特別編・7(全11回)
特別編・7(全11回)
今回のお話の主人公:サララ
場所:魔界某所
時期:第31幕の直後
突然、ご主人様であるデリン様の気配が
感じられなくなった。
でも命を落としたということではないと思う。
だって私は使い魔だから、
もしそうであれば力や生命力が弱まるなどの
もっと明確な影響が出るはずだから。
つまり封印や石化、
あるいは私の知らない何かが起きたのだろう。
いずれにしても、
何かがあったことには違いない。
いったい、誰にやられたのかな……。
確かにご主人様には、
種族を問わず敵がたくさんいる。
命を狙われていてもおかしくない。
ただ、ご主人様は末席とはいえ、
魔王様の四天王のひとり。
正面からぶつかって負けるはずないし、
たとえ不意を衝かれたとしても
そう簡単にやられるはずがない。
と、とにかく探し出して
お助けしないと。
……ご主人様は
『余計なことをするな』って
怒るかもだけど……。
まずは気配が消えた場所へ行ってみよう。
――でも平界なんだよね。
つまり転移魔法を使わないと
どれだけ時間がかかるか分からない。
それに急がないと、
手がかりがなくなってしまったり
今より事態が悪化したりするかもしれない。
迷ってる余裕はないか……。
私は洗濯物を取り込んだり、
急ぎの仕事を済ませたりしてから
家の中にある『儀式の間』に入った。
もちろん、
着替えや色々な道具を詰めたカバンを持って。
だって旅をすることになるかもしれないから。
うぅ……不安だよ……。
私は転移魔法を覚えたばかりで、
成功率は1割くらい。
失敗して底なし沼の上へ
移動しちゃったこともあったし……。
でもその時、
ご主人様が助けてくれたんだよね。
みんなには冷徹で非情なご主人様が。
ふふっ♪
思い出したら、胸の奥が熱くなってきた。
いつもドジな私を
なんだかんだでご主人様は助けてくれる。
本当は優しいんだって私は知ってる。
ご主人様がピンチなら、
私が命をかけてでも
お助けしますっ!
私は気合いを入れるため、
パンパンと手で頬を思いっきり叩いた。
……痛い。力を入れすぎた。
頬が熱を持ってジワジワしてる。
それに滅多に出さない大声で叫んだせいか、
少し目まいもしてきた。
急激に興奮するのはやっぱり良くないな。
普段からハイテンションなら、
少しは体も慣れているんだろうけど……。
もし倒れて頭を床に打ち付けちゃったら大変。
当たり所が悪かったら、
今以上に物忘れが酷くなっちゃう。
さて――
私は『儀式の間』の床に描かれている
魔方陣の上に載った。
そして大きく深呼吸をして心を静かに。
転移する場所はデリン様の気配が消えた場所。
それをしっかりイメージして、スペルを――
――あれ?
スペルってどうだったっけっ!?
私はポケットを探り、
スペルが書かれたメモ帳を取り出した。
これには自分が使える魔法のスペルが
全部メモしてある。
なかなか暗記ができないんだよね……。
えとえと、転移魔法のスペルは――
世界の狭間を結ぶ道、
空間を統べる大いなる存在、
我にその力の一端を示せ……。
私がスペルを読み終えた瞬間、
魔方陣から光があふれ出した。
そして浮遊感とともに気分が高揚してくる。
でもその直後、
不意に目の前に青空が広がったかと思うと、
落下するような感覚があ――
はぅ……。
気がつけば私は噴水の中に落ちていた。
周りを見回してみると、
そこは私の住んでいる家がある村の中。
近所の人たちが目を丸くして私を見てる。
中にはクスクスと笑っている人や
蔑むような目を向けている人までいる。
あぁ、また転移魔法に失敗した……。
…………。
私は噴水から上がり、
髪や服に染みこんだ水を落とした。
服も下着も靴も、
カバンなんて中に入っている物までビショ濡れ。
こうなると家に戻って、
出かける支度をし直さなければならない。
私は深いため息を漏らすと、
トボトボと家まで歩いて戻った。
――それと似たようなことを繰り返して6回目。
私はようやく転移魔法に成功し、
平界にある洞窟の入口に移動できたのだった。
待っててくださいね、ご主人様っ!!
次回へ続く!