第十三話 現世と魔界の門

――魔界のはずれ――

レイリー

はぁっ、はぁっ……。
やっと、着いた……けど……っ!

サニー

悪魔が……門に群がってる!

サニーとレイリーが魔界へと放り出されたその場所へ舞い戻ると、空中に見覚えのある魔方陣が浮き上がっていた。


その周囲には大量の悪魔が集い、その門を通じて現世に渡ろうと四苦八苦している。

レイリー

間違いありません、私の書いた魔方陣です!

サニー

じゃあ術者であるアタシがあれに触れれば、現世に帰れるかもしれない……だったよね?

レイリー

はい。出来なくても責任は取りませんけど

サニー

でもさっきはなかったのに、どうして今頃――あっ!!

サニーが指差したその先は魔方陣の中央部。
なぜならそこにぼんやりと、見慣れた顔が映し
出されていたからだ。

サニー

えっ、なんで夫人の顔が見えるの!? 幽霊? 怨霊? それともアタシの妄想?

レイリー

私にも見えますよ、ちゃんと。
ということはきっと……夫人が向こうから門を開いたんです!
すでに魔方陣はありますから、ノートを見て呪文を唱えれば簡単なはずです

サニー

そ、そっか。何にしても助かったね

レイリー

夫人の後ろにチズたちの姿も見えますね……って悠長なこと言ってる場合じゃありませんね。
門に入るにしても、周りにいる悪魔を何とかしないと。彼らはあれが現世への門だと知ってるようだし。
どうします、サリー。悪魔を追い払うためには……

サニー

そんなの……やるしかないじゃん! 行こうっ

レイリー

サリー!? 何を――

レイリーが驚く間もなく、サニーは門の方へ全力で走っていく。
群がる悪魔の隙間を縫うようにしてひた走り、時に進路を邪魔する悪魔を蹴り飛ばす。

サニー

邪魔なんだよアンタら! ちょっとどいてッ!!

サニーは特別格闘技を習っているわけではないし、タフさだけが取り柄の魔女見習いだ。

そのサニーの蹴りであるから、致命傷を与えるわけでもなく不意打ちで悪魔がよろめく程度。
当然すぐ悪魔に取り押さえられそうになる。

レイリー

あああもう何も考えずに突っ込んで……!

慌ててレイリーは呪文を唱え始める。
この場で使えそうな魔法。サニーを助けることが出来る魔法。
すぐに発動し、効果が期待出来るもの――。

レイリー

なんでもいいから足止めを!

レイリーが右手を翳した瞬間、サニーへと手を伸ばした悪魔たちの足が岩で固められる。
動きを止めるには十分な魔法だった。

サニー

サポートありがと、レイリーも来なよ!

レイリー

行けるわけないじゃないですか!! ……サリー、前!

一気に門へ近づこうとした彼女の視界を、一際大きな悪魔が遮る。
サニーの三人分はあろうかという巨体だ。

サニー

もー、どいてよ! それはアンタたちの門じゃないでしょ!?
どりゃああああっ!!

怒りを込めて、サニーが蹴りを入れる。
しかしその身体はビクともせず、足を掴まれてしまった。

サニー

ちょ、ちょっとぉ!! 離してっ、このっ

レイリー

あわわわわっ

慌てて追撃の呪文を唱えようとしたレイリーだったが、魔法を使ったために悪魔たちに存在を気付かれてしまった。
襲ってくる悪魔を凌ぐのに精一杯で、サニーのサポートにまで回れない。

サニー

うえぇ~~~ピンチってヤツ?

レイリー

さっきからずっとピンチですぅ!!

サニー

どうしよう、アタシはレイリーみたいに上手く魔法も使えないし……
えっと、えっと……!!

回らない頭を必死に回転させていた、その時。

ドスン、と派手な音が響き、サニーの足を掴んでいた悪魔の巨体が揺らいだ。

サニー

……!

エマニュエル

女の子の足を掴むだなんて、紳士からは程遠いですわよ

チズ

紳士も何も、そもそも人間ではなく悪魔だな

ヴェロニカ(アニー)

悪い子はおしおきしちゃうよ~

ナタリア

わっ、わっ……こんなに悪魔がたくさんいるなんて……!

どすん、どすんと順に友人たちが空中の門から悪魔の頭上に降りてくる。
それが効いたのか、巨体の悪魔はサニーの足を離して地面に伏せてしまった。

サニー

ありがと、助かった~。
って、みんなまで魔界に来なくても

チズ

この場を切り抜けてから言うんだな。まずはこいつらをなんとかしないと

セリフを言い切るより早く、チズは履いていた靴を脱ぎ地面に放り投げる。
そして宙を飛ぶ翼を持つ悪魔たちを凝視した。

チズ

さすがにこの数は――骨が折れる――

ぎゅるりとチズの瞳孔が小さくなり、空にいた悪魔たちが重りをつけられたように次々と落下する。

ヴェロニカ

出た~、チズの十八番~☆

サニーたちも久々に見た、チズの超能力だった。

超能力者であるチズは能力を使う時、決まって靴を脱ぐ。

チズ

ナタリア、後はきみだ

ナタリア

う、うん。行くよ……!

声をかけられたナタリアはいつの間にかゴーグルと耳栓を装着している。
そしてエマニュエルたちもポケットから耳栓を取り出して身につけた。
その間にナタリアは懐から筒状のものを取り出し、悪魔たちのより集まるところへ投擲した。

瞬間、目もくらむような光と爆発音が辺りを支配する。

サニー

うわ!?

レイリー

!?

エマニュエル

今ですわっ

サニーとレイリー、そして彼女らを取り囲む悪魔たちは光と音で動きを封じられる。
エマニュエルたちはしっかり目を閉じ耳栓をしていたおかげで、悪魔たちよりも早く行動することができた。
そんな風にして彼女らは、悪魔の包囲網を抜け出したのだった。

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