ーーミッドナイト・???

・・・・・・ごめんなさい、妖精さん・・・こんなことになってしまって・・・

あたしとスクラップは、あの男たちに連れられてトラックの荷台の中にいた・・・いったい、これからどうなっちゃうのかしら・・・

ルナ

ううん・・・あなたのせいじゃないわ、スクラップ・・・

・・・・・・あ、あの・・・それで、なんですけど・・・

ルナ

うん?なあに、スクラップ?

・・・その、怒っているのはわかります・・・でも、その・・・スクラップって呼ぶのは・・・やめていただけないでしょうか・・・?

ルナ

へ?ぜんっぜん怒ってないわよ?それに、「スクラップ」ってあんたの名前じゃないの・・・?

ち、違いますよ!!
スクラップっていうのは、廃棄処分された機械のなれはてです!!

ルナ

うええそうなの!?だ、だってあいつらあんたのことスクラップって・・・?

アレは、ボクが廃棄処分が決まったアンドロイドだからです・・・そもそも、ボクには名前なんてありません。

ルナ

廃棄処分って・・・!どうして?あんた人間でしょう!?

い、いや・・・ボクはアンドロイドです・・・さっき、治癒魔法をかけても傷が治らなかったでしょう?あれは、ボクがアンドロイドだからです。

ルナ

・・・???アンドロイドっていう種族なの・・・?

面白いことをいいますね・・・アンドロイドは、人間に似た姿をしたロボットのことですよ。

ルナ

ふえ!?じゃ、じゃ・・・あんたロボットなの!?人間じゃなくって!?

はい、そうです。

ルナ

うっそ・・・全然わからなかったわ・・・

・・・ていうかこれ・・・もしかしたらあたし、すっごく失礼な呼び方してたんじゃないかしら・・・?

ルナ

うわわわわ!!!ごめんなさい!!あたし今まで本当にあなたの名前が、そ、その、スクラップだと思ってたのよ!!ごめんなさい!!

い、いえ・・・!勘違いなら仕方ありませんよ!!それに事実ですし・・・!

うーん・・・彼はああ言ってるけど・・・何かお詫びをしなきゃ・・・うーん・・・そうだ!!

ルナ

ねえ、あんた、名前がないっていってたわよね?

え・・・?は、はい・・・

ルナ

じゃ、あたしがあんたに名前をつけてあげるわ!その方が呼びやすいし、名前があれば、もうスクラップなんて呼ばれないでしょう?

えっ・・・で、でも・・・

ルナ

まっかせなさい!最高にいい名前を考えてあげるわ!それに、これは今まで名前を間違えていたお詫びよ!

・・・・・・・・

ルナ

うーん・・・何が良いかしらねぇ・・・アンドロイド、だから、「アン」・・・?んん、何か違うわね・・・ロボットの「ロボ」・・・んんー・・・?

・・・・・・Tー031・・・

ルナ

へ?

Tー031・・・ボクの製造番号です・・・なにか、ヒントになれば、と思って・・・

ルナ

Tー031・・・T・・・0・・・・・・・・・「と」・・・?

ルナ

・・・!これだわ!!

は、はい・・・?

あたしは、男の子の鼻先まで飛んで行き、びしっと人差し指で彼を指さして言った。

ルナ

あんたの名前は「トミー」!T031の語呂合わせで、トミーよ!!

・・・・・「トミー」・・・ボクの、名前・・・?

ルナ

ど、どうかしら・・・?

男の子は、しばらく「トミー」と繰り返し、そして・・・

ルナ

うえ!?ちょ、ちょちょちょ何!?何してるの!?

あたしの前に跪いた・・・。

トミー

名前をもらったら、アンドロイドはその人に仕えるんです。名前をもらったお礼に、その人のために尽くすんですよ。

ルナ

え・・・?そ、そんな、つ、仕えるって・・・?

トミー

ご主人、あなたのことを教えてください。あなたのために、何でもいたしますよ。

ルナ

・・・・・・・

ルナ

こ、こんなことになるんだったら・・・もっとちゃんとした名前考えてあげるんだったわ・・・

あたしはトミーに自己紹介をし、ここまでアルトたちと旅をしてきたことを話した。するとトミーは満足そうにうなずき、あたしをさっきより優しく抱きかかえた・・・。

ルナ

と、トミー・・・?

トミー

でしたら、まずはアルトさんたちと合流しないといけませんね・・・

ルナ

で、でも・・・ここからどうやって出るのよ・・・?どこかもわからないのよ・・・?

トミー

心配いりません。ここがどこかはもうわかっていますし、それに・・・

ずっとガタガタと揺れていた荷台の揺れ幅が小さくなっていく・・・もしかして・・・?

トミー

開いたら一気に出ます。絶対に顔を上げてはいけませんよ。

ルナ

え・・・ね、ねえ、まさか・・・強行突破なんて、する気じゃないわよね・・・?

トミー

はい。

あ、よかった・・・その気は無いのね・・・でも、じゃあ出るって一体・・・

トミー

その通りですよ。

荷台の扉が開き、トミーが一気に加速する・・・!?

ルナ

いやああああああああああ!?!?!?

トミー

しっかり捕まっててくださいね、ルナさん!!

チャラめの政府職員

うおあ!?お、おい!!待ちやがれ!!

刺青がある政府職員

何やってんだお前は!!早く捕まえるぞ!!

トミーは二人の包囲網をするりと抜けて、閉まりかけている車庫のシャッターをスライドでくぐり抜ける・・・!

ルナ

わあああああ今危なかったじゃない!!しまっちゃったらどうするつもりだったのよ!!

