陽菜

鼻血止まった?

ん……

神田さんが、ソファーに横になる私を見下ろして、心配そうに尋ねてくれる。
倒れた拍子にふらついてしまい、安静にしている私。

陽菜

……ったくさぁ!
何で邪魔してくるかなそっちの二人!

陽菜

余計な怪我人増えちゃったじゃん!
逆井さんは何にも悪くないのに!!

後ろで頭を抱えていた邪魔をした二人に怒鳴る。
完全に神田さんは怒っている。
私は何も言わないことにした。

なんだと……ッ!
お前達こそ何を考えているッ!?
人を殺したんだぞ、お前らが!!

挙句にその言い分かッ!!
罪の意識を持つ気がないのか!!

反論としては、悪くない。
指摘するのが普通だと思う。
だが、それには弱点がある。

陽菜

死にたくないから投票しただけじゃん!
あたし達は言われたとおりにしただけ!
死んだのは犯人たちの仕業でしょ!

――そう、この言い返しの仕方だ。
死にたくないから投票した。
言われたとおりにしただけ。
殺したのは犯人たち。
だから私達は悪くない。
だって、私たちがしたのは厳密に言うならただ、ゲームで投票して建物から追い出しただけだ。
詭弁もいいところだろうが、一種の事実であるが故に完全な否定はできない。

私はそこまで計算していたわけじゃない。
本当に死物狂いであいつを追い出した。
死にたくなかったから。

桃子

死にたくなければ殺してもいいの?
そんなのおかしいじゃない!

陽菜

おかしいって言えるのはさ
自分が生きてるからだ
死んじゃったらそれもできないんだよ……
他人減らしてでも生き残りたいと思う方が余程普通だよ!

生きていなければ後悔だって出来ない。
生き残る努力を建前を優先して放棄するならそれも良い。
だけど、私たちを巻き込んで共倒れするような真似だけはさせない。

陽菜

誰に投票しようがあたしはそっちを恨まない
殺したくないなら勝手にすればいい
だけど……次あたし達の邪魔したら、丸ごと放り出して殺すからね

警告するように冷えきった声で威嚇する神田さん。
よく見れば、周りの人は減っていた。
チンピラも居ないし、あのガタイのいい人もいない。
残っているのは上田さんや車屋さんだけだ。
黙って言い合いを眺めている。

ん……

ゆっくりと上体を起こして、私も舌戦に加勢する。
神田さん一人に任せるわけにもいかない。

悪いと言いたければ言えばいい
人殺しと言いたければ言えばいい
結局は生きている方が正義
敢えて言わせてもらうけど
私達の方が、正しいから

間違ったことなんてしてない
言われたことを、言われたとおりにしているだけ
疑問を言える立場じゃない
私達は囚われの身である以上、要求に従わないとすぐにでも死んでしまうかもしれない

冷静に考えればすぐに答えはたどり着く

殺せというなら殺すしかない
嫌だろうがやりたくなかろうが
私たちの意思なんて関係ないんだから

結論はそれだけだ。
言われたことをするしかないんだ。
その答えが嫌なのか、頑なに認めない二人。
これ以上は平行線だ。するだけ無駄。

私達も戻ろう、神田さん

陽菜

もう動いて大丈夫なの?

平気

陽菜

そかそか
じゃあ取り敢えず行こ

神田さんと私は、夜間過ごす部屋を探すために移動することにした。
先ほどの説明の中で与えられた部屋があると言っていたし、探してみないと。

お前たちは……ッ!

陽菜

しつこい、ウザい
話すことなんてもうないよ

お菓子の人がまだ何か言おうとするのを神田さんは一言で片付けて無視。
私もそうする。

桃子

認めない、絶対に認めないから……!

それは自由だよ
ルールに違反しない限りはね……

認めないのも個人の考えだ。
抵触しない限りは、死にはしないだろう。
まぁ、意地を張って死ぬなら私は助かるけど。

陽菜

逆井さん、行こう!

うん、行こう

背後でまだ不満不平を漏らす二人を放置して、私達は部屋を出た。
やることはもう終わった。少し、休みもう……。

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