ウェンディの告げた『面白い話』という言葉に
ミューリエはピクリと眉を動かした。
彼女の胸の中では
期待と不安が複雑に入り交じる。
ウェンディの告げた『面白い話』という言葉に
ミューリエはピクリと眉を動かした。
彼女の胸の中では
期待と不安が複雑に入り交じる。
私にはね、アレス様の力が
とてつもなく大きいと
ハッキリ感じられたんだよ。
審判者だからなのかねぇ……。
おそらくアレス様は
アレク様と同等か、
それ以上の大勇者様へ成長なさる。
元・魔族のお前には
信じられないかもしれないけどね。
…………。
あまりアレス様の力を
舐めない方がいい。
その気になれば魔界もこの世界も
支配できるほどの力さ。
アレク様とは
違うタイプの力だけどね。
まさか……。
ミューリエは思わず声をあげてしまった。
今のアレスを見れば、
そんなことは天地がひっくり返ったとしても
ありえない。
だが、心の片隅では
それを否定しきれない想いがあるのも
事実だった。
なぜなら、人間の持つ『可能性』という
底知れぬ大きな力を
身をもって知らされていたからだ。
そう思わせるきっかけとなったのが、
誰あろう伝説の勇者アレク。
そしてアレスはその血をひく者なのだ……。
幸いだったね。
アレス様はお優しいから
そんなことはしないだろう。
だが、アレス様も人間。
この先、何かのきっかけで
道を踏み外すことが
あるかもしれない。
せいぜい逆鱗に触れないよう
気をつけることだ。
その不気味なウェンディの微笑みに
ミューリエは得も言われぬ寒気がした。
ただ、それを悟られないように平静を装う。
まぁ、タックがそばにいる。
いざという時はアイツが
なんとかするだろうけどね。
どういう意味だ?
タックは本当の意味で
アレク様に選ばれた
『審判者』なんだよ。
っ?
大きな力は諸刃の剣。
勇者様の力は、まさにソレさ。
もし勇者様の子孫が暴走すれば
世界は危機に瀕することになる。
だからアレク様は
それを止める役目を持つ者が
必要だとお考えになった。
――それこそが審判者!
なっ!?
衝撃の事実を知らされ、
ミューリエは大きく息を呑んだ。
つまりもしアレスが非道な行為に及んだ場合、
タックはそれを止める役割を
担っているということになる。
状況によってはアレスの命を奪うということも
あり得るということだ。
確かにアレスがあの不思議な力を極め、
それを悪用すれば世界征服も不可能ではない。
今はその心配がなかったとしても、
いつか心変わりしないとも限らない……。
アレク様はそのための
決定的な力を
タックに預けて逝っている。
私らほかの4人の審判者たちは
タックを補佐する程度の力しか
受け継いでいないけどね。
その話、残りの審判者たちは
知っているのか?
さぁね。
代替わりの時に何も伝えず、
墓場へ持っていったヤツも
いるかもしれない。
…………。
安心しなよ。
その力は本当に必要な時しか
発動しない。
それにタックはアレス様のことを
アレク様以上に気に入っている。
もしかしたら、その時が来ても
力を行使しないかもしれない。
ありえるな……。
思わずミューリエの表情が緩んだ。
タックは自分の役割を抜きにして
アレスのことを慕っている。
自分の命さえ投げ捨てて守ろうとしたほどだ。
一緒に旅をしてきたミューリエにとって、
2人の絆はほかの誰よりも分かっている。
審判者としては先行きが不安だが、
それもまたタックらしい。
優しき心と温かさがある。
そうだな。
そんなタックだからこそ、
アレク様に審判者として
選ばれたのかもしれんな。
ふふっ♪
お前にこの話をしたのは、
私の寿命が近いからだ。
若者たちを見守ってやれる時間は
ほとんど残されていない。
ウェンディ……。
アレス様を、タックを、
これからの勇者様の子孫たちを
見守ってやってくれぬか?
……言われるまでもない。
これも私の背負うべき
業だろうからな。
命ある限り、見守っていく。
そしてこれはきっと
アレクの導きなのだろう。
アイツはこうなることも
予測していたのかもしれん。
ふふ、どうだかね。
ミューリエとウェンディは
初めてわだかまりなく笑い合った。
こうして新たな約束を交わしたミューリエは
第2の試練の洞窟を出発し、
急いでアレスたちのあとを追うのだった。
特別編・6
1.ミューリエの本意
2.勇者の感覚
3.受け継がれていく想い
終わり
あーもうウェンディさんがヒロインで良いんじゃないw
もう…なんかウェンディさんの包容力がw