トミー

ご、ごめんなさい・・・間に合うと思って・・・

お叱りは後でまとめて受けます!今は逃げましょう!!

一瞬止まったと思ったら!!
トミーは再度加速を開始し、大きな色とりどりの塊が飛び交う通路を駆け抜ける・・・!

ルナ

いやああああああああ!!!!止めてええええええ!!!!

あたしの叫びは、通路の喧噪に瞬く間に飲み込まれていったーー。

ーーミッドナイト・???

チャラめの政府職員

おいてめえ!!どうなってやがる!!
アレにあんな機能ついてるなんて聞いてねえぞ!!

・・・・・・・・・

刺青がある政府職員

そろそろ、何か話していただきたいんだがなぁ?俺たちは、あいつを廃棄処分するって名目で追ってはいるが・・・お上は一体何考えてんだか・・・

チャラめの政府職員

何とか言えよ糞ガキ!!Dr.ロイドの孫だかなんだかしらねえが、いい加減にしないと・・・そろそろキレるぜ?

・・・・・・・・・

刺青がある政府職員

・・・・・・話す気は無い、か・・・

チャラめの政府職員

こいつ・・・!

刺青がある政府職員

ちっ・・・行くぞ。

チャラめの政府職員

畜生!!何でこいつにてぇだすのがダメなんだよ!!拷問した方が早いだろうに・・・!

・・・・・・・・・

・・・はあ・・・

Tー031・・・あの子を、今の政府に渡すわけにはいかない・・・頼む・・・逃げ切ってくれ・・・僕の大事なーー。

——ミッドナイト・中央政府

アルト

うっわ…でっけー……

アルマ

さっきのビルよりもっとでかいよ…すごい…

ネプト

うっし、ちょっと話してくっから、そこのソファ座って待ってろ

アルト

う、うん……

アルマ

ネプト…こんなところにまでツテがあるなんて…

アルト

義賊団の関係かな?

アルマ

有り得なくもないな…少なくとも、もうここは活動範囲みたいだし…

ネプト

よっ、お待たせ

アルマ

はっや!?

ネプト

事前に連絡もとってたしな。したら、ルナのこと以外にもいろんなことが分かった

アルト

んう?どんな??

ネプト

んー、まあとりあえずはルナの情報から…結論から言うと、あいつは既に逃げ出したらしい

アルト

え…?

ネプト

1度はここに護送されたって話だが…一緒に護送されていたアンドロイドと逃げたとか

アルマ

そんな…それじゃあ、すれ違いになったってこと?

ネプト

そうだな…失敗した。誰かノーツモニュメントに残ってもらえばよかった…

アルマ

一緒に逃げたっていうアンドロイドも気になるね…しかも護送されたって…大丈夫かなぁ…

ネプト

そこは心配ねえな。そのアンドロイドは既に故障してて、スクラップ場から逃げ出したやつらしいから、そうそう悪さはできねえだろ

アルマ

そうかなぁ…

ネプト

ああ…んで、こっからが不穏な話なんだが…

アルト

不穏?

ネプト

ああ…ひとことでいうと…この国やべえ。

アルト

どういうこと?

ネプト

つい最近…とある天才学者が、戦闘に優れたアンドロイドを作ったらしい。表面上はこの都市を収める首相の護衛としてって話だったんだが…実は違うとか

アルマ

……つまり?

ネプト

古臭い思想ではあるんだが……そいつを利用して、政府は恐怖政治をしようとしている。

アルト

恐怖政治…って言うと…

ネプト

近年、国民からの首相への支持率が著しく下がっているらしくてな…おそらく、それを回復して、政府を立て直すためだろう

アルマ

でも、そんな事したら逆に人がついてこなくなるんじゃ…?

ネプト

アルマ…お前は勇気があるんだな…人間ってのはな、どうしようもないほど強い力の前では、屈せざるを得ないんだ。どんなに従いたくなくても、どんなに苦しくても…

アルマ

そんな…

ネプト

でな、ここからがまた厄介なとこで

アルト

まだなんかあるの…?

ネプト

正直こっちのがやばいな…恐怖政治を成功させたら、次はーー

——ミッドナイト・ノーツモニュメント前

ルナ

あれぇ…?いない…

トミー

探しに行ってしまったのでしょうか…?どうしますか、ルナさん。待ちますか?

あたし達は、ひとまずノーツモニュメントの前に戻ってきた。でも、そこにアルトたちの姿はおろか、人1人も見当たらない…ちょっと不気味ね…。

トミー

この時間になると、このあたりは閑散としてしまいますからね…無理もないです

ルナ

どうしよう…とりあえず、予約した宿に行ってみようかしら…?

トミー

それはまずいと思いますよ

ルナ

え、なんで?

トミー

都市のアンドロイドは、ミッドナイト中に張り巡らされている情報線を伝って、様々な情報を得ることができます…おそらく、既にルナさんの情報も…

アンドロイドの情報網強すぎ!!

ルナ

うっそ…じゃあどうすればいいのよ…?

トミー

……運良くアルトさんたちがここに戻ってくるのを待つか、あるいは…

トミー

っ!!ルナさん、逃げます!!

ルナ

えええっ!?ちょっ、待ってよぉぉぉぉ!!!

何も居なかったわよ!?なんで急に!?でも、程なくしてその理由がわかる…背後から響いてくる無数のサイレン…多分、あたし達はこれから逃げてるんだわ…あたし達は、さっき出てきたばかりの塊が飛び交う通路に戻っていった…。

第四楽章 ルナ、没収される 3

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