌日。

末那

おはよう、光野くん

逸貴

おはよう

 僕らは、数日前から、ここで待ち合わせして、一緒に登校するようになった。
 今日も、至っていつも通り。

 昨日あんな事があったからって、僕らの関係は急変する類のものではない。

 それでいい。僕らは不器用なんだ。

 やることだって、以前と何も変わらない雑談だ。
 昨日の夜に見たオカルティックなテレビの話題だとか。
 或いは魔術が台頭した現代世界の考証など。


 そんな、何でもないやりとりをするだけ。


 ところが暫く歩くと、叶会さんは少しだけ顔を赤くして、僕を改めて呼んだ。

末那

ねえ、光野くん

逸貴

なに?

末那

その……


 この会話テンポの遅さも、やはり変わらない。
 それにしても、突然どうしたのだろうか。

末那

名前で、呼んでもいい?


 それはつまり下の名前で、と。
 まさか叶会さんからそんな事を言うとは思わなかった。
 もちろん、嫌なわけがない。

逸貴

いいよ。こっちも叶会さんの事、名前で呼んでもいい?

末那

うん……当然だよ

逸貴

それじゃあ……末那?

末那

うん、逸貴くん

 正直、恥ずかしい。

 ただ呼び方を変えただけなのに、これ如何に。



 これじゃあ、まるで恋人同士みたいじゃないか……。
 というか、実際そうであると言えなくもないのか。

澪里

はろー


 今日も澪里さんは、図ったように僕たちに遭遇する。

末那

おはよう

逸貴

ああ、澪里さん。はろー

澪里

"はろー"と言われたら"おはよう"だろ常考

逸貴

ええっなんで!?

末那

そんな事ないよ。それは異界の常識だからここで平和に暮らす分には問題ないよ

 そんな、くだらな過ぎるやりとりの後。

 澪里さんが、僕に耳打ちする。

澪里

ほら、私が居れば最終的には上手くいくんだよ

逸貴

さいですか

澪里

感謝してね!

逸貴

そうかい、ありがとう

 適当に返したものの、あながち嘘の言葉でもなかった。

 澪里さんは、やり方が悪く見えるだけで、実のところは、色々と助けようとしてくれる

 多くの者にとってはそれは余計なお世話である訳だが、僕はそうは思わない。

 だからこそ、彼女を嫌いになれないのだ。

澪里

いやーそれにしても

 澪里さんが、僕と末那の顔を交互に見て、ニヤニヤしている。
 何だか知らないがやめろ。

澪里

そういうことなんでしょ? ねえねえ

逸貴

だからいちいち叩くんじゃない! 痛いんだって!

澪里

妬けるなーこの! えいえい!

末那

駄目だよ、そんなにしたら

澪里

良いじゃん小突いて減るもんじゃないし

逸貴

小突くっていうレベルじゃない痛さなんですが……

澪里

このヘタレ!

逸貴

理不尽だなぁ……

 さて。

 こんなところでいつまでもふざけているのはアレだろう。

逸貴

早く入ろう

澪里

そだね


 そうして僕らが歩こうとすると、末那が僕の手を握ってため息をつく。

末那

はぁ……

逸貴

どうした?

澪里

いや、分かるでしょ

 ……ああ、そうか。

 末那は教室が違うんだったか。

 やっぱり、クラスに馴染めないのだろう。
 その点に関しては、僕だってそうだから、偉そうな事は言えない。

 でも、常に一人ぼっちな訳じゃない。

逸貴

昼休みは一緒にご飯を食べよう

 今に始まった事じゃない。
 末那がオカ研に入ってからは大体そうしていた。

 ただ、改めて誘ってみただけ。

末那

うん

 全てにおいていつも通り。


 だが、これでいい。

 高校生活の中、変わらず一緒に居たい。
 末那。
 もちろん、澪里さんとも。

 いや、高校を卒業しても、彼女がそれを許してくれる限りずっと。


 僕の、唯一無二の幸せでいてほしい。

 幸せとは、言ってしまえば思い込みで。
 故に、事実が必ずしも幸せとは限らない。



 仮に全てがただの夢だったとしても。
 僕は、夢を見ることが出来て幸せだ。



 だから、ここをエンディングとしよう。

 願わくは、また彼女と出逢い、再び共にエンディングを迎える事を。

 ……

澪里

おわり?

第五章―③ エンディング

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