――キルケー魔法女学園 中庭――

放課後。
教室の喧騒を遠くに感じながら、サニーは中庭を歩く。
何度も辺りを見回しながら、やがて立ち止まり、芝生に寝転ぶ。
古めかしい魔法書を、大切そうに抱えながら。
そして空を流れる雲を見つめながら、ぼんやりとつぶやいた。

サニー

学園長って、どこに行ったら会えるのかなぁ……

呼んだかしら?

サニー

ひぇっ!?

キルケー

こんにちは、サニー・ウィッチ。今日もいい天気ね

サニー

学園長!!

いつかと同じように突然聞こえてきた声に、サニーは慌てて起き上がる。

キルケー

相変わらず元気そうね。最近はどう?

サニー

よかった、アタシ学園長に話したいことがあって!

キルケー

ふふふ。それも相変わらずね。今度は何?

サニー

この魔法書……ありがとうございました

キルケー

あら。もういいの? 目的は果たせた?

サニー

……いえ

寂しそうに首を横に振るサニーを見て、キルケーは黙ってその次の言葉を待った。

サニー

魔界には、行けました。でも――

キルケー

……捜してる悪魔には会えなかった?

サニー

はい……

キルケー

そう

キルケー

向こうの知り合いに、あなたたちを助けるようにお願いしたんだけど、
その人には会えたかしら?

サニー

あっ、はい。そっか、学園長の知り合いだったんですね。
おかげで無事に帰って来られました。ありがとうございます。
みんなも『大変だった』とは言ってたけど、
初めて行った魔界が印象的だったみたいで。珍しく怒られませんでした

キルケー

よかったわね、いい経験になって

サニー

はい……。
――実はその、デスデモナさんは……アタシを助けてくれた悪魔によく似ていて

キルケー

あら、そうなの?

サニー

同じ人かと思いました。
でも覚えてないみたいだったし、ちょっと雰囲気が違ってて

キルケー

…………

サニー

たぶん、違う人なんだと思います。
でも少しやる気が出ました。見つけるのは不可能じゃないんだってわかったから

キルケー

……ええ

サニー

自分に何が足りないかもよくわかったし。
もうちょっと、頑張ってみます

握り拳を作り意気込んだサニーを見て、キルケーは柔らかく笑った。
そして優しく、サニーの頭を撫でてくれる。

キルケー

……そう……

サニー

……? 今の――

頭に残った感触を、サニーが不思議そうに確かめていると。
いつの間にかまたキルケーはいなくなっていた。

サニー

…………

魔法書も、いつの間にかなくなっている。
神出鬼没なこの学園の長を思い浮かべながら、サニーはまた芝生に寝転んだ。

サニー

学園長は、アタシにチャンスをくれた。
落ちこぼれのアタシに

サニー

みんなもアタシを助けてくれた。
それをアタシが無駄にするわけにはいかない

サニー

――魔女に、なるんだ。
落第はしない。必ず進級して魔女になる

サニー

そうすれば、いつか――……

サニーはゆっくりと目を閉じる。
今までおぼろげで見えなかった未来が、今、見えた気がした。

14-3│面影を追いかけて

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