バックスクリーンの左側にはHOSHI NO ARIA、右側にはQuantum Heartsの名前が表示されている。

その下の数字は、今は両者ともゼロの状態だ。

スクリーンの前に、両ユニットのメンバーが立つ。

司会者

それでは、投票スタート!

司会者の掛け声を合図に、数字が一斉に動きだした。

みるみるうちに桁が増えていく。

司会者

おおっと、これはいい勝負ー! 果たして、結果はーーーっ!?

ドラムロールが鳴り響き、次第に数字の動きが鈍くなりはじめた。

私も息をのんで、その行く末を見守る。

大きい位から順に数字が定まっていき、そして――。

司会者

出ましたーーーっ! 予選第一回戦の勝者は……HOSHI NO ARIAーーーー!

観客

わあああああああああああっ!!

惜しみない拍手喝采が、ステージ上のメンバーへと贈られる。

司会者

いやあ、すごい接戦でしたねー! 投票の詳細を見てみると、Quantum Heartsはネット上での評価が非常に高かったのですが、会場の評価はHOSHI NO ARIAに集中していました。今回は、生のライブパフォーマンスか否かという点で勝敗が決したということでしょうか

司会者の解説を聞きながら、透子は安堵した様子で胸に手を当てていた。

そんな透子の肩を、陸と光流が優しく叩く。

嵯峨山陸

やったな!

逢沢光流

これで、決勝に進めるね!

三人の後ろでは、リッケー君が腕を組んで、うんうんと大きく頷いていた。

そんなやりとりに見入っていると、不意に隣の気配が動くのを感じて視線を転じる。

私が見ていることに気づいたのか、立ち上がろうとしていた茜と目が合った。

茜は不敵な笑みを浮かべて、ステージを横目で見やる。

QE茜

なかなかいい歌だったぜ

釣られて再びステージに向き直ると、Quantum HeartsがHOSHI NO ARIAに声をかけていた。

茜音イヴ

HOSHI NO ARIAさん、おめでとうござイます♪

逢沢光流

え? あ、ありがとう!

一ノ瀬透子

素直に祝ってくれるんだ……Quantum EVEの顔で言われると変な気分ね

葵井ユキ

みなさんと同じステージに立てて嬉しかっタです!

嵯峨山陸

あ、ああ。俺たちもいい勝負ができて嬉しかったぜ

茜音イヴ

決勝も頑張っテくださいね!

葵井ユキ

私たち、応援しテます☆

茜音イヴと葵井ユキは互いの手を握り、可愛らしく小首を傾げてみせる。

QE茜

自分の声で勝手にしゃべられると、恥ずかしいな……

QE葵

……うん

QE茜

ったく、誰だ、あんなセリフ作ったのは……

そう言うと茜は、さっさと歩いていってしまった。

QE葵

あ、待って……

葵は、こちらに向かって小さく頭を下げてから、茜のあとを追う。

二人の背中が出入り口に消えて見えなくなったところで、司会者が再び声を上げた。

司会者

では続きまして! 予選第二回戦に出場するユニットを発表したいと思います!

司会者の宣言と共に、バックスクリーンの映像が揺らぎ、会場がざわめく。

月城虎子

いよいよね……

竜胆あんな

は、はい……!

緊張している様子のあんなと共に、私はスクリーンに注目した。

司会者

まず一組目は! 再デビューを果たしたEARTH・RAYの神楽柚希がプロデュースする、葛城天音&竜胆あんなのアイドルデュオ、LRism(リズム)!

観客

おおおおおおおお!

竜胆あんな

うひゃああ……!

観客の反応を受けてか、スクリーンに大写しになった自分と天音の姿を見てか、あんなは奇妙な声を発して肩を竦める。

月城虎子

ほら、背筋を伸ばして。しっかり前を見なさい

あんなの背を叩いて嗜めた。

こんな調子で、本番は大丈夫だろうか。

少しだけ、心配になる。

司会者

そして二組目は! かつてアイドリズム総選挙でクイーンの座を射止めた晴海詩乃を中心に、トキコⅢ、由羽坂星良と個性豊かなメンバーが集まったユニット、000(メビウスラブ)!

観客

わああああああ!

司会者

予選第二回戦の勝者が決勝戦へと駒を進め、HOSHI NO ARIAと優勝を競うこととなります! みなさん、第二回戦もよろしくお願いします!

