8.休息

・・・は?

これ以上驚くことはないだろう、
そんなことを思っていたのに、
普通に驚いてしまった。

それ・・・どこに繋がっているの?

芹ちゃんが開け放った扉は、
見慣れない部屋に繋がっていた。

廊下に繋がるべき扉のはずなのに、
廊下でない場所に繋がってしまっていた。

驚いた?

そ、そりゃ・・・

驚かないわけがない。

今日はもう何回も驚いているけれど、
やっぱり驚いた。

ここから先は私の世界、
私の夢だから

だからこの夢に居るあなたは、
この境界は越えられない

そういうものなの?

どこに行くのかと思っていたけれど、
扉の向こうにある場所に行くだけなら、
私はついて行きたい。

目に見えない場所ならともかく、
目に見えてしまっては、
そう考え期待してしまう。

うん

今まで誰も、
私の夢には来れなかったから

そ、そうなんだ・・・

目の前に一縷の希望が現れた気がした。

芹ちゃんは来れないと言っているけれど、
本当にそうなのだろうか?

・・・よしっ

ちょっとだけ迷ったけれど、
言わないまま後悔するよりはと思い、
思い切ったことを提案することにした。

あの、芹ちゃん

・・・なに?

私はその扉の向こう側には
行けないんだよね?

そうね

えっとね、
芹ちゃんを疑っている
わけじゃないんだけど

うん

たっ、試してもいい?
扉を通るの

やる前から無理だと言われても、
納得できなかった。

・・・・・・

お願いっ!
試すだけだから!

思案する芹ちゃんに、
駄目押しのお願いを重ねる。

・・・はぁ
分かった、いいよ

でも多分ダメだと思う

それに弾かれると結構痛いから

心配そうに言う芹ちゃんは、
あっさりと扉の向こう側に行って、
振り返った。

通ってみろ、と言うことなのだろうか。

い、痛いのは嫌だけど・・・
が、頑張るぞぉっ!

意を決して、
私は歩き出した。

一歩一歩が、とても遠く感じられた。

それでも、私は前に進んだ。

その先に孤独にならない可能性があるから、
私は目を瞑りながら、敷居を跨いだ。

ええいっ、なるようになれ!

そして私は扉の向こう側へ――

・・・嘘

――行くことができた。

い、行けた・・・!

敷居を跨いですぐの所に居た芹ちゃんが、
目を見開いて驚いていた。

そして唐突にぎゅっと私のことを抱き締めた。

うわわっ!

ど、どうしたの、
いきなり!

ちゃんと居るんだよね

あなたはここに、居るんだよね

ぎゅっとした後、
ペタペタと私の顔や身体を触り
繰り返すように聞いてくる芹ちゃんに、
私は笑顔で答えた。

居るよ!
私は、ここに居るよ!

これで一人にならなくて済むと思い、
目一杯喜び安堵した。

はぁ・・・
まさか本当に来れちゃうだなんて・・・

これで芹ちゃんと
一緒に居られるね!

私、すっごく嬉しい!

そうね
一緒に居られる

やっぱり戻れとか言われても、
戻らないからね?

念の為確認すると、
芹ちゃんは苦笑した。

そんなこと、言わない

えへへ、良かった!

さっきの部屋、
無駄になっちゃったね

芹ちゃんはゆっくりと扉を閉めた。

まぁ、もう必要ないからいいけど

そんな芹ちゃんの呟きを聞き流して、
私は新しくやってきた室内を見渡した。

ここって、図書室?

うん
私が通っていた学校の
図書室がモデル

芹ちゃんが近くと椅子にを引いて座った。

私もそれに倣って、隣の椅子を引いて腰掛けた。

はぁぁぁ・・・
ようやく一息つけるよぉ

お疲れ様

夢の中だから肉体的には疲れないけど、
精神的には結構くるからね

た、確かに身体は
全然大丈夫なんだよね・・・

汗をかいたのに水分を取らなくてよかったのも、
夢だからということなのだろう。

というか今も喉が渇いたり、
お腹が減ったりはしていない。

あぁっ・・・陽の光が
心に沁みるよぉ・・・

そのまま机の上に突っ伏し、
頬を天板に乗せると、
ひんやりとして気持ちが良かった。

・・・くすっ

ふと、芹ちゃんが小さく笑った。

クールでポーカーフェイスな
芹ちゃんの笑顔は、
不意打ち気味に現れて、
すぐに引っ込んでしまった。

それがちょっともったいなく感じられた。

どうしたの?

あなたって、面白い

へ?
そう?

うん
とっても、面白い

それにね、
ここはいつも
私が一人で居る場所だったから、
そこに誰かが居るっていうのが、
不思議で、新鮮で・・・

変な感じがする?

ええ、変ね

でも、悪くはない、かな

一人って、寂しいもんね

しみじみと思う私は、何度も強く頷いた。

一人なのはもう慣れちゃったけど、
でもそうね・・・
やっぱり誰かと居るのは、落ち着く

それじゃあ、
しばらくは私が
居るから寂しくないね!

私も芹ちゃんと居られて
寂しくなくなるから、
良いこと尽くめね!

別に寂しくは・・・
はぁ、まぁ・・・いっか

とはいえ、
いつまで私がここに居られるかは分からない。

それにここがどういう場所かも、
よく分かっていない。

分からないことだらけで、
これから大変になるんだろうという
予感だけはひしひしと感じた。

ただ今は、
ゆっくりと腰を据えて
落ち着けるからと全てを後回しにして、
今は休むことを優先にしている。

色々と説明した方が
いいことがあるんだけど、
とりあえずは休もう

大賛成!

休みながら、
聞きたいこととか整理しておくね!

私もちょっと疲れた

そう言うと、
芹ちゃんは私と同じように
机に突っ伏して天板に頬を乗せた。

くすくすっ、私達何やってんだろ

何って・・・休んでいるんだよ

えへへ、そうだねっ

兎にも角にも、
私はようやく休息を取ることができるのだった。

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