ーーミッドナイト・???
ーーミッドナイト・???
・・・・・・ごめんなさい、妖精さん・・・こんなことになってしまって・・・
あたしとスクラップは、あの男たちに連れられてトラックの荷台の中にいた・・・いったい、これからどうなっちゃうのかしら・・・
ううん・・・あなたのせいじゃないわ、スクラップ・・・
・・・・・・あ、あの・・・それで、なんですけど・・・
うん?なあに、スクラップ?
・・・その、怒っているのはわかります・・・でも、その・・・スクラップって呼ぶのは・・・やめていただけないでしょうか・・・?
へ?ぜんっぜん怒ってないわよ?それに、「スクラップ」ってあんたの名前じゃないの・・・?
ち、違いますよ!!
スクラップっていうのは、廃棄処分された機械のなれはてです!!
うええそうなの!?だ、だってあいつらあんたのことスクラップって・・・?
アレは、ボクが廃棄処分が決まったアンドロイドだからです・・・そもそも、ボクには名前なんてありません。
廃棄処分って・・・!どうして?あんた人間でしょう!?
い、いや・・・ボクはアンドロイドです・・・さっき、治癒魔法をかけても傷が治らなかったでしょう?あれは、ボクがアンドロイドだからです。
・・・???アンドロイドっていう種族なの・・・?
面白いことをいいますね・・・アンドロイドは、人間に似た姿をしたロボットのことですよ。
ふえ!?じゃ、じゃ・・・あんたロボットなの!?人間じゃなくって!?
はい、そうです。
うっそ・・・全然わからなかったわ・・・
・・・ていうかこれ・・・もしかしたらあたし、すっごく失礼な呼び方してたんじゃないかしら・・・?
うわわわわ!!!ごめんなさい!!あたし今まで本当にあなたの名前が、そ、その、スクラップだと思ってたのよ!!ごめんなさい!!
い、いえ・・・!勘違いなら仕方ありませんよ!!それに事実ですし・・・!
うーん・・・彼はああ言ってるけど・・・何かお詫びをしなきゃ・・・うーん・・・そうだ!!
ねえ、あんた、名前がないっていってたわよね?
え・・・?は、はい・・・
じゃ、あたしがあんたに名前をつけてあげるわ!その方が呼びやすいし、名前があれば、もうスクラップなんて呼ばれないでしょう?
えっ・・・で、でも・・・
まっかせなさい!最高にいい名前を考えてあげるわ!それに、これは今まで名前を間違えていたお詫びよ!
・・・・・・・・
うーん・・・何が良いかしらねぇ・・・アンドロイド、だから、「アン」・・・?んん、何か違うわね・・・ロボットの「ロボ」・・・んんー・・・?
・・・・・・Tー031・・・
へ?
Tー031・・・ボクの製造番号です・・・なにか、ヒントになれば、と思って・・・
Tー031・・・T・・・0・・・・・・・・・「と」・・・?
・・・!これだわ!!
は、はい・・・?
あたしは、男の子の鼻先まで飛んで行き、びしっと人差し指で彼を指さして言った。
あんたの名前は「トミー」!T031の語呂合わせで、トミーよ!!
・・・・・「トミー」・・・ボクの、名前・・・?
ど、どうかしら・・・?
男の子は、しばらく「トミー」と繰り返し、そして・・・
うえ!?ちょ、ちょちょちょ何!?何してるの!?
あたしの前に跪いた・・・。
名前をもらったら、アンドロイドはその人に仕えるんです。名前をもらったお礼に、その人のために尽くすんですよ。
え・・・?そ、そんな、つ、仕えるって・・・?
ご主人、あなたのことを教えてください。あなたのために、何でもいたしますよ。
・・・・・・・
こ、こんなことになるんだったら・・・もっとちゃんとした名前考えてあげるんだったわ・・・
あたしはトミーに自己紹介をし、ここまでアルトたちと旅をしてきたことを話した。するとトミーは満足そうにうなずき、あたしをさっきより優しく抱きかかえた・・・。
と、トミー・・・?
でしたら、まずはアルトさんたちと合流しないといけませんね・・・
で、でも・・・ここからどうやって出るのよ・・・?どこかもわからないのよ・・・?
心配いりません。ここがどこかはもうわかっていますし、それに・・・
ずっとガタガタと揺れていた荷台の揺れ幅が小さくなっていく・・・もしかして・・・?
開いたら一気に出ます。絶対に顔を上げてはいけませんよ。
え・・・ね、ねえ、まさか・・・強行突破なんて、する気じゃないわよね・・・?
はい。
あ、よかった・・・その気は無いのね・・・でも、じゃあ出るって一体・・・
その通りですよ。
荷台の扉が開き、トミーが一気に加速する・・・!?
いやああああああああああ!?!?!?
しっかり捕まっててくださいね、ルナさん!!
うおあ!?お、おい!!待ちやがれ!!
何やってんだお前は!!早く捕まえるぞ!!
