机に突っ伏したまま視線だけを慧人に向け、桜花は唇を尖らせた
二人だけの秘密って言ったじゃないですか~と小言も、ダダ漏れである
しかし慧人は、その小言さえ無視して自分のスマホを操作した。そしてスクロールする指をピタリと止め、ある記事を音読するのであった
あー雫先輩にあいたいなあ
よっす
はよー
けいちゃんはよー
相変わらず、心ここにあらずって感じだな
どーせ、先輩関係の事なんだろ?ポエマニスト大先生
け。けいちゃん!その話は学校ではやめてくださいってお願いしましたよね?
しかも変な名前まで付けるなんて…悪趣味です
机に突っ伏したまま視線だけを慧人に向け、桜花は唇を尖らせた
二人だけの秘密って言ったじゃないですか~と小言も、ダダ漏れである
しかし慧人は、その小言さえ無視して自分のスマホを操作した。そしてスクロールする指をピタリと止め、ある記事を音読するのであった
だって事実だろ
今巷で話題の綿菓子大先生。その恋愛経験の豊富さとみずみずしい文章は学生たちを中心に大きな反響の渦を巻き起こしているってこの記事に紹介されてるけど?
ちょ…聞いてないです!?
こうやって紹介されるってことは、人気ってことだろ
それは有りがたいことなのですが…勝手に綿菓子さんのイメージが独り歩きしてるような
綿菓子さん…
こんなに人気が出ることを当時の桜花は一ミリたりとも想像していなかった
「ただ、雫先輩との関係がこうなればいいな」
最初はこんなにも簡単な理由だった。ブログをまとめ投稿する度にその思いが若い世代を中心に共感を得た…桜花の自分の気持ちは肯定されているといった満足感をその都度味わうのであった
しかし、多くの読み手はこのブログを作者から意中の男性への切ない感情の吐露としか思われてないのもまた事実である
その顕著な例が雫だ
彼女はこの文章を読み、そして頬を染めてこう言うのであった
「私もこんな感情に溺れるような恋愛ができる、男性に出会いたい」
雫先輩が好き…でもこのことが知られてしまったら、きっと今みたいな関係は崩れてしまう…最悪、嫌われてしまうのかな
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だいせんせー
あの、自分の世界に閉じこもるのやめてくださーい
わわっ
痛いです!!
だって
声かけても全く反応しなかったから
だからってデコピンしなくてもいいじゃないですか!
おでこを両手で押さえながら桜花は慧人の方を睨みつけた
まーごめんって
今度アイス奢るから許して、な?
駅前のきなこ三段アイス黒蜜掛け、きなこ多めじゃないと許しませんからね?
お前大豆になるぞ…?
ま、りょーかいですよ。だいせんせいさまー
そう言い残すと、慧人は桜花の席を離れた
間もなくHLの始まる時間
慧人は窓際の自分の席に座り、風の吹く方を向きながらつぶやく
二人だけの秘密…ね
あいつの中にはいつもには先輩がいて、割り込む隙も何も無いよなぁ…
はー。人生ハードモードって感じ
膨らむカーテンを手で押さえつつ、深々と少年はため息をつくのであった