あんたもデスデモナのファンか。
サインしてもらえなくて残念だったなー

サニー

アタシはファンっていうか……

ファンのハズねぇよなあ、人間なんだから

サニー

!? アンタはっ

デスデモナの情報を教えてくれた一つ目の悪魔が、大勢の悪魔を押しのけて姿を現した。
先ほどとは打って変わってニヤニヤと怪しい笑いを浮かべていた。

人間……? 人間がいるのか?

そうともよ。そいつら二人は人間だぜ。
見てな、すぐに化けの皮を剥がしてやる

彼の合図で悪魔の一人が前に出る。
やけに背が高くひょろりとした悪魔で、象のような頭をしていた。

サニー

ヤダなぁ。アタシたちサキュバスだよ?

それ、魔力を食ってやれ!

二度目の合図で、象の頭の悪魔が鼻を持ち上げる。

するとゾゾゾ、と悪寒がサニーとレイリーを襲った。

サニー

えっ、何……!?

急激な脱力感とともに変化の魔法が解けていく。
二人の周辺の魔力が渦を巻き、悪魔の鼻へと吸い込まれていった。
そしてエマニュエルのかけた魔法は効力をなくす。

ほらやっぱり。ただの人間だったな。
さっきのヤツらと同じだ

サニー

さっきのって……まさかチズたちのこと!?

あんたらのお仲間なら、美味しくいただくために下ごしらえ中だぜ。
一緒に煮込んでやろうか?

サニー

夫人ならともかく、アタシは肉付きがよくないから美味しくないよ

レイリー

今言うことですかそれ!?

ツッコミを受けながら、サニーは声を潜めてレイリーに囁く。

サニー

……レイリー。魔力を吸い取る悪魔がいるんじゃ分が悪いよ。
ここはアタシにまかせてひとまず逃げて

レイリー

な、何言ってるんですか

以前サキュバスがそのタイプだったように、
悪魔の中には魔力を体力源としているものがたくさんいる。
数居る悪魔の中でも、魔女や魔女見習いが対するには一番厄介なタイプだった。
ゆえにサニーは真剣な顔で、デスデモナから手渡された紙をレイリーに握らせる。

サニー

先に戻ってて。チズたちもなんとか助け出してみせるから

レイリー

そんなこと出来る訳ないでしょう!?

サニー

いいから早く行ってよ!

レイリー

行きません! サリーのバカ!

サニー

もー! 言うこと聞いてよ!?

レイリー

聞きません!!

……なんだか知らんが、とりあえず捕まえるか

二人が言い争いを始めた横で、呆れた顔の悪魔が手を上げる。
すると象の頭の悪魔がまた魔力を吸い込み始めた。
見ればこの悪魔、魔力を吸い取るたびにどんどん横幅が広がっていく。

サニー

ちょっと! 誰が吸い取っていいって言った!?

許可を取るわけねぇだろ。さあ、根こそぎ吸い取っちまえ

レイリー

こんな……っ! 身体の力が、抜ける――

体力、精神力。
それとともに魔力も身体を支える重要な力だ。
極端に欠ければ当然、身体の自由が損なわれる。
……のだが。

サニー

ちょっと! やめてよねこの象っ鼻!

レイリー

サリー……

なっ……なんでまだ動けるんだ!?

サニー

ほらほらやめないと鼻くすぐるよ!

くそ、根こそぎ吸い取れ!!

サニー

やめろって……言ってるでしょ……っ

象頭の腹がパンパンに膨れあがったところで、ようやくサニーも膝をつく。
レイリーはとっくに気を失い、地に伏せている。
それを横目で見ながら、サニーも同じように恨み言を言いながら気絶した。

なんなんだコイツは。魔力が少しずつしか吸い取れなかったな

一つ目の悪魔の横で、魔力を吸い取った悪魔がゼエゼエと息をしている。
はち切れんばかりの腹が苦しいようだった。

とにかく、例の牢にコイツらを運んで――ん?

レイリー

…………

その時。
失神したはずのレイリーがふらりと立ち上がる。
頭や手はだらりと脱力しており、表情は髪に隠れて見えない。

な、なんで起き上がったんだ?

ぱき、ぱき。
彼女の指が妙な音をたて、強く握られた。
同時に吸い尽くしたはずの魔力がジワジワと溢れ出してくる。

ええい、もう一度吸い取れ!

象の鼻が言われた通りに動きはするが、すでに容量は一杯のようで上手く吸い取れない。
おまけにレイリーが放つ殺気と魔力は膨大で、その場にいた悪魔たちは次々と逃げ出してゆく。

ひ、ひぃ……!!

ぱきぱき。
レイリーのもう片方の手が握られ、ゆっくりと開かれる。
やおら持ち上げられたかと思うと、その手に魔力が集中し始めた。
辛うじて残っていた悪魔たちも怯えの表情が隠せない。
魔力に対して人間より遥かに敏感な悪魔たちであるからこそだった。

レイリー

…………

そして何やら彼女が呪文を口にしようとした、まさにその時割って入った人物がいた。

ストップ、ストーーーップ!!

漆黒の翼に足元は蹄。しかし美しい女性の姿をした悪魔だった。
その面立ちは、先ほどのデスデモナによく似ている。

この場はディアボルス・アングレイトが預かるわ。
異論は聞かないから

彼女がそう宣言しレイリーの腕を掴むと、レイリーは無言のまま崩れ落ちた。
恐ろしいまでの殺気と魔力は見る影もなく、レイリーは腕を掴まれたままスヤスヤと寝入っていたのだった。

――魔界のはずれ――

まったく、小間使い扱いはやめて欲しいわ。
こっちはサバトが終わったばかりで疲れてるっていうのに

デスデモナ

あっ、いたいた。お待たせポルカ

ポルカ

デスデモナ! ようやく来た~。
もう、半端に放り投げていなくならないでよね

デスデモナ

ごめんごめん。ファンがしつこくてさー。
てっきり一人だと思ってたし、呪文を教えたから自力で帰るかと思ったのよ。
……他の四人は?

ポルカ

もう現世に帰したわよ。残りの二人も今送るところ

デスデモナ

呑気なもんね、スヤスヤ寝ちゃって。
私たちがいなければあんたら今頃悪魔のお腹の中よー?

ポルカ

主にあたし、ね

デスデモナ

だから私も大変だったんだってば

ポルカ

はいはい。それじゃ送るわよ

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