トミーは二人の包囲網をするりと抜けて、閉まりかけている車庫のシャッターをスライドでくぐり抜ける・・・!
わあああああ今危なかったじゃない!!しまっちゃったらどうするつもりだったのよ!!
ご、ごめんなさい・・・間に合うと思って・・・
お叱りは後でまとめて受けます!今は逃げましょう!!
一瞬止まったと思ったら!!
トミーは再度加速を開始し、大きな色とりどりの塊が飛び交う通路を駆け抜ける・・・!
いやああああああああ!!!!止めてええええええ!!!!
あたしの叫びは、通路の喧噪に瞬く間に飲み込まれていったーー。
ーーミッドナイト・???
おいてめえ!!どうなってやがる!!
アレにあんな機能ついてるなんて聞いてねえぞ!!
・・・・・・・・・
そろそろ、何か話していただきたいんだがなぁ?俺たちは、あいつを廃棄処分するって名目で追ってはいるが・・・お上は一体何考えてんだか・・・
何とか言えよ糞ガキ!!Dr.ロイドの孫だかなんだかしらねえが、いい加減にしないと・・・そろそろキレるぜ?
・・・・・・・・・
・・・・・・話す気は無い、か・・・
こいつ・・・!
ちっ・・・行くぞ。
畜生!!何でこいつにてぇだすのがダメなんだよ!!拷問した方が早いだろうに・・・!
・・・・・・・・・
・・・はあ・・・
Tー031・・・あの子を、今の政府に渡すわけにはいかない・・・頼む・・・逃げ切ってくれ・・・僕の大事なーー。
——ミッドナイト・中央政府
うっわ…でっけー……
さっきのビルよりもっとでかいよ…すごい…
うっし、ちょっと話してくっから、そこのソファ座って待ってろ
う、うん……
ネプト…こんなところにまでツテがあるなんて…
義賊団の関係かな?
有り得なくもないな…少なくとも、もうここは活動範囲みたいだし…
よっ、お待たせ
はっや!?
事前に連絡もとってたしな。したら、ルナのこと以外にもいろんなことが分かった
んう?どんな??
んー、まあとりあえずはルナの情報から…結論から言うと、あいつは既に逃げ出したらしい
え…?
1度はここに護送されたって話だが…一緒に護送されていたアンドロイドと逃げたとか
そんな…それじゃあ、すれ違いになったってこと?
そうだな…失敗した。誰かノーツモニュメントに残ってもらえばよかった…
一緒に逃げたっていうアンドロイドも気になるね…しかも護送されたって…大丈夫かなぁ…
そこは心配ねえな。そのアンドロイドは既に故障してて、スクラップ場から逃げ出したやつらしいから、そうそう悪さはできねえだろ
そうかなぁ…
ああ…んで、こっからが不穏な話なんだが…
不穏?
ああ…ひとことでいうと…この国やべえ。
どういうこと?
つい最近…とある天才学者が、戦闘に優れたアンドロイドを作ったらしい。表面上はこの都市を収める首相の護衛としてって話だったんだが…実は違うとか
……つまり?
古臭い思想ではあるんだが……そいつを利用して、政府は恐怖政治をしようとしている。
恐怖政治…って言うと…
近年、国民からの首相への支持率が著しく下がっているらしくてな…おそらく、それを回復して、政府を立て直すためだろう
でも、そんな事したら逆に人がついてこなくなるんじゃ…?
アルマ…お前は勇気があるんだな…人間ってのはな、どうしようもないほど強い力の前では、屈せざるを得ないんだ。どんなに従いたくなくても、どんなに苦しくても…
そんな…
でな、ここからがまた厄介なとこで
まだなんかあるの…?
正直こっちのがやばいな…恐怖政治を成功させたら、次はーー
——ミッドナイト・ノーツモニュメント前
あれぇ…?いない…
探しに行ってしまったのでしょうか…?どうしますか、ルナさん。待ちますか?
あたし達は、ひとまずノーツモニュメントの前に戻ってきた。でも、そこにアルトたちの姿はおろか、人1人も見当たらない…ちょっと不気味ね…。
この時間になると、このあたりは閑散としてしまいますからね…無理もないです
どうしよう…とりあえず、予約した宿に行ってみようかしら…?
それはまずいと思いますよ
え、なんで?
都市のアンドロイドは、ミッドナイト中に張り巡らされている情報線を伝って、様々な情報を得ることができます…おそらく、既にルナさんの情報も…
アンドロイドの情報網強すぎ!!
うっそ…じゃあどうすればいいのよ…?
……運良くアルトさんたちがここに戻ってくるのを待つか、あるいは…
っ!!ルナさん、逃げます!!
えええっ!?ちょっ、待ってよぉぉぉぉ!!!
何も居なかったわよ!?なんで急に!?でも、程なくしてその理由がわかる…背後から響いてくる無数のサイレン…多分、あたし達はこれから逃げてるんだわ…あたし達は、さっき出てきたばかりの塊が飛び交う通路に戻っていった…。