この空間のどこにも愁弥の姿はない。
そういえば、愁弥どこいったんだ?
一緒にここに来たわけじゃないのかも。
この空間のどこにも愁弥の姿はない。
違う空間に飛ばされた可能性が高いわね。
厄介な奴に会ってないといいんだけど。
モカちゃん、探し物得意とか言ってなかったっけ?
探し物、ええ、得意よ。
薫の友人を探せばいいのね。
探し物と人探しは同じなの…?
モカが目を閉じた瞬間、彼女の周りの空気が揺れ始め、バチバチという音が鳴り出した。
みんながモカに注目する中、突然大きく弾ける音がした。
嘘!妨害されるなんて!
…ということは、既に彼の身に何かが起きているってことだね。
早く愁弥を見つけ出さないと。
ここに ずっといるのも
危険です▼
移動して 愁弥さんを
探しましょう▼
リズ!どこに行けばいい?
そうね…じゃあ、まだこの世界に来たばっかりだし、STAGE1に行くわよ!
リズが上に手を伸ばすと、足元に魔方陣が広がり、顔をあげると、再び電子の海が広がっていた。
転送魔法くらい、楽勝よ!
ほら、すぐに着くわよ!
それは本当に一瞬で、佳穂たちは暗い森の中に立っていた。
わっ、
ホントに一瞬だった…
暗いけど、夜かな?
すっげえ不気味だな。
…そこ、何かいるっ
薫は足元にある石を拾うと、近くの茂みに向かって投げた。
何すんだよ!!!!!
やったぁ、ビンゴ。
茂みから姿を現したのは、小さな妖精だった。
頭に大きなたんこぶがあることから、おそらく先ほど投げられた石が見事命中したのだろう。
何て危なっかしいことを…
やったぁ、じゃないわよ!!
よくもアタシに石を当ててくれたわね!
これは…
アデリーヌ ですね▼
木に寄生する妖魔ね。油断してると襲ってくるわよ。
やっとプレイヤーが来ると思ったら、こんな目に遭うなんて最悪!!
まぁ、いいわ。全員まとめて可愛がってあげる。
…とりあえず、そこの銀髪女。
…私?
お前だけはブッ殺してやる!!!
彼女が叫んだ瞬間、一帯のツタが佳穂たちに襲い掛かってきた。不規則な動きでこちらの隙を狙ってくる、
薫!!下がって!!
モカは自分より少し大きいハンマーを取り出すと、薫の前に飛び出し、襲い掛かってくるツタをハンマーで殴り飛ばした。
シュリー!モカちゃんの援護!
了解!火魔法だったら、山火事起こるから氷魔法を使うよ!
シュリーが杖を振ると、水分を含んでいる森の地面は少しずつ凍り始めた。やがて、それは勢いをましてツタまでも凍らせていく。
ちっ、ツタが使えなくなったか
油断大敵★
リズは凍ったツタを足場に駆け上がり、アデリーヌに殴りかかっていた。
~~~~っ!!!!!
寸前のところでかわし、アデリーヌは大きく姿勢を崩した。
カレン!!
チャンスは
逃しません!!▼
カレンはアデリーヌの隙を突き、剣を振り下ろした。
くそっ……こんなに早く消えるなんて…
切り裂かれたアデリーヌは粒子となって、暗闇の中へと消えていった。彼女が消えた場所から、キラキラと小さな宝石が零れ落ちる。
これは拾っても大丈夫なのか?
ええ。プレイヤーやパートナーの結晶以外ならそれほど大きな影響はないわ。大丈夫よ。
でも、取り過ぎは注意。
…そうでしょう?
そうよ▼
ステータスを あげることも
必要 だけれど
限度を考えないと
危険なことに なるわ▼
難しいなぁ~
佳穂は地面に落ちている、宝石を拾った。
……っ
チクリ。
手のひらにある宝石が消えた瞬間、少しだけ心が痛んだ。ザワザワと何かが背中から這い登ってくるような気持ち悪い感覚。
それとは別に、体中の力が湧き上がってくるのもわかった。
これが蓄積されると、殺人衝動に呑まれてしまう。そうならないように気をつけないと…
大丈夫 ですか? 佳穂▼
うん?大丈夫だよ、カレン。
佳穂はカレンに笑ってみせると、自分を落ち着かせた。
ゲームの中だと、わかっていても、殺人衝動で狂ってしまう自分の姿は見たくない。
遊びではあるが、佳穂はどこか現実的に考えてしまい、不安を完璧に拭うことはできなかった。
佳穂たちから、離れた場所で様子を見る二人組。
1人は暗闇の中にいて、姿はわからないが、もう1人は佳穂たちと同じ学校の制服を身に着けていた。
楽しそうね、●●●。
もちろん。こんなに面白そうな人たちがいて嬉しくて仕方がないの。
「面白そうな人たち」?
まったく、貴方は本当に嫌な言い方ばかりするのね。
本当のことじゃない。
だってこんなに……
壊し甲斐のある玩具はないでしょ?