3.逃走

はぁはぁ・・・はぁはぁ・・・

あれからどれだけ走っただろうか。

不可解な女の子から逃げるように走った私は、
今尚近付いてくる女の子から逃げるべく、
神経を尖らせていた。

足音は・・・

人気がないが為に、
人混みで相手を撒くことができない。

というか、そもそもの話、
人気があれば、
とっくに誰かしらに泣きついている。

うぅ・・・まだある・・・

しかし人気がないからこそ、
相手の足音をしっかりと感じ取ることができ、
上手く逃げられているのも事実であった。

私があの子よりも小柄だから、
色々と無茶な逃げ方をすれば、
まぁ・・・なんとかなる

なる・・・んだけど、
逃げ切れてはいないんだよね

今も足音は聞こえてくるし、
まだ近くに居ると思う・・・

はぁ・・・どうしてこんなことに

思うことは数え切れないぐらいあったけれど、
今は逃げることが先決である。

無駄な思考を頭の隅っこに追い遣って、
逃げることだけを考える。

幸い今は距離を離せているので、
この調子であの子を煙に巻きたい。

よし・・・!

行こう!

乱れた呼吸を少しだけ落ち着かせて、
私は再び駆け出した。

民家の連なる路地を抜けた私は、
どこかの見慣れない街に来ていた。

街灯の灯りがあり、
先程よりも人気を感じそうだが、
閑散としていて、
やっぱり人は誰も居なかった。

むしろ人が居そうで居ないというのが、
不気味さをより一層引き立てている。

やっぱり、見覚えは・・・ない

呟き、周囲を確認する。

もう見慣れていないことに戸惑ったりはせず、
そういうものだと受け入れ始めていた。

あの子に追い掛けられていなければ、
受け入れるのに、
もうちょっと時間が掛かったに違いない。

そう思うと、あの子に感謝しても良い気が――

――するわけないじゃない!

頭を振り、馬鹿な考えを投げ捨てた。

はぁ・・・少し休もう

近くの閉まっているお店に背を預けて、
休憩を取ることにした。

いい感じ逃げられたかな

足音も聞こえないし、
きちんと巻けた・・・かな

安堵して手持ちのハンカチで額や首もとの汗を拭う。

このハンカチも、
本当に私の持ち物か怪しいよね

見覚えは当然ないし・・・

汗で濡れたハンカチを眺め、
少しだけ思案する。

ま、私が持っていたんだから、
きっと私の物ね!

そしてすぐに考えるのを止めた。

意図して悩むことを放棄しないと、
考えが良くない方向に
行ってしまいそうな気がして、
あれこれ悩むのが躊躇われた。

それにしても、ちょっとヘンね

あれだけ走って汗をかいたのに、
あまり疲れていない自分がいる。

もしかしたら自分は
陸上でもやっていたのだろうか。

でも足には筋肉が全然なくて、
ぷにっぷになのよね・・・贅肉め・・・

それに汗をかいた割りには喉が全然渇かず、
その事実が不思議に思えた。

でもこういう時って、
身体が求めていても気付かないだけで、
喉はしっかり渇いているんじゃ・・・

とはいえ、
スカートのポケットには
ハンカチしか入っていないので、
買おうと思っても買えないわけだが・・・。

お店はやっていないし、
自動販売機を使おうにもお金がない

うーん・・・最悪の場合、
公園に戻れば蛇口ぐらいはあるかな

あれこれ考え始めてしまったので、
思考を打ち切って大きな通りに移動した。

人の居ない大通りという、
不気味極まりない状況に眉を顰め、
どこをどう探そうかまた悩み始めた。

ビルの中とか入ったら、
誰か居たりしないかなぁ・・・

なんかもう、
この世界には
自分しか居ないじゃないかって、
そう思えちゃうよ・・・

そうして近くの適当なビルに入ろうとして――

――っ!?

聞きたくない類の音を、
耳が拾ってしまった。

え、今の・・・足・・・音・・・

背中から汗がぶわっと噴出したのを感じながら、
私はゆっくりと音の方へ振り返った。

そして――

ああ・・・なんで・・・

見たくもない人物の姿を、視認してしまった。

女の子

・・・・・・

そして私は、
焦りから冷静な判断を下すことができなくて、

に、逃げなきゃ・・・!

女の子

・・・・・・

何も考えず、
逃げるように、
眼前のビルへ、
逃げ込んでしまった。

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