Episode 3

























何故だ…

何故なのだノル

無機質な空間で、佇む影は呟く。

下賎な地球人などに 何故そこまで肩入れする必要があるのだ

怪しく揺らめく人影は、嘆かわしいとばかりに声を震わせる。

ならば 我が知略をもってして
その戒めから お前を解き放ってみせようぞ…

電子音と共に宙に現れたコンソールを軽快に操作する人影は、笑みを漏らした。

ふっふっふ…

はーっはっはっはっはっ!!

帯刀 立一

ふぃー 今日客多すぎっしょ ガチで疲れたわ~

仕事から帰ってきた立一は、コンビニ袋をぶら下げて玄関から部屋の中へと声をかける。

帯刀 立一

ノルちん 土産~
期間限定ゴリゴリくん~

ゴリゴリ君とは、低価格で様々な味が楽しめるのが魅力な国民的人気の棒アイスである。

先日、なんとなくコンビニで買って来たところ、思いがけずノルが気に入ってしまった。


以来、立一は出掛けた際に、ゴリゴリ君を手土産に帰宅する。
ちなみに今日は、いちご大福味である。

しばし返答を待ってみたが、返事が返ってくることは無く、人の気配も感じない。

帯刀 立一

ネズ公も居ねぇし…

ん?

しん…と静まり返った部屋で、テーブルの上にぽつんと置かれたペットボトルへと目が止まる。


出掛ける時には無かったはずだが、島の差し入れだろうか。


立一は徐に足を運ぶと、それを手に取っていた。

帯刀 立一

リアルガチで 喉乾いてたんだよねー

パッケージは、知らないメーカーのものであったが

帯刀 立一

ま いっか

元々細かい事を気にしない立一は、やはり特に気にする事もなく、ペットボトルに口をつけた。

帯刀 立一

んぐんぐ……ぷはー!

立一は、ペットボトルの半分まで、それを飲み干すと口元を拭う。

帯刀 立一

この不毛な味
どっかで飲んだことある気がすんだけど…

立一は、首を傾げつつ記憶を辿る。


そして、ふと気づく。

帯刀 立一

…あ これ

ノルに一口貰って飲んだ事のあるあのドリンクだ。


立一が、その事を思い出したと同時に視界は暗転していった。

帯刀 立一

んだ これ…

べぇ…っしょ

島 達己

あれ?
玄関 開いてるね

遅れること数分。
立一宅玄関には、2人と1匹の姿があった。


ノルとC-HUを連れ、夕飯の買い出しに出掛けていた島は、玄関の鍵が開いているのを確認する。

NOL

リューイチ 帰ったのか

島の言葉を聞いたノルは、嬉しげにリビングの方へ向かった。

C-HU

チュチュッ
今日はチーズパーティだッチュ♪

C-HUと島も、買ったものを両手に抱えて、ノルに続く。

NOL

リューイチ…?

島 達己

どうかしたの ノルちゃ…

島がリビングへ移動すると、床に倒れている立一を唖然と見つめるノルの姿があった。

NOL

リューイチ…ッ

ノルは、恐る恐る立一の肩に触れ声を掛けたが、反応が無い。

島 達己

ノルちゃん これ…

NOL

……!

立一の傍には、飲みかけて転がっている一本のペットボトルがあった。


島には、見覚えのないものだ。

C-HU

それは…

しげしげとペットボトルのラベルを注視したC-HUは、驚きの表情を浮かべる。

C-HU

何で ここに
こんな物があるんだッチュ

前足で、ペットボトルパッケージの一部を指差し、険しい表情をする。

C-HU

サリュート…
これはノルやチュー達の惑星にある研究所のロゴッチュ

島 達己

研究所?

C-HU

そうッチュ
惑星調査用に新薬なんかを研究しているんだッチュ

島 達己

まさか 立一の奴
これを飲んだのか…

C-HU

恐らくそうだと思うッチュ
このドリンクには見覚えがあるッチュが
──

C-HUは腕組みし、うむむと唸る。

帯刀 立一

う…

NOL

リューイチ…!

ノルに肩を借り、よろりと体を起こした立一は、まだ気分が悪そうに頭を押さえている。

島 達己

おい 平気か?

立一は、ノルを横目で一瞥し、その後、島の方へ向き直った。

帯刀 立一

……おい
どういうことだ 島

目を覚ました立一は、隣で心配そうに見守っていたノルを指差し、眉を顰める。

帯刀 立一

こいつは 誰だ
また お前が連れ込んだのか

呆れた表情で溜息をつく立一は、やけに落ち着きを払った雰囲気で、明らかにいつもと様子が違っていた。

島 達己

おいおい ノルちゃんだろ
どうした 立一

NOL

リューイチ……

ノルは、気分が悪そうに頭を押さえている立一に、手を伸ばす。

その手が叩かれ、ノルは動きを止める。


ほんの少しだけ見開かれたその瞳に、光が反射して色を変えた。

NOL

……

島 達己

何してんだ お前…!

島がノルを庇うように詰め寄るが、立一は表情を変えずに切り返す。

帯刀 立一

悪い
人に触られるのは苦手だ

島 達己

立一 お前……

島が何か言いかけた時、視界を白い物体が遮った。

C-HU

リュウイチッ
ノルに手を上げるとは どういう了見だッチュ!

尻尾を震わせ、怒りを顕にしたC-HUである。


立一は、その姿をジッと見つめた後、腰を上げた。

C-HU

コラー! 何処行くッチュー!

帯刀 立一

幻まで見えてきた 顔を洗ってくる

怒れるC-HUを置いて、立一は洗面所に向かう為、部屋を出ていってしまった。

C-HU

リュウイチの様子が おかしいッチュ!
いつもおかしいけど 輪をかけておかしいッチュ

島 達己

……

島は、立一の態度に何か引っかかり、考え込んでいる。


しばらくして洗面所の方から、足早にこちらに向かってくる足音がした。

帯刀 立一

どういうつもりだ 島

戻って来た立一は、耐え難いといった表情で、自分の髪や服を指し示しながら抗議する。

島 達己

どういうって 何がだよ

帯刀 立一

このふざけた格好は
お前の仕業なのかと聞いている

島 達己

ふざけたって……?

派手にカラーリングされた髪とチャラ服は、彼のお気に入りだ。


云わば、立一のトレードマークと言っても過言ではない。


それを本人自らが否定している事に、島は先ほど抱いた疑念を確信に変えていた。

島 達己

俄かに信じがたいんだけど
この物言いといい…毅然とした態度といい 数年前の立一そのものだ

C-HU

チュッ もしかしたらっ

島の一言を聞いたC-HUは、ピンと尻尾を立てる。


母星の研究所で開発されていたものの一つ…記憶操作を行う為の薬品が、頭に浮かんだのだ。


用途は、惑星調査中その惑星に棲む生物と何らかのトラブルがあった際、諍いを避ける為に使用する緊急用のものである。

C-HU

立一の飲んだドリンクは恐らく
他惑星での調査用に開発された
強制的な記憶操作や改竄の際に用いられる薬品ッチュ!

島 達己

なんだって そんな危険そうなものが この部屋にあるんだ

C-HU

確信は持てないッチュが……
それには 心当りがあるッチュ

C-HUは島との会話の後、ノルの様子を伺った。


ノルにも心当たりがあったらしく、C-HUと目が合うと小さく頷き返す。

NOL

俺と同じ惑星(ホシ)から
誰か地球に来てる

C-HU

リュウイチを元に戻すには
そいつを捕まえるしかないッチュ!

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