9.再調

すぅ・・・
すぅ・・・

沈んでいた意識が
ゆっくりと浮かび上がって、
私は小さな欠伸を噛み殺した。

んぁっ・・・んくぅ・・・ふぁ

机に突っ伏していた身体を起こし、
きょろきょろと周囲を確認する。

見慣れない図書室。

窓から差し込む明るい日差し。

隣で私と同じように机に
突っ伏して眠る芹ちゃん。

あぁ・・・寝顔も可愛い!

規則的な寝息を立てる芹ちゃんを
じっくりと眺めた。

そしてしばらくすると、
私の視線に何かを感じたのか、
ゆっくりと瞼を開き目を覚ました。

んっ・・・
ふわぁ・・・
ふぅ・・・おはよ

袖口でごしごしと目元を擦った芹ちゃんは、
とろんとした瞳で私を見据えた。

おはよう!

疲れは取れた?

うん!
すっごい楽になった!

そっか

小さく言葉を切って、

それで、夢は見れた?

芹ちゃんは意味深な問いを投げてきた。

夢・・・?

言われ、思い返してみた。

けれど何も覚えていない。

見てない・・・かな

そう

今の問いにはなんの意味があるのだろうか?

芹ちゃんはここが夢の中だって
言っていたけど、
夢の中で眠ったら夢を見れるの?

分からない

ただ、
私は見たことがないから、
ちょっと気になったの

な、なるほど

あなたも見ていないってことは、
夢は見ないのかもしれないね

まぁ、
夢の中で夢を見るっていうのも、
なんだが変な話だもんね

きっと、
もう夢を見ているから
見れないのかも

ここがリアル過ぎて、
夢と言われても
実感は沸き辛いけどね

それでも不思議なことをたくさん見たから、
流石に信じてはいるけれども・・・。

芹ちゃん、
色々と聞いてもいい?

いいよ

聞きたいこと、
まとまった?

ある程度は

本当は自分のことが一番知りたい。

でもそれが簡単に分かることではない、
っていうのは察せられる。

だから現状の方から疑問を潰していこうと思う。

芹ちゃんはここが自分の夢
だって言っていたけど、
それってどういうこと?

私が眠っている間に見ている夢、
その世界がここ・・・なんだと思う

どうしてそれを知覚できているのか、
っていうのは私にも分からない

ただ、
私がここを私の夢だと言ったのは、
この図書室が、
私の記憶にある場所だから

そしてここには
私しか居なかったから

ここは本当に芹ちゃんの
記憶にある図書室なの?

たまたま似ていただけ、
という可能性もあるのではないだろうか。

それは間違いないよ

そこに雑誌類が置いてあるでしょ?

うん

指差された方を見ると、確かに置いてあった。

現実でそれを並べたの、私なの

だから表紙は記憶にあって、
そうやってきちんと描かれてる

でも中身は見ていない

だから中身は真っ白、
記憶にないから

か、確認するね

私はすぐに雑誌置き場に行き、
適当な雑誌を手に取った。

そしてパラパラと捲り、驚いた。

本当だ・・・真っ白

この図書室にある本は、
基本そんな感じになっているの

私が読んだことのある本は読めるけど、
そうじゃないのは真っ白

記憶にないものは、
表紙とかも真っ白になってるよ

そう言われてみると、
なんだか不可解で不気味だ。

だから私は、
ここが自分の夢だと判断した

まぁ、
私以外誰も居ないから、
そう思っているだけで、
本当は違うのかもしれないけど、
それを証明することはできないし、
誰も答えは教えてくれないから

だから自分の夢だって
結論付けたんだね

そういうこと

それじゃあ次

ここに来る前、
鍵とか空気を
造ったりしていたけど、
あれって何・・・?

何、と言われても
あの現象がなんなのかは
私にも分からない

ただ夢の中って定義したこの世界では、
妄想・・・というか空想?
そういうものを具現化できるの

ほ、ほほう・・・

それはちょっと心躍る響きだ。

これは私がここを夢だって
判断した材料の一つかな

そう言って芹ちゃんは掌を上に向けた。

するとその掌から、

紙コップが姿を現した。

おお!

とまぁ、こういう感じ

もちろん結構コツが要るから、
あなたはまだできないと思うけど、
練習すればできるようになると思う

本当!?

それはまるで魔法みたいで、
正直ワクワクしてしまった。

今はあの子・・・
茜さんをなんとかしないと
いけないから教えてあげられないけど、
それが終わって、
もしまだあなたがここに
居たのなら、教えてあげる

茜ちゃん・・・

あまり考えないようにしていたけれど、
言われてしまえば思い出してしまう。

私にチューしてきた、
普通じゃない不可解な子。

あぁ、そうだ

話は少し変わるんだけど、
実は私なりに
あなたの現状について考えてみたの

うん

それはかなり気になる話だ。

客観視された意見は、
私にとっては非常に貴重だ。

一つ、
どういうわけか茜さんの夢にいた

二つ、
どういうわけか記憶がない

三つ、
どういうわけか私の夢に入れる

この三点があなたの現状

全部私が知りたいことでもあるね

とはいえ芹ちゃんにも分からないのであれば、
もうお手上げなのではないだろうか。

それでね、
私が一番不思議に思ったのは、
あなたの夢がどこにあるのか、
っていうこと

私の夢・・・?

今まで私は何人かの人達に
夢で会って来たんだけど、
その誰もが自分の夢の中に居た

だけどあなただけが他人の夢の中に居た

サラッと言ってるけど、
他にも同じ境遇の人が
居るってことだよね

まぁ、それについては、
今は脇に置いておこう。

そしてその人達にはある共通点があるの

共通点?

全員、夢に囚われている

その表現には聞き覚えたあった。

だから、
これからあなたが
何に囚われているのか、
それを調べる

そう言って椅子から
立ち上がった芹ちゃんが、
険しい表情を浮かべた。

女の子

用意するものがあるから、
少し待っていて・・・

・・・ごくっ

それを前に、
私は一人生唾を飲み込み、
その真剣さに気圧されるのだった。

pagetop