司会者の言葉に、観客たちは大歓声で応えたのだった。

ドリームマッチ3の予選第一回戦からしばらく経ったある日。

私と虎子さんは、天音ちゃんと打ち合わせをするために喫茶ぷらんくへとやってきた。

本日は休業日らしく、扉には『CLOSED』の看板がかけられている。

おそるおそるノブを回すと、いつもと変わらぬ手ごたえで扉が開いた。

竜胆あんな

こんにちはー

葛城天音

いらっしゃーい

挨拶をしながら中へ入ると、天音ちゃんが駆け寄ってきた。

葛城天音

ちょうどカレーの準備ができたところだよー! 入って入って

竜胆あんな

やったー! お腹ぺこぺこだったんだ

カレーをご馳走すると言われていたので、まだお昼を食べていなかったのだ。

しかし、店内にはカレー独特のにおいが感じられず、内心首を傾げながら奥へと進む。

竜胆あんな

わっ、すごい……!

テーブルを埋め尽くす勢いで積まれている小箱の山が、目に飛び込んできた。

近づいて、小箱の外装を見てみる。

竜胆あんな

インドカレー、グリーンカレー、老舗店のこだわりカレー、和牛を使った高級カレー……

月城虎子

こっちには、お子様向けのMySTARの王子様カレーなんてものまであるわよ

竜胆あんな

この箱、全部レトルトカレー!?

一ノ瀬透子

ええ。天音が好きだから、月に一回はEARTH・RAYで集まって、レトルトカレーパーティーをしてるのよ

驚く私たちに、透子ちゃんがそう説明してくれる。

神楽柚希

他にも、珍しいご当地カレーを用意しておりますの。蟹カレー、熊肉カレー、トド肉カレー、すっぽんカレーなどなど

月城虎子

えっ、そんなものまであるの? 私は普通のカレーでいいわ

神楽柚希

ふふっ、食べてみたら意外と癖になってしまうかもしれませんわよ

葛城天音

いろいろあるけど、私が一番好きなのはこれ! BOMBカレー!

天音ちゃんはそう言って、昔からある定番のBOMBカレーの箱を手に取った。

葛城天音

これを食べると、お母さんのカレーを思い出すんだ~

一ノ瀬透子

天音って、ずっとお母さんの手作りだと思っていたカレーが、実はレトルトだと知ったのよね……

葛城天音

ううっ……

神楽柚希

それもまた、お袋の味というものですわ

カレーを食べながらの話題は、自然と今回のアイドルデュオに関するものになっていった。

対戦相手になるかもしれない透子ちゃんは途中で席を外そうとしたけれど、HOSHI NO ARIAの作戦会議もここで行われていたし、こちらも今更知られて困るようなことはないという柚希ちゃんの言により、そのまま同席している。

神楽柚希

LRismは、天音さんがアイドルを目指すきっかけとなったアイドルをイメージしておりますの

竜胆あんな

天音ちゃんの……?

視線を向けると、天音ちゃんは恥ずかしそうに頬を掻いた。

葛城天音

昔ね、お父さんもお母さんも町内会に出かけてて、ひとりで留守番をしていたときに、寂しくなってラジオをつけたことがあって……

昔を思い起こすように、遠い目をして語りはじめる。

葛城天音

そしたら、すっごく可愛いアイドルソングが流れてきてね。聴いてるだけで、自然と笑顔になれて。気づいたら、寂しさなんて忘れてたんだ

天音ちゃんは、目映い笑みを浮かべた。

葛城天音

そのときから、私もアイドルになりたい、みんなに元気と笑顔を分けてあげたいって思うようになったの

自分の目指す道をまっすぐに見据えて。
前へ、前へと進んでいる元気な笑顔。

天音ちゃんの話を聞いて、その表情の意味を理解して、私は打ち震えた。

そこまで考えてアイドルをしていなかった自分に、気づいてしまったのだ。

歌をみんなに聴いてほしいという想いは、もちろんある。

けれど、自分がどんなアイドルになりたいのか。

答えを出すことを先延ばしにしてばかりで、ちゃんと考えてこなかった気がする。

私も、天音ちゃんみたいに素敵なアイドルになりたい……。

そんな願いが、胸の奥に芽生えた。

私はダンスレッスン場への道を急ぎながら、腕時計を確認した。

晴海詩乃

よかった。ドリームマッチの取材には間に合いそうね

今日は、生放送の情報番組の取材が入る予定となっている。

エントリーライブバトルでは、MySTARに負けてしまったものの、あのときのクールな歌がすごかったと評判になっているらしい。

この話題の波に乗って、ドリームマッチで優勝。
ゆくゆくは、アイドリズム総選挙でクイーンに返り咲く。

そんなビジョンを思い描いていた。

晴海詩乃

そのためにも、まずは番組でしっかりアピールしなきゃ

私は気合を入れ直すと、トキコと星良が待っているであろうレッスン場へと足を踏み入れた。

晴海詩乃

あら。このレッスン場って、私が昔よく使ってたところじゃない

懐かしい場所を目にしたことで、過去の記憶が蘇ってくる。

晴海詩乃

あの頃は、頭に変な飾りをつけて、変な振付のダンスを踊らされてたのよね……

由羽坂星良

物置の隅に、こんなのがあったよー!

