――魔界 オロバスの街 池のほとり――

もちろん逃げ出す際にサニーとレイリーを見捨てるはずはなく、ナタリアが二人を肩に担いで連れ出していた。
ひとまず体勢を整えて、その後門を開く算段らしい。

サニー

は~……まさか魔界にこの面子が集まることになるなんてさぁ

レイリー

そもそも魔界へ来る予定はなかったんですが……。
にしても私たちがこちらに来ているとよく気付きましたね?

エマニュエル

夕食の時間になっても二人が見当たらないから、おかしいと思ったんです。
それでいてサニーの部屋にあの魔方陣があるわけですから、気付かないほうがおかしいでしょう

サニー

そっか。わざわざ助けに来てくれてありがとー

エマニュエル

あのままじゃ二人とも悪魔の餌食でしたからね。やむを得ませんわ

ナタリア

閃光弾を持ち込んで、段取りを決めて突入したからなんとかなったね……。
ひとまず作戦は成功かな……

サニー

なんで閃光弾なんか持ってんの

ナタリア

わたしの部屋に色々あるよ……?

ヴェロニカ

悪魔を好きなだけ切り離していいって言ってたのに。
そんな暇なく逃げてきたからつまんない

チズ

それは最終手段だからな、アニー。とりあえずナイフをしまえ

ヴェロニカ

も~。つまんないつまんない~

レイリー

でもとにかく、これで現世に戻れますね。
現世へ戻るための呪文がわからなくて困ってたんです

ヴェロニカ

え?

サニー

ん? だから、呪文

チズ

何?

レイリー

ですから、呪文

エマニュエル

……もちろんお二人が覚えてますわよね?

サニー

あはは、まさか。
あんな長い呪文覚えられるハズが――

レイリー

……まさか……

ナタリア

そんなまさか……

サニー

…………

サニー

なんで呪文書いてあるノート持ってこないのさああああ!?

エマニュエル

知りませんわよ!
まさか帰るための呪文を覚えずに魔界へ行っただなんて思いませんもの!!

レイリー

あああああああ……絶望です……

ヴェロニカ

えー? さっきの門へもう一度入ればいいんじゃないの?

レイリー

今戻っても門は消えていると思います。
術者が門の近くを離れると、自然に消えるようになっているんです

チズ

逃げる途中振り返ったが、確かに門は消えてゆくところだった

ヴェロニカ

あははは何それ、めんどくさ~い☆

ナタリア

えっ……じゃあ、現世に戻れないの……?

ナタリアの言葉で、一同の空気はさらに暗く沈む。
魔界遭難者が二人から六人に増えてしまった。

サニー

な、仲間が増えて心強いね!!

レイリー

強引にフォローを入れても虚しいだけです……

そしてまた一段と空気が沈む。
加えて魔界の異質な雰囲気が、彼女たちを余計不安にさせていた。

サニー

――でもさ。方法がないわけじゃないよ

サニーのひとことに、全員が一度は伏せた顔を上げる。

レイリー

何か別の手立てが?

サニー

一か八かだけど、何もしないよりはいいと思う。
そもそもアタシが魔界に来たのは理由があって……

サニーはそう切り出して、皆にも『恩人の悪魔』の話をした。
半信半疑ではあるようだが、友人たちはただ黙ってその話を聞いてくれた。

サニー

――悪魔すべてが敵じゃないと思うんだ。
中にはアタシが会った悪魔のように、アタシたちを助けてくれる悪魔もいるかもしれない

ナタリア

助けてくれる悪魔を探すってこと……?

サニー

うん。それに……さっきアタシが捜していた悪魔によく似た人を見かけたんだ。
あの人がもし、アタシが出会った悪魔と同じ人なら――
あの時と同じようにアタシたちを助けてくれるかもしれない

エマニュエル

……虫のいい話ですわねぇ

ヴェロニカ

いーじゃない。他にいい案あるの~?

チズ

ないな。このまま魔界で朽ちる人生ばかり頭を過ぎっていた

レイリー

……仕方ないですね。サリーの言う悪魔を捜してみましょう。
その悪魔はどちらへ歩いて行ったんですか?

サニー

街の中央の方へ行ったよ

レイリー

中央ですか……。
先ほどの騒ぎもありますから、人間が街に入り込んだと噂が回っているかも

ナタリア

……危険だね……さっきみたいに切り抜けられるとは限らないよ

エマニュエル

――ふふん。
そこはわたくしにいい考えがありますわ!

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