先に動いたのは希だった。
簡易デバイスの刀を構え、素早く信也に切りかかる。
いきます!
先に動いたのは希だった。
簡易デバイスの刀を構え、素早く信也に切りかかる。
そう慌てるなって。
言っただろ、お互い楽しもうって。
信也は斧の柄で、希の攻撃を受け止めた。
そして、希を押し返し、再び斧を構え直す。
簡易デバイスとはいえ、あのスピードの攻撃を受け止めるとは、さすがSクラスって感じですね。
空中で体制を立て直した希は、笑顔で信也に話しかける。
希ちゃんのスピードくらいなら、優斗との試合で何度も見ているからね。
信也が斧を構えたまま答える。
じゃあ、このくらいのスピードはどうですか?
そう言って希は、信也に押し返された距離を一気に詰め、もう一度信也に切りかかる。
おっと。さっきよりも早く動けるのか。
でも、その攻撃じゃあ、俺には通用しないよ。
信也は余裕だと言わんばかりの笑顔で、希の攻撃を受け止めて言った。
へえ、じゃあ、このスピードは?
希はスピードを更に上げ、信也の背後に回り込み、切りかかる。
信也は背後に回った希に対し、体の向きを変えず背中に斧を回して希の攻撃を受け止めた。
どうして、攻撃が当たらないの?
信也に何度も切りかかるうちに、疑問に思うようになった希は、一度距離をとり、攻撃の手を緩め、体力の回復を選択した。
お、もう終わりか?
なら、そろそろこっちの攻撃に移らせてもらうよ!
信也がそう言うと、信也は斧を構えたまま、一気に距離を詰めてくる。
そのスピードは希が見てきた斧の使い手の中で、最も速いスピードだった。
はあ!
信也は斧を大きく振りかぶり、希をデバイスごと切りかかった。
――――――っく!
希は間一髪の所で後方に下がり、信也の攻撃を避ける。
岩場の地面に斧が突き刺さり、その衝撃で、地面に無数の亀裂が入る。
へえ、今の攻撃を避けるのか。
なかなかやるじゃないか。
信也が、斧を地面から抜き、再び斧を構え直して言った。
あのままじゃ、勝てないわよ。
審判の位置から戻ってきた瑞希が、一階にある参加者用控え席に戻ってきた。
控え室は、防音効果を施した壁でできており、外の音が全く聞こえないようになっている。
また、同時に中の音も外には聞こえない。
まあ、そこで終わらないのが神裂一族だからな。
そう言って神裂 優斗は、飲みかけのペットボトルの水を飲み干し、キャップをして机の上に置く。
随分信用しているようね。
神裂 希って、一体何者なの?
瑞希は優斗に聞く。
俺の婚約者。
優斗がそう言うと、瑞希の顔が一気に赤くなり、動揺し始めた。
え?
こここ、婚約者って、どどど、どういうこと?
そんな話一切聞いてないんだけど。
瑞希が、動揺しながら優斗に聞くと、優斗は自分のデバイスを簡易デバイスに変形させ、その刀身を布で拭きながら説明した。
ああ、俺も今朝聞いたんだよ。
まあ、最初聞いた時はびっくりしたけど、親同士が勝手に決めたことらしいし、本当にそうなるかはわからないけどな。
優斗は笑いながら瑞希に言う。
え、ちょっと待って。
そんな話、私、知らないよ?
瑞希が少し焦った表情で優斗に聞く。
いや、それは当然だろ。
瑞希は神裂一族じゃないし。
優斗が当然のことのように言う。
そ、そうだね。
いくら幼馴染だからって、そこまで知ってるわけないよね。
そう言って瑞希は笑い、「じゃあ、そろそろ審判の仕事に戻るね。」と言って、控え室から慌しく出て行った。
何だったんだ?
優斗が疑問に思っていると、机の下から霧咲 静香が顔を出した。
神裂 優斗、相変わらず鈍い人ですね。
うわあ!
突然のことに、優斗は声を上げる。
いつからいたんだよ。
瑞希と入れ違いで来ました。
ところで、何の話をしていたのですか?
控え室の椅子に座って、静香が聞く。
いや、入ってきたところを見てないし、絶対最初からいただろ?
優斗は静香に聞き返す。
いませんよ。
優斗がここに入ってくるなり、椅子に座ったかと思えば、突然独り言を喋り出して、かと思えば、空中でおっぱいを揉むかのような仕草をしたところなんて見ていません。
うおおいいいい!
やっぱり、最初から居たんじゃないか!
優斗は静香に言う。
まあ、それは置いておいてですね。
静香は話題を無理やり元に戻そうとする。
「置いておいてですね。」じゃねーよ……。
事実、私はその時の話を聞いていません。
いや、ここに居たんだろ?
居ませんでしたよ?意識だけは。
静香が当然のように答える。
お前、また寝てたのか。
てか、どこに隠れてたんだ?
優斗は静香に聞く。
まあ、そんなことはどうでもいいじゃないですか。
それよりも、さっきの話を話してくださいよ。
静香は優斗を見つめる。
でも、さっき、俺の事を鈍い人だとか言ってたよね?
それって、話を聞いてたってことだよね?
優斗は、静香に言う。
まあ、大体のことは、予想がつきますけどね。
静香は呆れた顔で雄斗を見る。
優斗は試合までの暇つぶしに、静香に今までのことを話すことにした。
ああ。やっぱり鈍い人ですね。
静香は更にこう続けた。
まあ正直、私も編入生が婚約者って展開は予想していませんでしたけど。
まあ、これは、瑞希にも言ったんだけど、本当にこのままそうなるって訳でもないし。
俺がそう言うと、静香はため息を一つつき言った。
まあ、何と言うか。瑞希も不憫よね。
不憫?
一体何が不憫なのか?
優斗は、静香の言葉に疑問を感じた。
瑞希のことは私に任せてください。
私は瑞希の右腕ですからね。
お、おう……。
よろしく……。
静香は控え室を出て行った。
不憫?
優斗は一人、部屋で考えるのであった。