Episode 2
Episode 2
つー 夢を見たって次第な訳よ
いや それ お前の夢
現実世界に はみ出てっから
立一宅。
立一の隣に佇む場違いな出で立ちをした一人と一匹を
細身のモード系スーツを着こなしたその男は、
スクエアフレームの眼鏡位置を直しながら指さした。
?
何者だっチュ
この胡散臭い男は
そういえば
自己紹介がまだだったね
怪訝そうな表情で様子を伺うC-HUを軽くあしらいながら、男は自己紹介を始める。
島 達己(しま たつみ)
職業ホスト。
身に着けている物はスマートにまとまっているものの長身で存在感がある。
立一とは違った派手さ…よく言えば華のある男だ。
一見ニコニコと感じの良い青年なのだが
営業スマイルといった感じで、実に軽薄に見えるのは、職業の影響であろうか。
立一にとっては、高校以来からの友人で
良く一緒に馬鹿をやっていた仲だが、面倒見の良い頼れる兄的な存在であった。
突然の呼び出しに応じ、わざわざ駆けつけている所を見ると悪人ではないようである。
一点…『厄介な癖』を除けば。
それで?
部屋がおかしなことになってるって
話だったよな
いつもと変わらない様に見えるけど
あー これね なんちゃら明細?
とか らしーわ
空間迷彩機能だっチュ!
間髪入れず、C-HUのツッコミが入る。
宇宙船の内装のままじゃ
リューイチが落ち着かないだろうからって ノルにお願いされたんだっチュ
よくわかんねぇけど ならこれで良くね
一時的に迷彩機能を使って
部屋の内装を再現しているだけっチュから そう見えてるだけっチュよ
質量なんかも実際とは違ってるっチュ
言いながら、C-HUはヒョイっとテレビのディスプレイを片手で持ち上げてみせた。
ちょ なにそれ ウケる
面白がって、その辺の家具やらを持ち上げて
爆笑する立一であったが
ティッシュ重っ!!
これ やばたんでしょ
ティッシュをつまみ上げようとした手がピタリと止まった。
両手で引っ張ってみても微動だにしない。
これには、驚きを隠せなかったようだ。
そんな様子を見て、C-HUがやれやれと首を振る。
んで ノルちん
さっきから何パクついてんの?
妙に静かだと思ってはいたが、ノルは何処から取り出したのか チューブの付いたパウチに口つけていた。
エネルギー補給だ
……リューイチも 補給するか?
しばらく間を置いて、ノルは口付けていたパウチを
そっと、立一に向けて差し出す。
お あざまし~
ノルが差し出しているパウチのチューブに口付けると、ちゅるっと音を立てて啜った。
中身は、ゼリーとドリンクの中間の食感だ。
もごもごと口の中で転がすも、その違和感に
首を傾げた。
ノルちん これ味無ぇんだけど?
必要なエネルギーを摂取する為だけのものっチュからね…
…ちゅるちゅる
再びパウチのチューブを口に含むと、作業のように食事をとるノル。
ふーん?
その様子を眺めながら立一は、良いことを思いついたとばかりに、ノルに向かってニカッと歯を見せた。
ピッカンきた
これから 飯でもどうよ
その格好でか?
ん?
島の視線を感じ、ノルは不思議そうに首を傾げる。
まぁ…部屋がやばいっつーから
多少日用品の類は持ってきたけど
さすが たっつん
神対応 あざーす
島は、持参してきたバッグを開けると中から
衣類を取り出した。
昔 俺が着てたのだから
サイズが合うかが問題だけどな
これとか…
この辺りなら いけそうか
服を適当に見繕うと、ノルに数点の衣類を手渡す。
何だ?
まぁまぁ ノルちん
ちと とりまき
ん…
リューイチ 何故 脱がすんだ?
立一は、困惑するノルを尻目に彼の着ているスーツに手をかけると、手馴れた様子で服を脱がせていった。
コラーッ
ノルに何するっチュ!
はいはい 鼠君には これね
鼠じゃないっチュ!
…うむむ?
C-HUは、差し出された物に顔を近づけると
鼻をひくひくさせる。
この芳醇たる香り…これは何だっチュ?
クリームチーズだよ
葛藤しているのか百面相をしつつも、誘惑には勝てなかったようで、小さな前足二本でそれを受け取る。
い 戴くっチュ
チーズをひと囓りしたC-HUは、尻尾をピンと立たせ、目を輝かせた。
これは…ッ
濃厚な味わいと舌の上に広がる
滑らか且つ
クリーミーな味わい…!
旨いっチューーー!!
ロボットなのに チーズ食べるんだ
C-HUが、蕩ける様な表情でチーズを味わっていると、着替えが済んだ様子の二人がこちらへ声を掛けた。
ちょい サイズでかいけど
そこ 我慢ね
ん…
わかった
立一の後に付いてやって来たノルは、慣れない衣服に少しばかり戸惑っているようだ。
どうよ
にゃんついて無いのがエグいっしょ
……
宇宙人って
顔面から触手生えてるとか
もっとグロイ感じを想像してたんだが…
島は、しげしげとノルの周りを一周する。
いや~ たっつんのYシャツ着せたら 彼シャツかよって感じで
さすがに やばたんだった訳
……
てか たっつん
ノルちん ガン見じゃね DOした?
いや 俺 割と彼シャツとか
ぐっとくる質だったわ……
ブッ
島は、ノルの前に立つと、そっとその手を取る。
ノルちゃん……でいいかな?
困ったことがあったら
遠慮なく 俺に相談してよ
手を握られたノルはというと、人当たり良さそうな微笑みを浮かべる島と笑いを堪えている立一の顔を交互に見比べ
ん……
リューイチ
シマ
感謝する
はにかむ様に睫毛を伏せると、二人に向かって薄く微笑んだ。
……なぁ
ん? 何
ノルの手を握ったまま
島は、恍惚とした表情で立一に声をかける。
本気で口説いてもいい ?
マ ?
相変わらず 見境ねぇし
相手男どころか 種族違うっつの!
俺 基本 可愛ければ
そういうの気にしないから
始まってしまった……。
これは友人の『悪い癖』である。
島は、昔から恋愛に性別の垣根を設けない人物なのだ。
つまりは、そういうことである。
べぇ ガチかよ……っ
ノルちん 尻ガードしろ…… !
!
…… こうか?
ノルは慌てて立一の尻をガードした。
ちょ ちげぇし !
じゃあ
ノルちゃんは 俺がガードしてあげよう
余計 あぶねぇよ !
どうした リューイチ 近くに危険生物でもいるのか ?
立一の慌てぶりに何を勘違いしたのかノルは、部屋の四方を見回している。
危険生物なら、すぐ隣にいるのだが……。
はっはっはー
食べちゃうぞ~
一方その頃
チーズを堪能し終えた一匹の小動物は、余韻に浸りつつ、その様子を眺めていた。
まったく
地球人とは騒がしい生物っチュね
あっ リュウイチ 補給に行くなら
チューはチーズを所望するっチュ!
その後、ファミレスに向かった一行だが
結局一番目立っていたのは『喋る鼠型ロボット』であったという。