半透明の羽を背中につけた、派手な色使いの衣装を着た星良が飛び出してきた。

晴海詩乃

そうそうこんな衣装で……って、それは!

私が昔、歌の妖精『しののン』として着ていた衣装じゃない!
こんなところにまだあったなんて!

由羽坂星良

えへへ。かわいいから、つい着ちゃった

晴海詩乃

そんなの着たらダメーーーっ!

由羽坂星良

詩乃さんのステージ衣装にどうかな?

晴海詩乃

絶対に、何があろうと着ないわよ!

由羽坂星良

ぶーぶー

トキコⅢ

おふたりとも、何の騒ぎですか? おお、その衣装は……

由羽坂星良

あ、トキコちゃん! 詩乃さん、こういうの着たら、意外と似合うと思うんだけど

トキコⅢ

似合うのは当然です。だって、それはもともと詩乃さんの……

晴海詩乃

わぁぁぁぁぁぁっ!

私は、とっさにトキコの口を両手で塞いでいた。

今、この子は、とんでもないことを言いかけなかっただろうか。

まさか、私の黒歴史を知っている……?

嫌な汗が、背筋を伝う。

トキコは身じろぎもせず、じっと私のことを見つめていた。

アナウンサー

あ、あのー……お取り込み中のところ、すみません……

晴海詩乃

え……!?

アナウンサー

ど、どうも……

トキコの後ろには、マイクを手にしたアナウンサーと、こちらにカメラを向けるカメラマン。
さらにたくさんのスタッフの姿があった。

晴海詩乃

え……まさか……これって今、放送されてるの?

