第3話
22時に突然鳴った電話は、公衆電話からではなく、
すでに登録してあった篠田の携帯電話からの着信であった。春香は自宅でその電話を取った。
第3話
22時に突然鳴った電話は、公衆電話からではなく、
すでに登録してあった篠田の携帯電話からの着信であった。春香は自宅でその電話を取った。
篠田さん、どうされました?
はぁはぁ・・・。
夜分にすまないね。今日もらったビクトーザなんだけどさ。
えぇ、ビクトーザがどうかされましたか?
んっ、これって、食前食後どっちに打てばいいんだっけ?
どちらでも大丈夫ですよ。
そうですか。はぁはぁ・・・。
・・・。
どうして、はぁはぁ言っているんだろう。
あと、これっていつも冷蔵庫いれておかなきゃいけないかな?
んぁっ!
!?
「んあっ」て声は、何!?
一体何をしているの???
一度開封したら、常温で大丈夫ですよ。
そうですか。わかりました。ふぅ・・・。
篠田さん、電話の向こうで何をしているの?
気になる・・・。
どうしても気になる・・・。
ここは、勇気を出して聞いてみるしかない!
し、篠田さん?どうしたんですか?
息が切れていますけど。
あっ、筋トレ中に電話しちゃってすいません。
今、ベンチプレスやっているのですよ。
ふぅ。30回終わった・・・。
き、筋トレ・・・。
そ、そうですか・・・。
朝倉さん、薬の事教えてくれてありがとう。
夜分にすまなかったね。
いえ。また何かあったら電話してください。
あぁ、よろしくお願いします。んあっ。
それでは、失礼します。
さぁ、次は腹筋100回だ!!
ガチャ・・・。
ツーツーツー。
筋トレしながら電話するって・・・。
明日、久美子先輩に報告しておこう。
翌日、クローバー薬局にて。
うーん、筋トレねぇ。
なんだか、腹筋100回してるとか・・・。
変な事をしていたわけじゃないのでしょう?
じゃぁ、いらずら電話は誰からなのかしら。
わかりません・・・。
その週の金曜日の夜にも、無言電話はかかってきた。
はぁはぁはぁ・・・。
もしもし?
・・・。
クローバー薬局みなとみらい店、薬剤師の朝倉です。
・・・。
ガチャ・・・。ツー、ツー、ツー。
・・・。
変なの・・・。
そして、また篠田が来局してきた。
篠田さん、おかげんはいかがですか?
血糖値はおかげさまで順調だよ。
ただ、最近会社に人の出入りが多かったり、接待も多くて飲み会続きでね、
ついつい飲み過ぎちゃうのです。
そうですか〜。
たまには休肝日を設けないと、ダメですよ。
そうなのですけどね、来週は毎日酒の予定が入っちゃってまして。
そうなんですか。大変ですね。
こう見えて、体育会系の職場なので、お酒からは逃げられないんですよ。
まぁ、飲み過ぎないよう気をつけます。
お願いしますね。
あっ、それとビクトーザなんですけど、
ここのダイアルやっぱり固くないですか?
ちょっと見てみてくれませんか?
はい。
篠田が春香にビクトーザを渡そうとすると、
ひゃっ!!
篠田の手が春香に触れ、春香は過剰に反応し、ビクトーザを落としてしまった。
おっと、失礼。
篠田は、ビクトーザを拾うと、春香に手渡した。
落ち着いて・・・。
篠田さんは、そういう人じゃない。
たぶん・・・。
このダイアルなんだけどね・・・。
は、はいっ!
どうしました?大丈夫ですか?
な、何でもないです。
落ち着いて、わたし。
ただ、手が当たっただけじゃない。
もともとビクトーザはダイアル硬いので、これくらいかと思います。
へぇ、こんなもんなんですね。
押し切れなかった事ありましたか?
いや、使えるんですけどね。
そうですか、わかりました。
お大事になさってください。
お酒は飲みすぎないようにしてくださいね。
ありがとう。
気をつけるよ。
そう言って、篠田は帰って行った。
春香、どうだった?
え?え!?
別に・・・。
そう。
さっきは手が触れただけだし、ただそれだけ。
手を握られたわけでもないし・・・。
報告するような事じゃないよね。
そして、その金曜日もまた公衆電話から電話がかかってきた。
はぁはぁはぁ・・・。
もしもし・・・。
はぁはぁはぁ・・・。
もしもし?
・・・。
これは、いたずら電話ね。
ここで、ちゃんと言わなきゃ。
あの、いいかげんにしてください!!
いつも、無言電話やめてください!!
気持ち悪いんです!!
朝倉さんか?し、篠田です・・・。
え!?
し、篠田さん!?
4話へつづく。