新道が自分の教室に戻ると、教室の中は、もぬけのからだった。

新道 進一

 あいつらどこ行ったんだ?

 新道が教室の窓から外を覗くと、体育館の電気がついていることに気づいた。

新道 進一

 まさか。あいつら!

 まさかとは思いながら、体育館に辿り着くと、そこには新道の思った通りの光景が広がっていた。

榊原 信也

 あ、新道教官。

 暇だったんで、希ちゃん連れてきましたー。

 金髪のチャラ男、榊原 信也が体育館に入ってきた新道に軽いノリで言った。

新道 進一

 ったく。

 お前ら、体育館の使用許可は取ったのか?

 新道は模擬戦が始まっていなかったことに少し安堵し、体育館の中央の方に歩み寄って行った。

 体育館には、いつものSクラスのメンバーの他に、編入生の噂を聞きつけた野次馬が観客席にごった返していた。

そして、希もそこに居た。

新道 進一

 希。少し話がある。

 新道が希を呼んだ。

 その理由は希にも分かっていた。

 今朝の風宮会長との模擬戦の件と、副会長の件だ。

 希は体育館の外に呼び出され、新道に続くように体育館の外に出た。

新道 進一

 希。まずは、長旅ご苦労さん。

神裂 希

 お久しぶりです。新道教官。

 希は、微笑んだ。

新道 進一

 相変わらずだな。

 まさか、入学初日で問題を起こすとは思わなかったよ。

 新道は苦笑いをしている。

神裂 希

 ハハハ、私の性格は承知の上でしょう?

 希はわざとらしく笑ってみせる。

新道 進一

 そうだな。

 しかし、お前が姿を消していた三年間。

 一体、どこで何をしていたんだ?

 新道は笑うことを止め、真剣な表情で希に聞きいた。

神裂 希

 そうですね。言ってませんでしたね。

 神裂 優斗君のお父さんの所に居ました。

新道 進一

 それは、調べ済みだ。

 そして、お前が神裂の父である神裂 凰牙の所に居たのは昨年からだ。

神裂 希

 そうですか。調べたんですか。

 希は空の彼方を見つめて言った。

新道 進一

 ああ。身辺調査も担任の役目だからな。

 その前はどこに居たんだ?

神裂 希

 どこまで知っているんですか?

 希の声が、さっきまでのふざけた声から、真剣な声のトーンに変わる。

新道 進一

 俺が知っているのはそこまでだ。

 それより前の記録はどこにも残っていなかった。

 新道は、ため息を一つついた。

神裂 希

 新道教官。

 世の中には知っていて良い事と、知らなくて良い事があるのは知っていますか?

 希は新道の方を見ず、空の彼方を見つめたまま言った。

新道 進一

 それは、これ以上聞くなということか?

 新道は希に聞いた。

神裂 希

 そうですね。教官の身の安全のためです。

 希が振り返り、微笑んだ表情で、新道を見つめて言った。

 しかし、その瞳は、それまでの優しい希の瞳ではなく、恐ろしいほどに冷酷な瞳をしていた。

新道 進一

 …………。

神裂 希

 …………。

 二人の間に沈黙が流れる。

神裂 希

 では、これから歓迎会が始まるみたいなので、私は行きますね。

 希は微笑み、体育館に体の向きを変え歩き出す。

新道 進一

希。

 新道が希を呼び止めた。

神裂 希

まだ、何か?

 希は振り向かずに足を止める。

 しかしその声から、希が臨戦態勢にあることだけがわかる。

新道 進一

い、いや……。

何かできることがあったら言えよ。

俺は、お前の担任だからな。

 新道が希に言った。

神裂 希

ハハハ。相変わらずですね。

 そう言って、希は体育館の方に再び歩き出す。

 そして、体育館のドアの前で立ち止まり、新道の方を振り返った。

神裂 希

ああ、そうだ言い忘れてました。

神裂 希

 いつまでも私の上司面しないでください。

 今の私は、あの頃の私とは違いますから。

 希はそう言って、体育館の中に入っていった。

新道 進一

 お、おい……。

 希?

 新道の呼び止めに応じることなく、希は体育館の中へと入っていった。

新道 進一

 結局何も聞けなかったか。

 新道は、ため息を一つついた。

第二十話:《希の思惑2》

facebook twitter
pagetop