トキコⅢ

はい。詩乃さんがレッスン場に入ってくるところから、カメラが回っていました

晴海詩乃

~~~~っ!?

予想外の事態に、声なき悲鳴が漏れる。

由羽坂星良

見て見てー! 妖精さんのCDもあったよー!

晴海詩乃

いやああああ! そんなもの映しちゃだめえええええっ!

反射的に星良の腕に掴みかかり、CDを奪う。

そんな私を見て、アナウンサーたちは絶句していた。

クールな歌声で話題になったIGEクイーンというイメージからは遠くかけ離れているであろうと今の姿に、涙が出そうになる。

今度こそ、今度こそ黒歴史を抹消してすべてをやり直せると思ったのに――!

アイドルドリームマッチ3、予選第二回戦当日。

私は第一回戦のときと同じように、関係者席からステージの様子を見守っていた。

今日隣にいるのはあんなではなく、柚希だ。

神楽柚希

そんなに心配なさらなくても、あのふたりならきっとうまくいきますわ

年下の柚希に慰められてしまうとは、私はそんなに情けない顔をしていたのだろうか。

目を閉じて、小さく深呼吸をする。

月城虎子

ええ、私もそう思うわ

心を落ち着け、改めてステージを見据えた。

司会者

お待たせいたしましたー! アイドルドリームマッチ3、予選第二回戦のライブバトルを開始いたします!

観客

わああああああああああ!

司会者の宣言を受けて、いまかいまかと待ちわびていた観客たちの熱気が爆発した。

司会者

先行はー……LRism!

全体照明が落ち、スポットライトが辺りを駆け巡る。

知名度では他のアイドルに劣るかと思われたが、バックスクリーンにあんなの姿が映ると、先日と変わらぬ大きな歓声が上がった。

お客さんたちの声援が、ステージの方から聞こえてくる。

天音ちゃんとステージ袖にスタンバイしていた私は、その声に思わず肩を揺らしてしまった。

竜胆あんな

やっぱり私、天音ちゃんみたいには唄えないかも……

ここにきて、弱気が頭をもたげる。

自信が持てなくて俯いていると、優しく肩を叩かれた。

葛城天音

大丈夫だよ

その声に顔を上げると、天音ちゃんがこの前見たのと同じ目映い笑みを浮かべていた。

葛城天音

プロデューサーさんが前に言ってたんだ。『難しく考えないで、まっすぐな想いを歌にのせればいい』って

竜胆あんな

でも……私は天音ちゃんみたいに、まっすぐな目標とかなくて……

天音ちゃんみたいになりたいとは思ったけれど、その答えは未だ掴めないままでいる。

葛城天音

うーん……まずは、あんなちゃんが今、想いを伝えたい相手のことを思い浮かべて唄えばいいんじゃないかな?

竜胆あんな

私が、想いを伝えたい人……?

そう考えて真っ先に浮かんできたのは、いつも私のことを大切に思ってくれている虎子さんの姿だった。

『ほら、背筋を伸ばして。しっかり前を見なさい』

虎子さんの声が蘇ってきて、自然と背筋が伸びる。

まだ迷うことの方が多くて。
目指す道行きすら、ちゃんと捉えられていない私だけれど。

竜胆あんな

今は、虎子さんに、ステージで輝く私を見てもらいたい……

葛城天音

うん

私の答えに、天音ちゃんは笑顔で頷いてくれた。

元気で明るい笑顔を分けてもらって、自然と顔が綻んでいく。

葛城天音

さあ、行こう!

私は怯むことなく、天音ちゃんと並んで、目映いステージへと飛び出した。

天音とあんなの伸びやかな歌声が、ステージ袖にも聴こえてきていた。

エントリーライブのときよりも、あんなが確実にレベルアップしているがわかる。

最初の練習時からポテンシャルは高いと思っていたが、想像以上に成長が早い。

その上、二人の声は非常に相性がいいようで、爽やかなソプラノが雑味なく重なり、響き渡っている。

晴海詩乃

それにしても……私の前で、ライバルの姫野美雪の歌を唄うなんて、やってくれるじゃない

美雪は、アイドリズム総選挙がなくなった後も、アイドルという枠を超えて、最高の歌姫として第一線で活躍している。

彼女と一緒に歌ったステージを思い出す。

太陽のような美雪に対して、日の当たらない歌手『日影の歌姫』と呼ばれていた私。

そこからようやく追いつけたと思ったのに、私が騒動を避けて海外にいっている間に、また大きく差をつけられてしまった。

天音とあんなの唄う姿に、つい彼女を重ねてしまう。

ライバル……なんて、私が一方的に思っているだけなのはわかってる。
それでも、あの子のそばにいって、あの子と肩を並べて、もう一度唄いたい。

晴海詩乃

ふふ、見てなさい。すぐにあなたのところまで駆け上がっていくわ

トキコⅢ

妖精さん……

晴海詩乃

わたし、しののン! 歌の国からやってきた、歌の妖精なののン! ……って、ち、違う!

慌てて否定する私に対し、トキコは不思議そうに首を傾げてみせる。

トキコⅢ

もう歌がはじまりますよ。ステージで星良さんが呼んでいます

晴海詩乃

わ、わかってるわよ! ここで負けてなんていられないんだから!

目指す道のため、雑念を振り払うように頭を振る。

由羽坂星良

ふたりともー、はやくはやくー!

ステージの中央で待つ星良のもとへ、私たちは駆け出していった。

詩乃さんを中心とした000は、やはり圧倒的な歌唱力で魅せつけてきた。

コンセプトはあえて揃えていないのか、衣装の方向性も、パフォーマンスの見せ方もそれぞれ異なっている。

しかしその強烈な個性のぶつかり合いが、先の見えない演出が、観客たちの視線を奪って離さない。

イロモノと単純に括ることのできない、圧倒的な世界観がそこにはあった。

晴海詩乃

ありがとうございました

観客

わあああああああああああああっ!

曲が終わると同時に、拍手喝采が巻き起こる。

満足げな表情を浮かべた000のメンバーが一礼して、後方へ下がった。

会場が明るくなり、司会者とLRismの二人が再びステージに上がってくる。

司会者

いやー、第二回戦もすごいステージでしたねー! さて! いよいよ、みなさまお待ちかねの投票タイムですよー!

観客

うおおおおおおお!

バックスクリーンの左側にLRism、右側に000の名前が表示され、その下に各ユニットのメンバーが立った。

司会者

準備はいいですかー?

観客

イエェェーーーイッ!

司会者

それでは、投票スタート!

投票の行く末を、祈るような気持ちで見守る。

そのとき、内ポケットに入れていたスマートフォンが振動した。

私はステージを気にしながら、画面に目をやる。

月城虎子

えっ……どうしてあの子から……!?

そこには、『加賀美ありす』の名が表示されていた――。

~ つづく ~

13|第13話 溢れそうな想いを受け止めて

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