祖母の家に帰った俺は、
 元々俺の自室として使っていた部屋の
 押し入れを開けた。

瑛人ー。
帰ってるのー?

瑛斗

うん。
ちょっと探し物してる

 ずっと記憶に引っかかってたもの。
 押し入れの奥底。段ボールの中。

瑛斗

……あった

 それは、古ぼけたアルバムだった。

 数年前、
 俺がこの町に住んでいた頃の思い出。

 その写真の中には、さっきの少女――
 玲菜と俺が写ったものもあった。

 玲菜とは幼馴染みで、
 学校に登校するのも、遊ぶのも、
 ずっと一緒だった。

 親友――そう、玲菜と俺は親友だった。

瑛斗

なのに……

 俺は、どうして忘れていたのだろうか。

 時間のせい?
 いや、他の事は覚えていた。

 玲菜のことだけ、
 どうしても思い出せなかった。

 忘れてる事は、きっとまだある。
 それは何となく分かった。

 玲菜の事を思い出そうとすると、
 少しだけ靄(もや)がかかるんだ。

 明日、玲菜の家に行く。
 そして、確かめる。

 俺がまだ忘れている事。

 さっき、
 玲菜が俺に不安な眼差しを送った理由。

 数年ぶりのこの玄関。
 

 「穂高(ほだか)」と表札に書かれたこの家は
 玲菜の家だ。

瑛斗

……

 家の前にいる俺は
 チャイムを押そうとするも、
 なぜか躊躇してしまった。

 前みたいに、遊びに誘うみたいに、
 ボタンを押すだけなのに。

 どうしてか、それが出来なかった。

あら?

 背後から女性の声が聞こえた。

 振り向くと、若いなりにも
 大人の色気を漂わせた女性が
 首を傾げて立っていた。

女性

もしかして、えーくん?

その名前は、二人を繋ぐのか

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