――キルケー魔法女学園 中庭――
――キルケー魔法女学園 中庭――
放課後。
教室の喧騒を遠くに感じながら、サニーは中庭を歩く。
何度も辺りを見回しながら、やがて立ち止まり、芝生に寝転ぶ。
古めかしい魔法書を、大切そうに抱えながら。
そして空を流れる雲を見つめながら、ぼんやりとつぶやいた。
学園長って、どこに行ったら会えるのかなぁ……
呼んだかしら?
ひぇっ!?
こんにちは、サニー・ウィッチ。今日もいい天気ね
学園長!!
いつかと同じように突然聞こえてきた声に、サニーは慌てて起き上がる。
相変わらず元気そうね。最近はどう?
よかった、アタシ学園長に話したいことがあって!
ふふふ。それも相変わらずね。今度は何?
この魔法書……ありがとうございました
あら。もういいの? 目的は果たせた?
……いえ
寂しそうに首を横に振るサニーを見て、キルケーは黙ってその次の言葉を待った。
魔界には、行けました。でも――
……捜してる悪魔には会えなかった?
はい……
そう
向こうの知り合いに、あなたたちを助けるようにお願いしたんだけど、
その人には会えたかしら?
あっ、はい。そっか、学園長の知り合いだったんですね。
おかげで無事に帰って来られました。ありがとうございます。
みんなも『大変だった』とは言ってたけど、
初めて行った魔界が印象的だったみたいで。珍しく怒られませんでした
よかったわね、いい経験になって
はい……。
――実はその、デスデモナさんは……アタシを助けてくれた悪魔によく似ていて
あら、そうなの?
同じ人かと思いました。
でも覚えてないみたいだったし、ちょっと雰囲気が違ってて
…………
たぶん、違う人なんだと思います。
でも少しやる気が出ました。見つけるのは不可能じゃないんだってわかったから
……ええ
自分に何が足りないかもよくわかったし。
もうちょっと、頑張ってみます
握り拳を作り意気込んだサニーを見て、キルケーは柔らかく笑った。
そして優しく、サニーの頭を撫でてくれる。
……そう……
……? 今の――
頭に残った感触を、サニーが不思議そうに確かめていると。
いつの間にかまたキルケーはいなくなっていた。
…………
魔法書も、いつの間にかなくなっている。
神出鬼没なこの学園の長を思い浮かべながら、サニーはまた芝生に寝転んだ。
学園長は、アタシにチャンスをくれた。
落ちこぼれのアタシに
みんなもアタシを助けてくれた。
それをアタシが無駄にするわけにはいかない
――魔女に、なるんだ。
落第はしない。必ず進級して魔女になる
そうすれば、いつか――……
サニーはゆっくりと目を閉じる。
今までおぼろげで見えなかった未来が、今、見えた気がした。