――魔界 オロバスの街 中央通り――

相手が足の遅い悪魔だったことが幸いして、サニーとレイリーはなんとか逃げ切ることができた。

しかし二人が自然と明るいほうへと逃げてしまったことで、たどり着いた先は――。

サニー

ここって、悪魔の街?

レイリー

そうみたいですね。少し荒れてるけど、まるで中世あたりの人間の街みたい……

近代的とはとても言えないが、それなりの建物がならんでいた。
住み心地も悪くなさそうだし、時折聞こえる奇っ怪な声以外は特に変わったところもない。

レイリー

街灯もちゃんとあるし、道路も舗装されてる。
すごいですね……この灯り、火でも電気でもなさそうですけどいったい何が燃えてるんだろう

サニー

レイリー、こっち!

フラフラと通りに出そうになったレイリーを引き戻し、二人は物陰に隠れる。

レイリー

すみません、つい

サニー

アタシはいいんだけどさ。
悪魔に見つかったらまた襲われるかもしれないって言ったのはレイリーでしょ

レイリー

ええ。バレないように、安全な場所を探さないと

サニー

でも安全な場所なんてあるのかなぁ。
これならさっきの場所のほうがまだマシなんじゃない?

レイリー

あの気持ちの悪い悪魔がまだいるかもしれませんよ?
それどころか仲間を呼んで来てるかも

サニー

あはは、あるある~

レイリー

あるある~じゃありませんよ。本当に、どうしよう……。
本来なら私たちが通った『門』があそこにあるはずで、その門に触れれば帰れる可能性もあったのに

サニー

えっ、呪文がわかんなくても帰れるの?

レイリー

可能性の話ですよ。魔界へ来る時、サニーが魔方陣に触れただけで門が開いたでしょう?
帰りも同じように出来ないかなって思っただけです。確信はありません

サニー

なるほど。でも、門は見当たらなかったよね

レイリー

だから困ってるんじゃないですか……。
呪文もわからない、門も見当たらない、じゃ八方塞がりです……

サニー

困ったねー

レイリー

全然困ってるように聞こえないんですけど!

もちろんサニーも困惑し、不安を抱えてはいた。
しかし依然といつも通りに明るいのは、これが好機だとも思っているからだった。

サニー

でも、魔界に行くこと自体は成功したんだ。
学園長がアタシにあの魔法書を貸してくれたのは――
魔界に行って自分で『あの悪魔』を捜してこいってことだよね

レイリー

……サリーが考えていること、わかりますよ

サニー

レイリー

せっかく魔界に来たんだから、ついでにその……
サリーを助けてくれたっていう悪魔を捜してみようとか思ってるでしょ

サニー

なんでわかったの!?

レイリー

顔に出てるんです、表情にぜんぶ

サニー

マジか……

レイリー

気持ちはわかりますけど、今回は様子を伺うだけにしましょう。
私たち魔界がどういうところかさえも知らないんですから

サニー

わ、わかってるよ。でもちょっとだけ! さきっぽだけ!

レイリー

さきっぽどころか丸ごと魔界に来ちゃってますから!

二人で言い合っているうちに、遠くから喧騒が聞こえてくる。

どうやら悪魔の集団がこちらに近づいて来ているようだった。
軒先に置かれた大きな壺の影に紛れて、サニーとレイリーは身を潜める。

レイリー

見るからに、異形の悪魔たちですね……。
先ほどの悪魔とは違って会話してますから、下位ではないのでしょう

牛の頭をした悪魔、身の丈がサニーの腰辺りまでしかない顔のない悪魔、薄汚い布から黒く細い手足だけを出した悪魔。

サニーたちにはまったく気付かず、下卑た声をあげて笑った。

げひひひ! だから言っただろ、落とした首の数じゃオレの勝ちだって

数なんかどうでもいい。全部まとめて潰しゃいいんだ

おぉイヤだイヤだ、これだから牛頭は。力任せじゃつまらないだろ

あぁ? オマエとは違うんだよ。クズ悪魔の首をいくら並べたって面白くもねぇ。
それよりよく鳴くヤツらを集めて声の大きさを競うんだ

断末魔の叫びをか? それも悪くないけどなぁ

……クズアクマ、ツマラナイ。ヤッパリ、ニンゲン

それだな! げひひふふッ!!

そんな会話をしながら三人の悪魔は通り過ぎていく。
壺の影に隠れた人間のサニーとレイリーは、悪魔たちが去ったのを確認して口を開いた。

サニー

うわぁ……どん引き

レイリー

…………

サニー

大丈夫? 顔色悪いよ

レイリー

大丈夫、です

二人は場所を変え、人気のない高台を探して歩き回った。
およその地形を知っておこうということになったのだ。

そして隠れるのに良さそうな場所、現世に帰るためのヒントになりそうな物を探す。

レイリー

魔界から現世へ、悪魔たちが自ら行くことはないんでしょうか

サニー

ゼロじゃないよね。魔界の本屋さんとかにそういう本置いてないかな

レイリー

あるかもしれませんよね。その本をどう手に入れるかはまったくの謎ですけど

サニー

あー、現世に繋がる電話とかがあればよかったのになー

レイリー

電話とまでは行かなくとも、何らかの通信手段があったりしませんかね……

藁をもつかむような話だが、とにかく可能性を探るしかなかった。

レイリー

――今のサキュバスたち、怖いほど綺麗でしたね。
人が魅入られるのもわかります

サニー

でもあの中にアタシの探してる人はいなかったな……

レイリー

そんなに綺麗な悪魔なんですか?

サニー

うん。すっごくね

サニー

見てよレイリー! ここの店のランプ、妖精が閉じ込められてる……!

レイリー

かわいそう……綺麗ではありますけど

サニー

もしかしてあの街灯のひとつひとつにも妖精が閉じ込められてたりして

レイリー

怖いこと言わないでくださいぃ~……

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